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夏風吹いて秋風の晴れ

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男どおしで


それから、宴会はにぎやかに続いて、時間はあっという間に過ぎていた。お開きの合図は小学生の純ちゃんが眠そうな顔で、なんどか弓子ちゃんを見はじめたことだった。
「眠くなっちゃったの?純ちゃん?」
弓子ちゃんの静かな声がかすかに聞こえていた。それにまぶたが落ちそうな純ちゃんは頭をかくって感じで下におろして返事を返していた。
それを見ていた、直美と叔母さんが顔を合わせると、おばに代わって直美が、
「そろそろ、純ちゃんが眠くなっちゃったみたいなので、弓子ちゃんと純ちゃんは2階に失礼させてもらいますね」
ってまるで、この家の長女のように、きちんと話をしていた。
「おっ、そやなー こないな時間かいな、さてでは、お開きって言う事にしましょかぁー」
真っ赤な顔でステファン神父が大きな声をみんなにだった。
時計を見ると9時をまわっていた。
「そうですね、すっかりごちそうになりました」
星野さんの彼氏の是洞さんが、はっきりと声を出していた。一見むずかしそうな顔をした真面目そうな人だったけど、お酒がすすむと、それなりにしゃべって気さくないい人だった。
隣では、星野さんがそれを聞いてうなずいていた。
「では、まぁー いい日でしたわぁー 明日からもっともっといい日になりますよって、あんさんらもがんばりなはれ」
ステファンさんは叔父と叔母に向かって、話をしていた。
「はぃ」
叔母が返事をして、叔父も赤い顔でいっしょにステファン神父に頭を下げていた。
「ほな、かえりまひょかぁー 弓子ちゃん、いままでどおりに 元気にがんばりなはれや、それから、明日の朝に迎えに来ますよって、また近所周りしますよって、純ちゃんをきちんと起こしときなはれや、あんさんらも 一緒ですやで」
どうやら、今回も弓子ちゃんがやってきた時と同じようにみんなそろって、近所をまわって挨拶をするらしかった。
「ほな、帰りますわぁー ごちそうになりましたわぁー」
ステファン神父が巨漢を揺らしてたちがると、教会の神父さんたちも、大騒ぎしていた大場もそれから星野さんや是洞さんたちも全員立ち上がって、叔父や叔母に頭を下げて、挨拶を交わして、玄関に歩き出していた。
それを見ながらみんなの後につきながら叔母に、
「直美と片付けを手伝いましょうか?」
って言うと、
「もう、直美ちゃんはしてくれてるわ、本当にいい子ね、大好きよあの子。早くお嫁さんにもらいなさいね」
って珍しい事を言われていた。お酒で少し頬を染めた叔母もめずらしいことだった。
「ま、その時がくれば・・」
「そんなこといってないで、なるべく早くにね」
叔母に背中をたたかれていた。

弓子ちゃんの同級生のクレアちゃんは今夜はこの家に泊まる事を親に許してもらってきていたらしく、残っていたけれど、それ以外の人達はみな、ほほを染めながら、挨拶をそれぞれに交わしながら、家路に向かっていった。
俺と直美は、叔母といっしょに、お皿やコップを片付けていた。
酔った叔父には、
「劉は、こっちきて、もう少し飲まないか?」
って言われたけど、それをやんわり断っていた。
すると叔母が、
「少し付き合ってあげて、男の人どうしで」
って言われていた。そういえばこの家は大所帯になったけど、男は叔父さん1人だけなんだなぁーって思っていた。叔父は和室に座って、なぜか、じっくりと酒を飲んでいた。その顔は、うれしそうではあったけれど、男の顔に見えていた。
「じゃぁー ちょっとだけね、日本酒がいいや、おれも」
言いながら、手に持ってきたいた小さなぐい飲みを叔父の前に差し出すと、叔父が、小さく含み笑いを浮かべて俺に酌をしてくれていた。
「叔父さんもどうぞ」
少しだけになっていた叔父のぐい飲みに、代わって日本酒を注いでいた。
「わるいな、もうそんなしぐさも大人だな」
「21歳ですよ、まだ」
「そうか、21か・・来年卒業だな・・早いもんだ、また、ここによく来るようになってから3年半か・・助かったよ、いろいろ、お前らのおかげだ。直美ちゃんにもお前にも感謝してるわ。ありがとうな」
恥ずかしそうだったけれど、しっかりと俺の顔を見ながらだった。
「なにもしてないですよ。こっちこそ、いろいろ世話になってるから・・叔父さんにも叔母さんにも」
「うん。まぁー 飲め」
うながされて、手にしたぐい飲みに口をつけていた。
よく冷えた辛口の日本酒だった。
「あのー 叔父さん、こんな時にいう話じゃないんですけど、いいですか?」
「うん、なんだ」
「会社の事なんですけど・・来年に卒業ですけど、就職は叔父さんの会社には入りませんけど、いいですか?いつか言わなきゃと思ってたんですけど、なかなか言いづらくって、あのう、叔父さんの会社がいやって言う意味じゃなく、やりたいことあるだけですから・・」
ずーっと いつかははっきりと言わないといけないって思っていたことだった。
「あっ、こんなに酒飲んでる時にはやめようって思ってたんだけど・・」
「そうかぁー 今、俺もその話をしようって思ったんだ。それは正直そうなのか・・」
「うん」
「そうか。ま、それはじっくり話したいことなんだけど・・」
「はぃ」
「それは今日は、やめておこう、日にちをとってじっくりとな、それでいいか」
「はぃ」
ぐい飲みを交わしながらだった。
また、日にちが延びてしまったような気がしていたけれど、それは仕方の無いことのようだった。
とにかく、俺と叔父は、酒を酌み交わしていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生