小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

夏風吹いて秋風の晴れ

INDEX|65ページ/94ページ|

次のページ前のページ
 

花火


「おしまいっと」
直美がしばらくすると、和室の俺たちの前に顔をだしていた。叔母は2階の弓子ちゃんと純ちゃんの様子を見に階段を昇って上の階に行ったようだった。
「片付け 終ったの?」
「うん。お皿は全部はしまえてないけどね、でも、綺麗になったよ。あとは、大丈夫」
ちょこんと俺の横に座っていた。
「どうだ、1杯。これはおいしい日本酒なんだぞ、新潟のなかなか手に入らない酒なんだ。よかったら少しだけでも、どうだ」
叔父が日本酒の瓶を手に持ち上げながら直美に説明していた。
「おいしいですか?」
「あぁー うまいぞぉ、おちょこ持ってきなさい、直美ちゃん」
「はぃ」
元気な声をあげて、腰を上げて台所に直美は向かっていた。
「いい子だな、あいかわらず。どうなんだ、そろそろ・・」
「そろそろって・・」
叔父にも言われるのかって思っていた。
「いや、まだ学生なのはしってるが、将来どうだ?気持ちはかたまってるのか?ってことだ」
「うん、まぁ、それはそうなりゃうれしいけど」
「いまのうちから、きちんと少しは話をしておけよ、あんないい子はいないぞ、一生に1人めぐりあうかどうかだ」
「はぃ、それはわかってますから」
「そうか、ならいいが・・」
叔父は言いながら、ぐい飲みをぐっと口にあて酒を飲み干していた。
「なに話してるんですか?」
直美が小さなガラスのお猪口を手にしていた。綺麗な薄い青色だった。
「おっ、持ってきたか、ほら」
言いながら叔父は酒を直美のお猪口に注いでいた。
「では いただきます」
言いながら直美が、その酒を口にしていた。
「これって辛口って言うほうですか?おいしいです」
にっこり笑顔で叔父に聞いていた。
「うん、そうだな、ものすごくー辛口ってわけじゃないけどな」
「そうですか・・でも、飲みやすいです」
少し赤い顔でだった。
「ほら、お前もどうだ」
叔父は俺にも酒を勧めていた
「あっ 飲みます」

それから、俺たち3人は2階から叔母が降りてくるまで、枝豆だけで、日本酒を飲み交わしていた。めずらしく、直美もおいしいって、言いながら何回かおかわりまでしていた。
「あら、わたしも頂こうかしら」
和室に戻ってきた叔母の手には直美とおそろいのガラスのお猪口だった。
叔父はそれに答えて、無言だったけど、叔母に日本酒を勧めていた。
「今日はありがとうね、いつもお世話になっちゃって・・劉ちゃんも 直美ちゃんも、ほんとにありがとうね」
「ぜんぜん、何もしてないから、それより疲れてませんか?もうすぐ帰りますから、休んでくださいね」
直美が左に座っいた叔母に答えていた。
「もう少しゆっくりしてきなさいよ、劉ちゃんもいるんだから、平気でしょ?このごろゆっくりしてってもらってないからね、いいでしょ、直美ちゃん」
「はぃ、じゃあ 今夜は飲みましょう」
直美が気持ちのいい声をだしていた。いい声だった。
それから30分ほどたわいもない話や、俺の交通事故のときの話をしながら日本酒を飲み交わしていた。
そして、直美が、TVの横に置いてあった花火を見つけていた。
「叔母さん、これって・・しないの?」
「あっ、もらったんだけど、忘れてたわぁ、ご近所さんがたくさん残ったからって・・」
「じゃぁー やりませんか?わたし、花火って大好きなんですよ。いいでしょ、今からでも・・あ、線香花火もある」
直美が花火の袋の中を覗きながらうれしそうな声をだしていた。
「どうしましょ、今からするの?直美ちゃん?」
「はぃ、叔母さんやろうよ、バケツとって来ますから・・」
「そうね、じゃぁ、お外でね、ひさしぶりだわぁ。ほら、あなたも、やりましょう」
叔母が叔父に向かって言っていた。
「ほう、そうだな、ずいぶんそんなことしてないなぁ よし、やるか・・」
酔っているはずなのにしっかりとした足取りで立ち上がっていた。
俺も一緒にたちがると、直美が人の家なのにすぐに水のはいったバケツを持って現れていた。
叔母は玄関から4人分のサンダルや下駄を持って庭に面した廊下に戻ってきていた。
俺たちはそれに履き替えて、庭に出ていた、もちろん俺が直美から水の入ったバケツを受け取っていた。
「ここでいいですか?」
直美が庭でみんなに聞いていた。
「あのさ、めんどうだろうけど、教会でしょうよ、詩音好きだったし、花火・・・」
昔の事を思い出していた。教会の庭でロケット花火を盛大に打ち上げてあの、ステファンさんによく怒られた事をだった。
「でも、迷惑かけるでしょ?こんな時間に・・」
叔母が俺にだった。
「大丈夫だって、叔母さん、音が出るような花火って、ないから・・静かにできるし、平気ですよ。さぁ行きましょ」
返事を待たずに俺は隣の教会の庭に抜けるドアを開けて、さっさと、歩き出していた。しして、右手の奥にある教会のお墓に向かっていた。
叔父も叔母もついてきているようだった。直美は途中でバケツの取っ手を一緒に持っていてくれていた。
そして、4人で墓地の入り口に立っていた。墓地の周りをぐるりと囲んだ木の柵のなかには白い綺麗な十字架の詩音の墓がこっちに向かって立っていた。
俺は、にっこり笑って、「花火ね」って詩音に言っていた。
「ロケット花火ないのかぁー つまんねーなぁー」
そんな声を待っていた。
直美が点けた花火の明かりのなかで、叔父と叔母が並んで十字架に向かっていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生