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夏風吹いて秋風の晴れ

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まったくもって


夏だから、いつもはそんなに時間かけずに風呂を出ていたけど、今日は、少しゆっくりめだった。あんまり早く出ると、 「きちんと洗ったの?」 って、直美に怒られそうだし、弓子ちゃんがそれを聞いて笑うとイヤだった。
風呂をでて、着替えて部屋に戻ると、直美も弓子ちゃんも布団の上にちょこんと座ってなにか話をしているようだった。
暑かったから、クーラーの風が1番当たる場所に向かって、布団をなるべく踏まないようにして移動して、風を浴びていた。涼しくって気持ちよかった。
「劉、弓子ちゃんに、なんか、変なこと言わなかった?」
直美の声が背中越しに聞こえていた。
「なんも 言ってないけど・・」
振り返らずに答えていた。
「なら、いいけど・・・」
「聞かれたから、答えたけど、たぶん変な事は言ってないはず」
うん、そうそうって思いながらだった。
「でもさ、中学生の時は、わたしの事好きじゃなかったって 言ったでしょ?」
「えぇー」
それは、なんだか、話が行き違ってるって声を出した。あわてて、後ろを振り返っていた。
「えっとね、それは、弓子ちゃんに、中学生の時も直美のこと好きだったんですか?って聞かれたから、中学は別の学校だから、知らなかったから・・って言ったんで、なんか意味違うと思うんだけど」
また、なんだか、あわてて説明していた。
「ふーん・・・まぁー いいけど・・」
まぁ いいけど って言われてもなぁーって感じだった。それを聞いていた弓子ちゃんは、こっちの気持ちもしらずにうれしそうな顔を浮かべていた。
「わたしは、中学の時も、劉のこと好きだったよって言ったのに・・」
そんなこと言われても、どうにもだった。
直美は、中学の時に俺が彼女の学校に、なにかの学校の行事で行った時に、俺を見たらしかったけど、こっちは、その時に直美を見かけた記憶なんて無かったんだから仕方なかった。会ってもいないのに好きになるわけなんてあるわけが無かった。俺が直美を初めて見たのは、同じ高校に入ったときの入学式だった。
「だって、それは、無理だもん、直美を見たのって高校の入学式だから・・それは無理」
「じゃぁー 弓子ちゃんに、初めて見たときから好きだったって言った?」
なんか、強気だった。
「言ってないでしょ? 言いなさいよぉー」
ますます、それを聞いていた弓子ちゃんはうれしそうな顔だったし、もちろん直美も、うれしそうな顔でだった。
「はぃはぃ、 そりゃぁ、もう、会ったときから大好きでしたよ」
諦めの境地だった。なんで、中学生の前でそんなことを言わなきゃいけないのかって感じだった。せめてもの抵抗は、ちょっと大きな声で言うことだけだった。
「ね、弓子ちゃん、ほんとだったでしょ?」
「はぃ」
まるっきり、からかわれているようだった。
「もう、いいから、寝るわ・・さ、寝るぞ」
「うん、早いけど、寝ようか?あのね、弓子ちゃん、わたし、顔をこっちに向けて寝るんだけど、気にしないでね。弓子ちゃんにわざと背中向けるんじゃないからね。右向いて寝るのクセなだけだからね」
「はぃ」
「でね、ついでに言うと、劉は左向いて寝るのね。でも、それもクセだから、気にしないでね」
「はぃ、うーん、向き合っちゃうんですね・・」
「みかけはそうね・・でも、気にしないでね」
一生懸命、なんだか、必死にって感じで直美がだった
「はぃ、じゃぁー わたしはこっち向いて寝ます」
弓子ちゃんは、笑いながら、布団に入って、背中を直美のほうに向けていた。どうにも1枚うわての中学生だった。
それを、少しおかしく聞きながら、頭を拭いていたバスタオルを洗濯機に放り込んで、部屋に戻りながら、電気のスイッチを切っていた。一瞬まっくらで、自分の布団にたどりつけるかと思ったけど、こっちを見た直美の瞳が、うっすら光って助かっていた。
直美の説明どおりに、顔を左に向けて、頭を枕にだった。

「よーし、電気もきえたことだし、弓子ちゃんの好きな男の子って同じ学校なんでしょ?」
少しだけ、沈黙の後に直美が口を開いていた。
「はぃ」
「同級生なの?クラスとか一緒なわけ?」
「クラスは隣。わたしは1組で、2組だから・・・」
「ふーん・・・向こうは弓子ちゃんのこと、好きそう?」
「どうかなぁー 話はするんだけど・・わかんないですよ・・」
少し、恥ずかしそうな声が、寝ている直美の向こうから聞こえていた。
「そっかぁー 言ってないんだよね?好きだってことは・・」
「言えないですよー どうやったら言えるんですかぁー」
「うーん。それ、わかんない・・」
「直美さんみたいに、相手が好きだってわかってれば言えますけど、そうじゃないんですから・・」
「そうかぁー あっ、劉ってね、わかりやすい性格だから、すぐわかっちゃった・・わたしの事好きなの・・」
「だったら、いいですよ」
黙っていると、言われ放題って感じだった。
「でも、転校だから・・困っちゃうね・・思い切って言っちゃうのってどう?」
「夏休みだし・・」
「あっ、そうか・・うーん、彼ってなにか、運動部で練習なんかしてないの?夏休みでも?学校にいたりしないの?」
「野球部だから、毎日練習してるはずですけど・・わたしも明日、午後から最後の練習あるし・・たぶん、会おうと思えば・・」
「えぇー じゃぁ、明日が最後のチャンスかもしれないじゃない・・」
「うん、たぶん・・」
「じゃぁー 好きだって言わなくてもさ、こんど、ここに引っ越すってきちんと言ってきなさいよ、それだけでもいいじゃない・・・学校変わっちゃうって言ったの?」
「それは、言ったんだけど・・」
遠くで聞こえていた弓子ちゃんの声が、ますます小さく、恥ずかしそうだった。
「でも、きちんと連絡先とか言ってないんでしょ?」
「うん、なんか、恥ずかしかったし・・」
「じゃあー きちんと住所と、電話番号を渡さなきゃ」
「うーん」
「恥ずかしくないじゃない、話したりしてるんでしょ?だったら、出来るじゃない」
「恥ずかしいですよ・・・」
「がんばりなよ・・これねって渡すだけだもん」
なんだか、一生懸命の直美だった。
「うん、そうですけど・・」
「よし、じゃぁー きちんと渡せたら、わたしが、なにか、おごってあげる。バイト代すぐに入るし・・なんかね、劉に聞いたら、豪徳寺の駅のそばにおいしいオムライスのお店あるんだって・・そこで、クリームソーダも付けちゃう」
「ほんとですか・・」
「うん。大盛りだっていいよ」
「約束ですよ。直美さん」
「いいよぉー」
直美が体をくるっと弓子ちゃんのほうにいきなり回してだった。
「はぃ」
あわてて、弓子ちゃんが返事をしていた。
おれは、あの店に クリームソーダってあったっけ?って考えていた。きっと無いような気がしていた。あったら、絶対、覚えていそうだった。どうしてかって・・それは、小さい時はクリームソーダが大好きな俺だったからだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生