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家に憑くもの

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それは、翔太だった。
佳織は声を出すこともできず、大きく目を見開いたまま、その場に凍りついた。なんとか倒れないよう、階段の手摺にしがみつく。
「なんだよ、失礼だな。どんだけ驚くんだよ。」
翔太が口を開いた。その声と口調に、佳織の緊張が一気に解ける。
「翔太なの、本当の翔太なのね。」
「当たり前だろ、本当じゃない俺がいたら、お目にかかりたいぜ。」
「今、翔太の部屋に、本当じゃない翔太がいたのよ。」
佳織は話しながらも、あれが追って来ないかと何度も2階を振り返る。
「嘘だろ。冗談きついぜ。」
「本当なの、本当にいたのよ。シャーペンで襲いかかって来たの。」
「ふーん・・・」
翔太は半信半疑の態で玄関に引き返すと、玄関に置いてある素振り用の金属バットを手に取った。
「お目にかかってみようじゃないか、本当じゃない俺に。」
翔太はそう言うと、バットを構えたまま階段を上がり始めた。佳織も翔太の陰に隠れるように、腰を引いたまま翔太の後ろに続く。
階段を上り切り、翔太の部屋のドアの前に立った。ためらいを見せた翔太は、ちらりと佳織に目をやると、意を決したように、ドアノブに手を掛けた。一気にドアを押し開ける。
翔太の部屋には、誰もいなかった。
「誰もいないぜ。」
翔太が佳織を見ながらあきれたように言う。
「さっきは確かにいたのよ。待って、ベランダかも。」
佳織は声を押し殺して言う。翔太はバットを持ったまま、ベランダに面したサッシを開き、ベランダを見回す。
「いないよ。まさか、ここから飛び降りたなんて言うなよ。」
「おかしいなあ・・・」
サッシが開き、部屋に吹き込んだ風のせいで、ドアがゆっくりと閉まって行く。
「寝ぼけてたんじゃないのか。」
翔太が憮然としながら、サッシを閉めてドアに向かう。閉まりかけたドアを開けようとした翔太が、突然息を飲んで立ち竦んだ。
「どうしたの。」
翔太の後から肩越しに覗き込んだ佳織の口から、悲鳴が上がった。
分厚い木のドアの、ちょうど佳織の眉間の位置の高さに、シャープペンシルが深々と突き立っていた。

作品名:家に憑くもの 作家名:sirius2014