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てっしゅう
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「忘れられない」 第十章 残された希望

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「お互い様ね。私もあんなに燃えていたのに、今は冷静・・・長く夫婦やってきたかのように穏やかに接しているの。不思議ね、やっぱり・・・年取ったのかしら」
「時々寂しくなるけど、昔のように無謀にはならないわね。二人の温度差は無くなってきた。熱くはならないけど、冷めもしないって感じかな」
「そうなの・・・結構ラブラブなのね、フフフ・・・」
「なに?そのいやらしい笑いは?ひょっとして欲求不満?になってる」
「なってなんかいないの!仁美さんとは違うんだから」
「私は・・・じゃや、なに?そうだって言うの!・・・十分満足していますよ、悪いけど」
「正直ね、相変わらず・・・可笑しいわ、ハハハ・・・」
「やられたわね・・・有紀さん、幸せそうで良かった」
「ありがとう・・・また電話するね・・・じゃあ」

仁美は変わっていなかった。少し前より明るくなった気がする。きっと幸せなのだろう、有紀はそう思っていた。

ふと有紀は明雄との縁を作ってくれた妙智寺の住職のことを思い出した。どうされているのだろう・・・高齢なのでご健在かどうか気になっていた。仁美との電話を切った後に、思い切ってかけてみた。

「もしもし、埜畑有紀といいます。遅くにすみません。ご住職・・・いえ、重徳さま居られますでしょうか?」
電話に出たのは多分あの時に応対に出たお嫁さんだろう。

「はい、お待ちくださいませ・・・覚えておりますよ、大阪からの方でしたよね?」
「はい、嬉しいです。そうです」

しばらくして声の主が変わった。

「重徳ですが・・・どなた様で?」
「はい、去年の秋にお邪魔しました埜畑と言います。石原明雄さんのことでお尋ねしたものです」
「ああ、あの時のお嬢さん・・・お久しぶりですな。ところで何のご用件ですか?」
「ええ、あれから偶然が続いて明雄さんに逢う事が出来ました。そのお礼を申し上げたくて・・・」
「そうでしたか・・・目出度いことでしたのう。ご結婚されましたのかな?」
「今、彼は入院して治療中なんです。退院したら入籍しようと思っています」
「ほう、ご病気だったとはな・・・しかし、災い転じて福となす、と言うからご安心なされ。明日の朝二人のためにお経をあげて進ぜましょう。石原君の回復とお二人のご結婚とにな・・・」
「本当ですか!ありがたいことです。お電話した甲斐がありました。来年の春に新婚旅行を兼ねてお伺いしようと石原と話しております。その時にぜひお目にかかりたいです」
「来春ですか・・・楽しみじゃのう。若いと言うことはええの・・・」

重徳は年を勘違いしているかも知れない、と有紀は思った。電話を切った後で、必ず明雄と来春に妙智寺へ行く、と決めていた。

今日から明雄のいる個室で寝泊りすることになっていた。長椅子があるのでそれに横になって眠るようにする。のどが渇いたと言っては、冷蔵庫から冷えた水を飲ませる。今のところ、水以外は口にしてはならないと指示を受けていた。

明雄は順調に回復をしていた。病室もICUの側から一般病棟の5階に移された。有紀の希望で一番角の個室に退院まで入ることを希望した。

「明雄さん少し部屋代が掛かるけど、お風呂もあるし、洗面も台所もあるから便利なの。一緒に寝泊りするにはここしかないし、構わないでしょ?」
「いいけど、有紀に負担かけると思うと・・・ボクは4人部屋で我慢できるよ」
「ううん、私はここがいいの・・・大丈夫よ、少しぐらい掛かっても。ホテルに泊まっていると思えばまだ安いから」

差額ベッド代は7500円掛かる。3ヶ月として675000円。安くは無い。入院費用は健康保険の適用を受けても100万は下らない。いまどきのガン保険にでも加入していたら、車も買えるほどおつりが来るだろう。今となっては有紀も明雄も10年は保険に加入できない病歴を抱えていることが不幸であった。

有紀はスーパーに買い物に出かけて明雄が口に出来る食べ物を買ってくる。ゼリーとかプリンとか、消化の良いおやつと自分が食べる食事の分だ。明雄の三度の食事は有紀が食堂に取りに行く。顔馴染みになった入院患者と声を掛け合う。お互いに早く退院したいね、と励ましあう。一人一人と去ってゆくのを尻目にもうすっかり秋も深まる11月に入っていた。

眠るときに少し暖房を入れる。窓のカーテンを引き、明雄に布団をかける。あんなに腕にしていた点滴も今は無い。飲み薬だけに変わっていた。もう退院は近いだろう・・・そう有紀も明雄も考えていた。

「後から宇佐美がお話に参りますので、お部屋にいてください」
そう担当の看護士から言われた。なんだろう・・・と思ったが、ひょっとして退院の話が出るかも知れないと、うきうきしていた二人であった。

「おはようございます。調子はいかがですか?」宇佐美はいつになく爽やかな口調で尋ねてきた。

「はい、このところ身体も軽く、運動してもゼイゼイ言うような事は無くなりました」
「そうでしたか・・・リハビリの方からも問題なく運動が出来ると報告を受けていますから大丈夫でしょう」
「では、先生、退院できるという事ですか?」
「そうですね・・・今日はそのご相談に伺いました。午後からの最終検査で異常がなければ、週末の土曜日に退院して頂いて構いません。お薬がたくさん出ますので、忘れずに服用なさってください。また、検査は当面毎月行ないます。必ず通院なさってください」

有紀はやっとこの日が来たと感激した。宇佐美が帰った後で、明雄と抱き合った。
「長かったけど、よかったわね。検査が無事通過するといいね」有紀は涙ながらにそう言った。
「うん、キミのお陰だよ。退院できたらまず何をしよう?」
「えっ?そうね・・・麗子さんの所へお礼に行きましょうよ」
「そうだなあ・・・それがいい。有紀がお世話になったお礼も言わないといけないしね」
「内緒にしていたけど、沙織さんとも連絡はとっているのよ」
「沙織と・・・何故?」
「だって・・・まだ奥さんだったでしょ。あなたのこと知らせる必要があったと思ったから。話してみると何故か気が合うって感じたから、私からお願いして仲良くしてもらうことにしたの」
「有紀はそういうところが、好かれるんだな・・・敵を作らない、いや作れないって言った方がいいのかな。優しさがいつも溢れているようだ」
「褒めすぎよ。母がいつも言ってたの。何事にも感謝だって。そうすれば悪いことも味方するようになるって。父が早くに亡くなって、苦労したけど、母はいつも人に優しかった。自分を犠牲にして私たちを育ててくれたんだわ、きっと。そんな母をがっかりさせたくないから・・・教えられた通りにしているだけ」

明雄は有紀の心の大きさに感動した。忘れていた母親のようにそれは温かく感じられた。同時に、これからは自分が守ってゆく番だと思わずにはいられなかった。

検査の結果も良好で、明雄の退院は土曜日と決まった。前日の金曜日に荷物をまとめ、支払いを済ませ、総合病院で過ごす最後の夜を迎えた。

「有紀、明日だねいよいよ。今夜がこの部屋も最後だ。こうしてみるとちょっと寂しく感じるよね」
「そうね、ずっとあなたと過ごしてきた部屋ですものね」
「なあ、記念に今夜はどうだ?」