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夏風吹いて秋風の晴れ

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大場がやっと


純ちゃんが赤堤の家にやってくる日だったけど、俺は、いつもどおりにバイト先の椅子に座って契約書類を作っていた。
大場が突然やってきたのは、俺が交代でお昼を食べようとして椅子から立ち上がったときだった。
「お前さぁー 連絡よこせって・・全然電話もなしだからよぉー 明日あたり夜にでもお前の家に行こうかと思ってたんだぞ」
とんかつ屋のランチを食べに向かいながら大場にちょっと文句を言っていた。
大場の親父さんが検査入院をしてから全然連絡をよこさないことをだった。
「だから、こうやってあやまりにきてるじゃん。でもさぁー ほら、あれだろ、俺の家の親父の心配してただろ?連絡くれたのってさぁ・・」
「わかってるじゃん、夏樹までこっちに連絡よこしてたぞ、そっちには連絡したんだろうな?」
「夏樹には連絡した。だってさぁお前らに迷惑かけちゃうと思ってさぁー 昨日、一応退院したからさ、言いに来た」
「お前なぁー 連絡くれないほうがもっと心配なんだってば・・まったく・・・で、大丈夫なのか?」
けっこう長い入院のように思えていた。
「それがさぁー 胃がん見つかってさぁー それ切除してきた」
「えっ?」
「あぁー でもほら、カメラ飲んでそれでだから、たいしたことないって・・それより、お袋が病気の名前聞いちゃって、一緒にさぁ倒れちゃってさぁー 入院までしちゃって、おけげでこっちは2人も看病だったんだよ」
「えぇー 大丈夫か?お袋さん・・・」
「もともと貧血ぎみでさぁー 最初は親父の看病がんばってたんだけど、途中で親父の胃がんみつかってそれで倒れた・・まったくだぞ」
「で、お袋さんも退院した?」
「あぁー お袋はそんなに入院しなかったけど、家で寝込んでたからな・・今はもう元気だわ」
話を聞いてほっとしていた。
「そっか、でも、連絡ぐらいよこせって・・ずーっとお前の家の電話って留守番電話なんだもんよぉー 聞いたら電話しろって・・」
「悪かったって・・だって、お前に言ったら心配してすぐ来るだろ?わりいからよ」
「ばかか・・お前は・・」
大場らしかったけど、大きな声をだして少し怒っていた。
「そんな風に言わなくても・・」
少し不満げな顔を大場が浮かべていた。
大場なりにいろいろ考えて、気を使ったんだろうってのは思ったけど、正直に言うと、まったくって気持ちだった。

とんかつ屋に入ると少しお昼の混んでいる時間は過ぎていたから、小さな座敷にあがってランチのとんかつを食べていた。
大場は、のんきにご飯を大盛りにしてもらって、
「この店うまいわ」なんてのんきな奴だった。
「柏倉さぁー 今日は夜なんかあんの?酒でも飲みにいく?久しぶりにどうよ?」
ロースカツを口に放り込みながらだった。
「あっ、今日さ、引越しで宴会なんだよ」
「なんだよ、引越しって・・・この前したばっかりじゃん、誰?」
「叔父さんとこ」
カツを口にいれていたから短く答えていた。
「はぁー この前したじゃんよ・・なんだそれ・・・」
箸をとめて、不思議そうな顔で聞かれていた。
「えっとさー もう1人今日、引越しなんだよ・・純ちゃんっていう小学生・・・弓子ちゃんの妹になるんだよ・・・」
「はぁー・・・なんだそれ・・えっ、どういうこと?もともと兄弟なの、その、弓子ちゃんって子と純ちゃんって子?なに?どうなってんの」
もっと不思議そうな顔で聞かれていた。
「兄弟じゃないんだけど、弓子ちゃんの施設の子でさぁー 弓子ちゃんをおねーちゃんみたいに思ってた子って言ったらわかる? その子も叔父さんちの養女になるんだよ・・意味わかった?それが今日引越しなんだよ」
「うーん、なんとなくわかったけど・・・それって、ありなのか・・・・」
「ありなのか・・・かぁー うーん、ありなんだろうなぁ・・」
言われてみればたしかに、不思議な事なんだろうなぁーってのは俺も思っていた。よく考えれば、そんな話ってたしかに聞いた事がなかった。
「まぁー でも、いい子ならいいか・・叔母さん喜んでるのか?」
「うん、そうみたいだよ・・あっ、だからお前も今夜は宴会一緒にでるか?なんかいっぱい来るみたいだからまぎれても平気だぞ、直美もいるし、ステファン神父とかも来るから・・それいいだろ?」
「平気か?」
「大丈夫だって、叔母さんも大場なら歓迎してくれるだろ」
「じゃぁー およばれすっかなぁー あの家の宴会ってけっこう、俺すきなんだよ。おもしれーから、あの神父とか・・」
大場は何回も赤堤の家の宴会には顔をだしていたし、叔母とも叔父ともステファン神父とも顔見知りだった。それに、けっこう叔母さんには気に入られていた。考えてみると、けっこう詩音が生きてると、こんな感じだったのかもしれなかった。
「じゃぁー どうする?俺は仕事終わってからしかいかないけど・・先に行ってる?6時半ごろから始まると思うんだけど・・」
「うーん、あのさぁー ほらステファン神父の性格からすると、ご飯だけ食べにいくとなんか、文句言うだろ・・小言みたいの・・どうすっかなぁー 教会の掃除でも先にしとくか?そうすりゃ、いわないだろ?」
「甘いなぁー 掃除したって、ステファンさんなら、「こんな時ばーっか、あんさんええ子に、なりますなぁー」って小言は必ず言うよ。それも、でっかい声で」
絶対言うはずだった。
「それに、最後には、叔母さんあたりに、「この子、お酒の飲みたくて、のこのこやってきましたでぇえ、すんませんなぁ、聖子はん、食べさせたってやぁー」ってのもな」
「うまい」
声を真似て身振りまでいれて大場に言っていた。
大場も、俺もとんかつ屋で周りを気にしないで大きな声で笑っていた。
そこにはいつもどおりの大場がいて、俺だった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生