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てっしゅう
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「夢の続き」 第八章 広島旅行

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第八章 広島旅行


12月に入って天皇の容態が一進一退になってきた。テレビを初めマスコミや企業などが神経質な日々を送るようになってしまった。あまり浮かれ気分になれない年末年始を迎えて、元号は昭和64年を迎えた。

そして1月7日朝天皇は崩御された。87歳であった。
1月31日に「昭和天皇」と追号され、2月24日の大喪の礼をもって自粛・服喪は解かれ始めた。
平成と元号が変わって人々の心の中はしばし昭和を振り返ることが多くなっていた。そして一番大きな出来事だった、大東亜戦争は天皇との係わりを触れずには語れなかったことも事実だった。

貴史は、千鶴子の家に出かけた。もちろん天皇の崩御がそうさせていた。
「おばあちゃん、昭和が終わってしまったね。どう感じる?」
「そうね、63年も続いたのよね。こんなに長い元号は無かったのよ。そういう意味でも昭和は日本の歴史上で将来忘れられないものとなるわ、きっと」
「戦争もあったし、経済成長もあったし、アメリカに次ぐGNP国家になったからね」
「そうよね。ぼろぼろになって這い上がって世界第二位になったんだものね。日本人ってすごいってきっと世界中に人々に知らしめたわよね」
「俺もそう思うよ。この原動力って何なんだろう?」
「戦地から戻ってきた人達の復興への意欲と平和への願いの強さを経済力に変えて突進してきたことじゃないかしら」
「武力で威張れないから、経済力で威張りたかったの?」
「そうなのかしら。アメリカへの仕返しってちょっとは考えていたのかしらね」
「企業人のトップなんかはそう思っていたかもしれないよ。口惜しい思いを見返したいって」
「何か強い意志が日本人に作用したのね。夫や兄も想像できないことだったでしょうね。そうだ、貴史は何かヒントになったものを見つけたの?私の遺言で」
「まだだよ。でもね、今年の夏休みに広島へ行ってじっくり考えてくるよ。それまで図書館でいろいろと勉強する。多分何かヒントが見つかると思うけど、本当は体験話を聞きたいよね」
「そうよね・・・体験の話は言うほうも辛いのよ。思い出したくも無いって言うことがあるしね」
「解るよ。無理にお願いはしないよ。話して頂ける人に出会えたら聞きたいって思うだけ」
「広島へは誰と行くつもりなの?」
「一人か洋子と」
「そう、楽しみね」
「うん、じゃあまた来るから。おばあちゃん、ありがとう」

貴史は春休みに入って洋子の家に遊びに出かけた。夏休みの広島行きの話をするためだった。

「貴史さん、いらっしゃい。上がって」
「お邪魔します〜おばさん、これ母からです。お世話になっていますと伝えてって頼まれました」
貴史は母親の美佐子から手土産を持たされていた。

「まあ、そんな・・・気遣いなんかいらないのに。ありがとうってお礼申し上げて置いてくださいね」
「解りました」
「洋子は部屋にいるから、行ってあげて」
「そうですか、じゃあ上がらせていただきます」

「洋子、来たぜ」
「待ってわ。座って」
「その前に・・・チューは?」
「えっ?・・・うん、じゃ・・・」
「好きだよ・・・」
「私も・・・ありがとう、嬉しい」
「今日は話しがあってきたんだ」
「何?」
「夏休みに広島へ行こうと思っているんだ。洋子も来て欲しいって考えているんだけど、どう?」
「広島?またあそこに行くの」
「それだけじゃないけど、記念館を訪れる人に尋ねたいと思って、戦争体験をね」
「そう、母に相談してみる。お金がいるから、考えさせて」
「ああ、無理にとは言わないよ。泊まるのは安いところでいいんだ。ニ、三日ゆっくりしたいから」

しばらくして居間で母親にその話を貴史がいるところで洋子は始めた。ちょっと考えて、母親の由美は意外なことを返事した。
「貴史さん、私も一緒に行って構わないかしら?」
「あっ、はい・・・構いませんが」
「そう、じゃあ今回は費用を私が出しますから一緒に旅行しましょう。あなたには洋子がお世話になりっぱなしだから」
「そんなこといいです!自分の分は払いますから」
「ううん、あなたは洋子の大切な人だから私にとっても子どもと同じよ。気にしないで。それよりお邪魔虫でゴメンなさいね」
「そんな、おばさんと一緒なら嬉しいです」
「ほんと?良かった。洋子もいいよね?」
「はい、お母さん、ありがとう」

洋子は貴史と仲良く出来ないと思ったが、母親と一緒に出かけることの方が嬉しいと思っていた。


八月のお盆がやってきた。平成に入ってなにやら世間の景気が加速してきている。昭和が熟成したエネルギーを一気に開花させているような錯覚を世間は感じていた。

「お母さん!早くしてよ。間に合わなくなるから」
洋子は支度が遅い母親にそう叫んだ。
「解っているわよ!お洋服を選んでいるの・・・直ぐだから待てって」
今年43歳になる由美は傍目も良く、世間的には綺麗なお母さんという感じがしていた。思い切って短いスカート丈の服装を選んで玄関にやってきた。

「お待たせ、急ぎましょ」
「お母さん!そんな短いスカート穿いて・・・どうしたの?」
「貴史さんにおばさんって思われたくないからね」
「そんな事、思わないよ。私だって本当は短いスカートにしたかったけど、パンツにしたのに」
「あら、そうだったの。じゃあ着替えてくれば?」
「時間がないって!もう、いいから・・・」

洋子は少し恥ずかしかった。世間では若く見えても、自分にとっては母親だと思っているからだろう。早足で地下鉄の駅に向かい、待ち合わせの東京駅に向かった。

「貴史、ゴメンね、遅くなって」
「いいよ、まだ新幹線に十分間に合う時間だから。おばさん、おはようございます」
「貴史さん、私がぐずぐずしていたから遅くなったの。ゴメンなさい」
「気にしないで下さい。それより、素敵な服ですね。可愛いです」
「ええ?ほんと。嬉しいわ」
「お母さんたら、恥ずかしいわこんな短いスカート着て」
「洋子、それはないよ。おばさんまだ若いし綺麗だから似合ってるよ。おまえもそう思わなきゃ。女だろう?」
「貴史さんは、女性のことが良く解るのね。感心だこと、ハハハ・・・」
「お母さん!やらしい笑い方しないで!もう・・・嫌になっちゃう。貴史もお世辞は程ほどにしてよね」
「お世辞なんて言ってないよ、洋子。本当にそう感じたから言っただけだよ」
「もう止めましょう。仲良くして出発しなきゃ・・・ね、洋子も貴史さんも」

由美は内心とても嬉しかった。貴史がずっと自分の傍に居てくれたら、そう感じてしまった。

新幹線がホームに入ってきた。座席は横にABCだったので、窓側に洋子、真ん中に貴史、通路側に由美が座った。着席のために前を通過してゆく男性の殆どが由美に視線を注ぐ。洋子はそれが気になっていた。貴史にとっては洋子しか気にならなかったから洋子の心配ごとは理解出来なかった。しかし、この服装が由美にとって幸いする出来事が広島で起こる。