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てっしゅう
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「夢の続き」 第八章 広島旅行

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車内で買ってきた弁当を食べて、列車は広島駅に到着した。真夏の太陽が照りつける暑い日差しの原爆記念館は終戦記念日を前にして多くの観光客と地元の戦没者の家族で混雑していた。由美は初めてここを訪れた。聞いてはいたがその悲惨な光景に戦争がどんなものであったのか、改めて知らされた。そして、広島、長崎へのアメリカ軍の原爆投下が日本を終戦に導いたとの説明に、「なるほど」と思わざるを得なかった。

外に出て、慰霊碑に手を合わせている家族が目に入った。70歳ぐらいのご老人と、その息子さんだろうか40代の男性と洋子よりは少し若い中学生ぐらいの女の子だった。しばらくその場を離れようとしなかったので、貴史は近寄って声をかけてみた。

「私は東京から来ました片山と言います。失礼ですが、おじいさんはどなたかここで亡くなられたのですか?」
突然若者に声をかけられてびっくりしたが、にこっと笑って返事をした。
「いや、片山さん、そうじゃないよ。戦友がたくさん死んだから、祈っていたんだよ。名前を一人一人思い出していたから時間がかかってしまった。すまないね、場所を占領して」
「いえ、そういう訳じゃないんです。俺は、戦争への疑問を解決するためにここに着たんです。友達の洋子と、その母親の由美さんと一緒にです」
「そうかい、高校生だろう?戦争に関心があるのかい」
「はい、おばあちゃんの思い出話から強く感じることがありましたので、勉強しています。時間があったらでいいのですが、お話し聞かせていただけませんか?」
「ちょっと待ってて・・・」

老人は息子に話をして了解を取った。しばらくして、男性と娘はその場を去っていった。
「息子と孫は遊びに行かせたよ。場所を変えて話そう」
「じゃあ、俺も洋子と母親に話してきます」

貴史はしばらく老人と話すから遊んできて、と二人に言った。

公園から道路を挟んだところにあった喫茶店に貴史と老人は入った。
「ここでいいかい?片山さんだったね」
「はい、喉が渇いていましたから助かります」
「そうかい、奢るから遠慮しなくていいよ。好きなもの注文しなさい。遅れたが、私は岡山から来た佐々木と言います。一緒に居ったのは長男の修司と孫の恭子です」
「皆さん岡山から来られたのですね?」
「息子と孫は東京からだよ。岡山は私と婆さんが住んでいるだけだよ。妻は足が悪いから来れなかったんだよ」
「そうでしたか。俺も東京からです。都立の高校三年生です。一緒に居たのは・・・クラスメートの栗山洋子と母親の由美さんです」
「ほう、クラスメートとそのお母さんとご一緒って言うことかい?珍しい組み合わせだね」
「そうですか?仲良くしていますので、そんな風に感じたことはありませんが」
「まあいい。息子も嫁を亡くしているので孫の恭子と二人暮しなんだよ。可哀そうに、再婚出来ずにいる。あんたに言っても仕方ないことだけどね、ハハハ・・・」
「由美おばさんも一人なんですよ。洋子とずっと二人で暮らしているんです」
「なるほど、そうでしたか。じゃあ、あなたは将来息子さんになる訳だ」
「ええ、まだ早いですが約束はしています」
「そうか!目出度いことじゃ。これも何かの縁かもしれんな。良かったら孫の恭子とも仲良くしてやって下さらんか?」
「いいですよ。後で紹介してください。じゃあ本題に入っていいですか?」
「そうだったですね。何から話そうかなあ・・・」
「ここに来る前におばあちゃんと話していた中で、何故もっと早く戦争をやめられなかったのか、とか、玉砕ではなく降伏出来なかったのか、と言う疑問がありました」
「なるほどな。喧嘩をして途中で辞めるには何か大きな取引がないと出来ないだろう?たとえば、金をやるから殴らないでくれ、とか、二度と前に現れないから許してくれとか言った風にね」
「日本軍はカイロ宣言を遵守するとは言えなかったのでしょうか?」

貴史は思っている疑問を佐々木に投げかけてみた。

「貴史くん、で構わないかい?」
「はい、いいです」
「それは言えないだろう。やつらが勝手に決めた領土問題を受け入れろって言うほうが無理だよ。そもそも、日清戦争以前に戻せと言う話だよ。解るかい?」
「ええ、そういうことになりますね」
「欧米諸国は自分勝手に植民地支配を続けていながら、日本にだけ領土支配に言及してくることはおかしいことだよ。それに、駐留軍と言う形にして決して植民地化はしてなかったんだよ」
「満州も中国も自主性を重んじていたと言うことですか?」
「もちろんね、話し合いがなされてこうして欲しいと要求は出すよ。なんでも身勝手に決めてやっていた訳じゃない。欧米のやり方とは違うんだ」
「なるほど、そういう事情でしたか。大東亜共栄圏は本当に日本の支配欲求のための口実ではなく、思想だったのですか?」
「日本が植民地になることを避ける意味と、すでにそうなっているアジア諸国を独立国家として支援し、友好関係から物資の調達を願っていたことは事実だよ」
「それなら、歓迎されて当たり前ですね、何故その構想が崩れ始めたのですか?」
「予想以上に連合軍の抵抗が激しかったからなのと、アメリカの国内事情もあったのかも知れないね」
「国内事情?」
「アメリカは民主国家だったから、政治家は有権者に納得させる理由がない限り戦争は続けられないんだよ。軍部が暴走した日本とは仕組みが違う」
「すでに解っていた真珠湾攻撃に無防備を装ったのは作戦なんですか?」
「それはどうかな。しかし、空母が一艘も停泊していなかったことは、事前に察知して出航させていたとの情報もあるんだよ」
「空母の重要性と言うか、制空権を取ったほうが勝つと思っていたんですね」
「日本軍もそう考えてはいたんだが、ミッドウェーでの敗戦で空母を失ってしまったから、立ち直れなくなってしまった。絶対的な物量面では適わなかったことは最初から解っていたことなんだけど、制空権を失ったことは痛手だったね」
「その時点で和解すべきでしたね」
「何を条件に和解出来ると考えるんだい?」

難しいことを佐々木に言われて、貴史は少し考え込んだ。

「停戦の条件ですか。東南アジア諸国からの撤退と、ハワイ国への弁償ですかね」
「じゃあ、それでアメリカが応じたとして、カイロ宣言はどうなる?」
「う〜ん、受け入れることは不可能でしょうか?」
「日清日露戦争を否定することになるんだよ。多くの日本人が戦死した意味はなんだったんだ?たとえ侵略行為であったとしても、理由があって始めた戦争なんだよ。植民地化のための侵略行為ではなかったんだよ」
「結果的にでもですか?」
「満州国や中国、韓国、全ての国民に歓迎された訳では決してないよ。ロシアに満州を支配されてその次に韓国も支配されていたほうが良かったと思えるなら、戦争はしなかった方が良かったんだ。日本国内の軍備増強と、ロシアとで不可侵条約を締結していれば地図が変わっていたかも知れない。良し悪しは別として」
「イギリスは中国の利権のためにロシアの侵攻を恐れていたのですよね?」