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充溢 第一部 第十三話

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第13話・3/6


 辛い道を上がった。ポーシャはネリッサと、私はマクシミリアンと組みで馬に跨っている。
 ネリッサも何やら柄モノを担いでいる。長い剣だ。いざという時は、それを振り回せるのかと、揺れる背中で妄想が膨らむ。

 丘の上り坂が一段落付くと、黒く染まる鐘楼が見える。杏色の穏やかな壁が、死の色に染まっている。煤の付き具合で、どこを炎が舐めたのか知る。積極的にこれを燃やす意志があったのが見て取れる。

 門前に来ると、その先の暗い世界とは対照的に、壁と道の砂礫が明るく輝く。修道院へ続く道が招き寄せるように黒い口を開いている。
 鐘は脱落し、建物の屋根は焼け落ている。縦横する石積み、土壁は迷路の有様だ。
 いくつもの足跡が見える。ポーシャは人を使って、あれこれ調べたようだ。火元や原因は調べが付いているに違いない。

「ポーシャ様、こちらです」
 ねじ曲がった燭台の奥の一角を差す。床に残るタール状の跡が生々しい。
「他の外傷はなかったのだな?」
「はい」
 ポーシャは一点を凝視して、動かない。
 彼女に心を合わせる。あの夫婦の最期から目を離してはならない。ここで二人の人間が死んだ。
 銅の燭台が曲がると言う事は、摂氏二百度をゆうに超えていただろう。タンパク質は元より脂質も分解する温度だ。煮え立つ皮膚――人間の悲しきほどの壊れにくさが、最期まで彼らを苦しめただろう。

「初めて出逢った日は彼らも子供でな。数日の逗留だったが楽しかったよ。本気で子供で居られる。
 そして、次の思い出は彼らの孫がいた頃だ。いつでもあの頃に戻りたいな」
 一陣の風が走り抜ける。草原の青い匂いが黒と白の匂いをぬぐい去る。
「私、漠然と勘違いしていたかも知れません。
 ――達観されているのかと」
「見くびられたな」
 寂しい照れ笑いだ。
「確かに、お前の考える儂の苦しみは苛烈だ。しかし、必要なのはこの瞬間だ。
 長生きしていれば、また新しい人にも出会える。今更この身体を呪ってどうする。
 想像するがいい。ネリッサが誰か素敵な人と子供を作ったとしよう。そして、その子供がまた儂に仕える日が来るかもしれない事を。
 儂は平気だ」
 にんまりとするが、どこか影がある。こんな年寄りが言う気休めのような答えが本心だろうか?
「私では不足でしょうか?」
「何を突然。
 変な事で覚悟しようと考えるなら、自惚れるな。
 儂を見て、憧れるような馬鹿な子でないはずだ」
作品名:充溢 第一部 第十三話 作家名: