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夏風吹いて秋風の晴れ

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水曜日の朝


結局、早めに電気を消して布団に入ったのに、直美と弓子ちゃんは小声でずっと話をしていたようだったけど、俺は先に寝ていたようだった。
朝になって、直美に起こされたときは、二人とももう、しっかり着替えていたし、俺の顔を見ながら直美は
「よく 寝てるよねぇー さっきから、朝ごはん作って、いろんな音がしてたのに、全然起きないんだもん」
って呆れていた。
寝ぼけていたけど、目を開けて立ち上がると、ダイニングテーブルの上にはおいしそうな味噌汁と、焼き魚が、いい匂いだった。
「おはようございます」って弓子ちゃんが頭を下げて、それに「うん、おはよう」って返事をすると、直美は、
「早く顔洗ってきてね」
って、少しだけ、にらんだ顔だった。
あわてて、顔を洗って、部屋に戻ってくると、直美も弓子ちゃんもきちんと椅子に座って待っていてくれた。
「さぁ、食べようね、いただきまーす」
直美の声で、俺も、弓子ちゃんも
「いただきまーす」
って、だった。
箸をつけると、おいしい料理だった。もちろん、高校生の時は直美の手料理なんて1度だけしか食べたこと無かったから、直美を好きになった理由に「料理が得意なこと」って項目は入ってなかったけど、東京に来てからは、それも、彼女を大好きな理由の項目にしっかりと入っていた。
「おいしいです」
弓子ちゃんが味噌汁を飲みながらだった。
「何か、弓子ちゃんは手伝ったの?」
俺が聞くと、恥ずかしそうに弓子ちゃんが
「お魚をひっくり返しただけです」
って答えていた。
「今度は手伝ってもらうからね、弓子ちゃん」
直美が弓子ちゃんの返事に、ほっかほかのご飯を口にしながら言っていた。
おいしい 料理と、それを食べて、にっこにこの顔が3人だった。

食事を済ませて、今日も1日暑そうな天気だったけど、ネクタイを首にまきつけて、めんどうな背広に着替えていた。
直美も今日もバイトだったけど、こっちはバイト先の「シオンコーポレーション」の店長が夏休み中だったから、先にここを出て下北沢に向かわなきゃいけなかった。
「先にでちゃうけど、直美と一緒で平気でしょ?弓子ちゃんは?」
たぶん、直美はあと、30分はバイトの時間までには余裕があるはずだった。
「はぃ。そうします」
昨日寝た布団をたたんで、やっと空けた場所に置いた小さなテーブルの前にして座っていた弓子ちゃんが答えていた。
「ちょっと、早めに出て、弓子ちゃんを駅まで送ってくから、大丈夫だよ」
「そっか、駅までたのむわ、道わかんないと困るし・・」
少し気がかりだった事を、先回りしてきちんと直美が言ってくれていた。
「うん、まかして・・」
「じゃぁー 俺は、行くわ、弓子ちゃん、またね・・土曜日の引越しは手伝えるかどうか、まだわかんないけど、きっと夕方には、寄るからね。なんか、あったら、俺か直美に電話して・・」
「はぃ、ありがとうございました」
きちんと座りなおしてだった。しっかりした子だった。
「じゃ、またね」
「夕方に電話するね、劉」
「うん」
直美にいわれて、部屋を出ていた。
大学生のアルバイトなのに、社長の叔父のたくらみで、主任になったおかげで、今日も仕事を頑張らないとだった。店長不在の時は、俺が責任者だった。水曜の朝が始まっていた。

下北沢の会社につくと、もう、従業員の川田さんが、来ていて店の周りの掃除をしているところだった。
「おはようございます」
って頭を下げると、ほうきを持って、きちんと顔をあげて背筋を伸ばして姿勢を正して、
「主任、おはようございます」
って 言われていた。
「あのう、そんなに、しなくていいから・・困るから・・おれ」
いつも思っていたことだった。
どうにも、叔父がこの会社の社長で、またこの会社の親会社の社長もその叔父だったから、どうにも、やりづらい時があった。
最初は隠してた事だけど、さすがに1年以上もいると、隠せるような事ではなくなっていたから、今じゃ、親会社の人間も、この子会社の不動産会社の「シオンコーポレーション」でも、新人さん以外は誰でも知っている事実になっていた。
「いえ、上司ですから・・」
見かけは、そんな事をいいそうな人じゃなかったので、すこしおかしかった。
「ま、いいけど・・普通に話してね」
言いながら会社の中に入っていた。上司っていわれてもなぁー だった。
その後に、鈴木さんがすぐにやってきて、お茶を出してくれていた。
少し、机に座って、朝から来ていたFAXの書類に目を通していると、掃除を終えた川田さんが戻ってきて、好きではなかったけど、3人で朝礼なんかをしていた。「今日も頑張ってくださいね」って感じだった。
その後に、いきなり、机の電話が鳴って、想像通りの人の声が聞こえていた。
豪徳寺から下北沢までの電車の中で、たぶん電話がかかってくるだろうなぁーって考えていた人からだった。思ったとおりに、それも朝1番でだった。
「劉か・・」
「はぃ、おはようございます、社長」
「お昼にそっちいくから時間あけといてくれ」
「はぃ、12時からでよろしいでしょうか?1時間でいいですか?」
「そうだな、それでいいな、じゃ、12時に」
「はぃ」
返事をしたけど、俺の、「はい」って声は聞いたのかって思えるほどに電話を切られていた。
受話器を持って、「まったく・・」って小声でつぶやいたら、2人の視線がこっちにだった。
「えっと、社長が12時に来ますので、よろしくです」
「はぃ」
2人に返事をされたけど、なにがよろしくなんだかって、自分で言って思っていた。
とにかく、台風みたいにやってきて、昨日の晩の話でも聞かれるに決まっていた。
もしかすると、直美のところには 叔母も今頃、電話でもしているかもしれなかった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生