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てっしゅう
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「忘れられない」 第十章 残された希望

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第十章 残された希望


有紀はいつの間にか眠っていた。また例の夢を見た。みんなが輪になって遊んでいるところに行きたいと思うと、後から裕美が声を掛けるのだ。
「有紀ちゃん、行っちゃダメ・・・こちらで遊ぼうよ」裕美はそう言うのだ。今度は素直に従って、「うん、今行くよ」そう有紀は返事をして歩き始めた。裕美はすぐそこに居るのになかなか辿り着けない。

「裕美ちゃん、どうしていつまでもそこに行けないの?教えて」
「有紀ちゃん、私はもう帰らないといけないの。怖い人が待っているから、もうここにはこれない。ほら、明雄君がもうすぐ目を覚ますから、一緒に遊んであげて・・・じゃあ、さようなら」
「裕美ちゃん・・・裕美ちゃん・・・裕美さん・・・裕美さん・・・」

うなされていたのだろうか。看護師に声をかけられて目を覚ました。
「大丈夫ですか?何か叫んでおられましたが・・・良く眠れないようでしたらお薬差し上げますがいかがなされますか?」
「いえ、ありがとうございます。大丈夫です。それより、明雄さんは・・・」
「先ほど目を覚まされましたよ。少し声も出ましたから、明日の朝には様子を見てICUから個室へ移します。そうしたら面会できますよ」
「そうでしたか。よかった・・・」

正夢なのか・・・いや、本当に裕美が明雄を救ってくれたのだ、そう感じられる。医学がどんなに発達しても、人間が感じる摩訶不思議な体験は否定できない。宇宙の広大な空間を人間の裏側だとする思想は、あながちデタラメではないと思わされる時がある。遠い過去に起こったことを夢で感じる人、数千年の未来を予言する人、頭がおかしいのではなくそう感じられるからそう言葉に出すのだ。

看護師に勧められて、明雄のベッドで寝かせてもらった。明日の朝には面会できるだろう事を願って、再び深い眠りに就いた有紀であった。

明雄は自分の体調を勤務している派遣会社に話した。結果は、契約打ち切り、退院後再度申請して欲しいと言う事になった。予想していた通り、解雇になってしまった。実際の仕事場所ではぜひ治ったら戻ってきて欲しいと言われたが、派遣会社から新しい人材が入社したら、明雄は戻る場所を失う。入院費用のことや将来の仕事の事などあれこれ考え始めたら、いっそ死んでしまった方が誰にも迷惑をかけないのではないかと思う日もあった。

有紀の顔を見て、いつものように接してくれる様子を励みにして、そして乗り越えてきた。薄明るいICUの天井を見ながら、時間の感覚も無くボーっとしている自分がいた。時折様子を伺いに来る看護士に明雄は時間を聞いた。

「今は夜中の3時を少し回ったところですよ。麻酔が覚めたので眠れませんよね。明日は少し我慢して夜まで起きていてください。そうしないとまた夜眠れなくなりますからね」
「はい・・・そうします。有紀は眠っていますか?」
「奥様ですか?」
「はい」
「多分お休みになっていると思いますが・・・聞いてまいりましょうか?」
「いえ、構いません・・・少し気になったものですから」
「では、石原様のご様子はお伝えいたしますので、ご安心下さい」
「ありがとうございます」

明雄が寝ていたベッドで有紀は目を覚ました。朝の光がカーテン越しに降り注ぐ。物音が聞こえるので多分いい時間になっているのだろうと時計を見た。

「あら、いけない!もう8時だわ・・・良く寝てしまった。明雄さんどうしたかしら・・・」

ナースセンターに行って聞いてみた。
「奥様ですね・・・先ほど3階の個室に移しましたので、二三日は様子をそちらで見させて頂くことになります。宇佐美と連絡を取ります。ご面会希望ですよね?しばらくお待ち下さい」

院内で使用されているPHSに担当のナースは電話していた。

「宇佐美医師から確認が取れました。ご案内しますので、当面の着替えと洗面具などを持参して頂けますか?ここでお待ちしていますから」
「解りました。すぐに戻ります」
有紀はそう答えて、明雄の身の回りのものをバッグに詰めて戻ってきた。

「恐れ入りますが入室の前にマスクを着用して頂けますか?」
渡された使い捨てマスクを有紀は着けた。
「こちらです。長い時間は疲れると思いますので、今日はご挨拶だけになさって下さい。そうですね、10分か15分ぐらいでお願いします」
「はい、心得ました」

有紀は扉を開けて中に入った。明雄は何本もの点滴に繋がれていたが、酸素マスクはしていなかったので話が出来ると思った。

「お疲れ様でした・・・ずっとあなたのこと祈るようにしていたけど、寝ちゃった。ごめんなさいね、もっと早く来たかったのに。頑張ったね、顔色いいし・・・安心したわ」
「有紀・・・眠れたのか、良かった。ボクも寝ていないんじゃないかと心配していたから。なんだか大丈夫なような気がするんだ・・・早く回復して一緒に出かけたいなあ・・・」
「そうね、少しの辛抱よ、きっと。冬が来る前に必ず退院できるわよ。クリスマスも一緒にケーキが食べられるようになっているわ」
「そうだな・・・そうだよな。有紀のおかげだ、こうして生きていられるのは。手術をする前は死んだほうが迷惑をかけないって悩んだけど、今は幸せだよ。キミの笑顔が見れて、大切なものを失いたくないって・・・ゴホッ!ゴホッ!・・・す・ま・な・い・・・」
「明雄さん!もういいの・・・しゃべらないで。良く解ったから。有紀は今までの有紀よ、初めて逢った時から変わってないから・・・迷惑だなんて気にしなくていいのよ。好きなんだもの・・・誰よりも」

泣きそうになる自分の気持ちを抑えて、また来るからと部屋を出た。いろんなことで少し悩んだりしたけど、やっぱりこの人しかいないと有紀は深く感じた。

有紀は明雄の手術が成功したことを麗子と沙織にメールした。しばらくは会えないけど、時間が来たら会いたいと書いた。麗子からは、「おめでとう!良かったわね。適性検査でみんなダメだったから、心配していたのよ。まずは良かったわ。またメールして、会いに行くから」と返信があった。また、沙織からは、「あなたのおかげね、明雄さん助かったのは。私も嬉しいわ、これで安心ね。時間が来たら三人で会いたいわね。楽しみにしてるから、もう少し頑張ってね」と励ましの返事が来た。

安田からも有紀宛にメールが入っていた。
「お世話かけましたね。何とか回復して来春からの仕事が出来ることを願っています。また逐次連絡して下さい。それから、仁美も心配していたから、電話でもしてやってください」

そうだしばらく仁美と話をしていない、と有紀は思った。夜になって、久しぶりに電話をかけた。
「仁美さん、ご無沙汰をしてごめんなさいね」
「何言ってるの、こちらこそ連絡しなくてごめんなさい。安田から聞きましたよ。良かったわね、何とか乗り越えられそうで」
「ええ、ありがとう。そうなの・・・顔色もいいしね。多分大丈夫。仁美さんは安田さんとうまく行ってるの?」
「そうね・・・昔とは違うけど、それなりにお互いが気を遣うようになったね。若くないってことかな、ハハハ・・・」