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夏風吹いて秋風の晴れ

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目の前の決意


結局、ここで4人が、あれやこれやと心配しても仕方ないのかぁーって思いながら、暑かったこともあって、俺は、けっこうビールを飲んでいた。
途中で、直美の、大丈夫なのかしら?この人?って顔を何度か見ながらだった。でも、そんなにいつもは飲まない直美のほっぺも赤かったから、飲んじゃってもいいかって感じだった。
ビールを飲みながらおいしい料理を口にして、お腹はいっぱいになっていた。
「叔母さん、ご飯もらってもいいですか?」
聞いたのは直美だった。
「あら、気がつかなくて・・いま、よそいますからね。星野さんも持ってきてもいいかしら?」
叔母が腰を浮かしながら星野さんに聞くと、星野さんは、
「軽くでけっこうですから」って遠慮がちに返事をしていた。直美はそれを聞いて、
「わたしが、よそってきます」って言いながら叔母を残して台所に歩き出していた。
よく叔母の手伝いをしていたから、きっと、お茶碗とかもすぐに出せるだろうなってそれを見ながら俺は思っていた。
「劉は、普通によそっていいのぉー」
台所から直美の声がこっちに向かってだった。
「あっ、俺、なんだか、お腹いっぱいだから、ご飯いいやぁー」
今夜は、叔父も、大食漢の隣の教会のステファン神父もいなかったから、ビールを飲みながら、けっこうな量の料理を口にして、お腹がいっぱいになっていた。
「いいのぉー 帰ってから、お腹空いたっていわないでよぉー」
お決まりだったけど、直美に言われていた。
「大丈夫だって・・」
お盆に、ご飯の入ったお茶碗を2つ乗せてこっちに歩いて戻ってくる直美に答えていた。
「夜中に冷蔵庫なんかのぞかないでね」
湯気のあがっているご飯が入ったお茶碗を星野さんの前と、自分の前に置きながら、こっちを見ながら直美に言われていた。
「うん」
ちょっと、オーバーに首を下にだった。
それを、見ていた叔母は、うれしそうな顔をしながら、
「直美ちゃん、帰りに、おにぎりを持たせてあげるから、劉ちゃんが、夜中にお腹が空いたって言ったら、食べさせてあげて・・・」
って直美に言うと、
「叔母さん、あまやかしちゃ ダメです」
笑いながら直美が返事を叔母にだった。叔母の顔は、またまた、うれしそうだった。
「仲いいんですね・・」
って星野さんが、それを見て叔母に言っていた。
仲がいいって言われたのは、もちろん俺と直美のことのようだった。
「うーん、仲はいいんですよ。酔うと少し優しくなりますし・・ねつ、劉」
「それって、話し方がすこしだけ、ゆっくりになるだけなんだってば・・別に、酔っ払って優しいんじゃないんだってば・・」
「あら、褒めてあげたのに・・」
おいしそうにご飯を食べながら、あっけらかんと直美に言われていた。
「劉ちゃんは、昔から、すこしやんちゃな子だけど、優しいから・・」
叔母が、話に加わってきていた。
「叔母さん、いいから・・そんなこと言わなくて・・」
「あら、だって、今でも、詩音のお墓にきちんと挨拶なんかしてたりするし・・たまに、長いときは、何を話してるのかしらって、叔母さんこの家から、たまに見ちゃうけど・・」
たしかに、ここに来ると、叔母さんの一人っ子で亡くなった詩音のお墓の前には行ってたけど、毎回ってわけでもなかった。
「それが、優しいかどうかは・・・関係ないと思うんだけど・・単に独り言を言ってるだけだから・・」
けっこう、お墓の前でくだらない事をよく言っていた。
「あら、それだけで、優しいって劉ちゃんのこと 言ってるわけじゃないわよ」
叔母がにっこりと、笑顔でだった。
「でね、叔母さん、劉って、誰にでもけっこう平気でしゃべったりするんですよね・・それって 昔からですか?」
「そうねー ここに、夏休みとか、春休みとかに泊まりにきて、よく隣の教会なんかで遊んでるときも、信者さんたちと、平気な顔して話してたかしら・・それに、うちの詩音と教会の庭で、かくれんぼしてて、劉ちゃんが鬼だと、そこにいる信者さんたちを捕まえて、「どこにかくれましたかぁー?」って平気な顔で聞いてたわねぇ・・思い出したわぁ・・」
こっちは、全然思い出していなかった。
「へぇー 変わってるー」
直美が大笑いしながら俺の顔を見ながらだった。
「いや、俺はそんな記憶ないし・・」
「うそばっかり」
続けて笑われていた。
「でも、直美ちゃんも、誰とでもきちんとお話するものね・・」
叔母が笑っていた直美にだった。
「そうですかぁー 」
「直美ちゃんは、明るくていい子だから・・親御さんのしつけが良かったのよね」
「やだ、おかーさん 喜びます。 今度きちんと連れてきますから・・」
「ぜひ、いらっしゃるように言ってくださいね」
「はぃ」
直美のおかーさんは、1度だけ、東京に直美の様子を見に来ていたけど、時間がなくて、この家には連れてきていなかった。その時は3人で鎌倉まで遊びにいってそのまま東京駅まで送って、おかーさんは、茨城に帰っていた。
「ほんとに、良かったです、弓子ちゃん・・・」
星野さんが、食べ終わったご飯のお茶碗を静かに置きながらだった。
3人で星野さんの顔を見ていた。
「中学生で、よそに行くのって、うちの施設では初めてのことなので、父も私も、ずーっと悩んでいたんです。でも、思い切ってお願いして良かったって思ってます」
しっかりとした口調だった。
「たぶん、これから環境が変わって、弓子ちゃんは大変だと思うんです。よろしくお願いします。頑張り屋さんですから、大丈夫だと思いますが・・」
「はぃ、私もがんばります」
叔母が、きりっとした顔で、年下の星野さんにきちんとした口調で返事を返していた。
酔っていたけど、すごい光景だった。たしかに、養女を迎えるって、大変な事だったし、養女に来る弓子ちゃんも大変だったし、送り出す星野さんも大変だって しみじみと思っていた。
直美も、きっと、同じ風に思っているはずだった。
「わたしも 劉も、たよりないでしょうが、がんばりますから」
直美が、叔母に、星野さんにだった。
俺は、横で、首を2回も上下していた。真っ赤な顔で失礼だったけど、「うん、うん」ってけっこう力が入っていた。いつの間にか、また俺の左手を握っていた直美の手も、「うん、うん」って言っているようだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生