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それぞれのクリスマス・イヴ

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娘の住んでいるアパートの前で、男はチャイムを鳴らすのをためらった。手ぶらである。それもクリスマス・イヴの日に。普段から頻繁に行き来している訳でもなく、お金を借りに来て、返すだけの訪問。やはり帰ろうと歩きかけたところに娘と孫が帰ってきた。

娘の顔が一瞬あらっというように笑みが浮かんだ、しかしすぐにそれは疑念の表情になった。娘はもう私の姿からいま置かれている状態と訪問の目的を悟ったのだろう。
「お父さん、どうしたの」
という娘に続いて「おじいちゃん、こんにちは」という孫の声に男は少しだけ表情を和らげた。しかし、孫はもう男に関心を持ってはいなかった。そして多分プレゼントをもらうという期待もしていないだろう。

男はたまに家に帰ってくる娘と孫と長く話しをすることも、孫と遊んであげることもなかった。競馬かパチンコのほうが好きということもあるが、子供好きではなかったのだ。

娘が玄関の鍵を開け中に入って、「何か用事があったの」と言っている。男は「いや、別に」と曖昧な返事をしながら娘について中に入った。
孫が男の脇を通り走って台所へ、そして部屋の中に入って行った。

電話が鳴った。孫が受話器をとって「もしぃもしぃ」と言う声が聞こえる。そして「あ、おばあちゃん。うん、うん。買って貰った」と話している。

「おかあさん、おばあちゃんだよ、おかあさんに替わってって~」という孫の声に娘が電話のところへ行く。
男は手持ち無沙汰に部屋を見回した。テーブルの上に小さなクリスマス・ツリーが飾ってある。男はやはりプレゼントを買ってここに来るべきだったなと、少し反省してみた。でも、お金を増やしてもっと立派なプレゼントをあげたかったんだと自己弁護をして、一時はそんも可能性があったのに、なぜあそこで欲を出したのだろうと思考はパチンコ店に戻った。