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夏風吹いて秋風の晴れ

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帰り道を2人で


食事を終えると、いつまでも、俺たちはお邪魔しててもいけなかったから、いつもよりは早めに赤堤の家をあとにしていた。
星野さんは、残ってもらうようにして、急いでって感じで、だった。
外に出ると、東京の夜は生暖かったけど、少しだけ風がでていたから、ほんの少しだけ気持ちよかった。直美が乗ってきた真っ赤な自転車を俺が押しながら、歩いてのんびりと2人でマンションに向かっていた。
「あっ、土曜日に手伝ってくれって、叔父さんに言われたから、バイト休むことにしたから・・直美はどうするの、手伝えるんだっけ?」
「うん、大丈夫」
「まぁ、手伝うって言ったって、そんなに荷物なんてあるわけないと思うんだけど」
「だろうね、でも、楽しそうだからいいじゃない」
いつもより多めに飲んだビールのおかげで、ほっぺたを赤くした直美が答えていた。
「あっ、詩音のお墓に寄るの忘れちゃった・・この前も寄らなかったんだよなぁー 」
「めずらしいねぇ、叔母さんの家に来る前に寄ってきたのかと思ってた」
「まっ、いいや、またすぐ来るし」
「うん、怒ってないって・・」
「うん」
怒ってはいないとは思うけど、もし仮に、死んではいたけど詩音が口を開くなら、今度の事は喜んでるんだろうなぁー って前から勝手にだったけど思っていた。決して焼きもちなんか焼いたりしないだろうなぁーってだった。それに、生きてりゃ生きてたで、1人っ子の詩音だったから妹が出来るのはきっと、それも喜んだことなんだろうなぁーって想像だった。
「ねぇ、叔母さんってうれしそうだよね、劉・・」
「そう見える?」
「うん、いろいろ考えてる事はもちろんあるんだろうけど、元気そうだもん、うれしいんだろうなぁー きっと・・劉もうれしいんでしょ?」
「えっ、俺? うーん、やっぱり子供はいたほうがいいでしょ。無責任かもしれないけど、それだけでも、いいかなって思うよ、叔父さんにも叔母さんにも」
「うん、そうだよねー いろいろ大変な事あるかもしれないけど、それはそれで楽しくもありだよね」
組んでいた腕を直美がしっかりと握りながらだった。
「そうだね、あっ、今夜も悪かったね、直美」
「えっ」
「いや、呼びつけられて」
「平気よぉー 学校休みだし、おいしいご飯も食べられたし、夜のお散歩も出来ちゃうし、それに、すごーく イヤな話なら困っちゃうけど、逆だもん」
「たぶん、これからも、また、呼びつけられるかもしれないけど、悪いけど、その時は頼むわ・・直美のほうが話しやすい事も叔母さんあるだろうから」
「うん、いいよぉー その代わり、きちんと帰りは劉と一緒ね」
「いいよぉー でもさ、たまに、「家まで走っちゃう?」って言うのはやめてくれない?」
何度か言われて走ったことがあったけど、お腹がいっぱいの時は、許してって思っていた。
「えっー たまには走らないとだめだよぉー。昔は、体育館であんなにバレーボールを夢中でしてたくせに、こっちにきたら全然、運動しないんだもん、劉ったら・・」
「いやさぁー なにも叔母さんの家から帰るときに走らなくっても・・」
バイト帰りの背広姿で、靴は革靴って時もたまにあったから、本当にそれは勘弁だった。
「じゃぁー 今度から、きちんと着替えてから一緒に走ろうか?気持ちいいと思うよぉー」
ありゃー 墓穴を踏んだかって感じだった。たぶん、直美のことだから毎晩、走ろうって言いそうだった。
「たまになら・・」
「だめだってば、少しずつでもいいから、毎晩走ろうよ。朝がいい?それとも夜?」
ますます、雲行きが悪くなりそうだった。
「うーん、夜?」
もう、朝だけは避けたいって気持ちだけだった。
「夜ばっかりでも飽きちゃうかなぁー 週替わりってどう?朝って気持ちよさそうだよぉー」
もうお手上げって感じだった。
「それって、どうにもダメなときは、走らなくってもいいんだよね?」
「基本は毎日よ」
うれしそうな顔を直美が浮かべていた。
「はぃ」
こっちは、とりあえず返事をしちゃったけど、大変なことになったぞぉーって真剣な顔になっているはずだった。
「じゃぁー 今夜は、わたしもお酒飲んじゃったから、明日は朝。うん、日曜日までは朝にしよう」
「えっ、明日から・・」
びっくりして、大声を出していた。
「大丈夫よ、30分早起きすればいいだけだもん。起こしてあげるから」
「そっかぁ・・」
もう、ダメって感じだった。少し泣きそうだった。
小さい時から基本的に走ることは苦手ではなかったけど、東京に来てから真面目に走ったことなんてなかったし、こっちに来てから始めたサーフィンもバイトが忙しくて、この頃はご無沙汰になっていた。おかげでバレーボールを部活でしていた高校生の時に比べたら、今の体重は7kgも太っていた。
「きっと、走って帰ってきたら、朝ごはんおいしいよぉー うん、いい事思いついちゃったなぁー」
直美は、俺の顔色もうかがわずに、そりゃ、うれしそうだった。
「それにさぁー 少し太ったでしょ、この頃?顔が丸いもん」
「やっぱり・・そう・・俺もそれはそう思う」
直美にはきちんと言わなかったけど、Gパンを買うときのサイズがはっきりと大きくなっていた。
「でしょうー うん、走ろうね。どの辺まで明日は行こうかなぁー 」
「えっとさ、やっぱり最初は無理しないような距離にしようよ」
とんでもない距離を言われたらこわくて、先手をうっていた。
「そうだね、徐々に遠くまでだね・・」
良かったぁーだった。
「うん、最初はそのへんまでで、体操なんかして帰ってくればいいんじゃないの?」
「いいね、うん、なんか楽しそうだなぁー」
こっちを見て笑顔だった。
「あっ、スーパーまだあいてるかな?」
「うん、ギリギリだね」
腕時計を見ながら答えていた。豪徳寺の駅前の大きなスーパーは最近夜の9時まで営業を延長していた。
「じゃぁー 買い物しようっと」
「何を?」
「みょうが」
「えっ?また?他にはなくて、みょうがだけ?」
「うん、明日の朝に走ってるのを想像したら、朝ごはんを、みょうがのお味噌汁で食べたくなっちゃった。おいしいだろうなぁーって」
おかしくて笑いそうだった。直美は夏になると「みょうが」が好きで、お新香に添えたり、冷奴にかけたり、それに天麩羅にまでしたりして、それはけっこうな回数で食卓に並んでいた。
「はぃ、じゃぁー 少しだけ、急ぎますか?」
言いながら赤い自転車を押しながら、歩く早さを少しだけあげていた。
「マンションじゃなきゃ、みょうがを育てたいなぁー」
直美が横で、面白いことをだった。でも、俺も庭でもあれば、谷中の葉生姜でも育てたかった。
似たもの同士だった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生