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水城 寧人
水城 寧人
novelistID. 31927
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緑神国物語~記録者の世界~ 短編集03諜報部長

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 この場にはいない宰相に苦笑いをしながら、諜報部長は別の色に染まるであろう純白のローブを身に纏った。


「おや、早かったですね」
 城の中でも、国務臣以上の階級でなくては立ち入ることが許されないこの部屋。闇に足を踏み入れた途端、特有の鉄のような刺激臭が騎士の鼻をついた。
 “極秘拷問部屋”と呼ばれる部屋の椅子には、皇帝と宰相、メイド長、そして教育長と保安部長を除いた国務臣たちが座っていた。そしてこの部屋の中心には、今日の『主役』である2人の男が鎖でイスに座らされている。騎士は諜報部長をちらりと見て言った。 
「情報は早く回ったみたいですね」
 一番先に声をかけてきた宰相が、答える。
「予想通りの集まり具合だよ。ねえ、諜報部長?」
「ああ、そうですね」
 やや投げやりな口調なのは、彼も騎士と同じ仕事嫌いだからだろう。宰相の言葉から、この部屋の『主役』を連れてきたのは諜報部長のようだ。
 騎士が城での武器盗難事件について知ったのは、首謀者である保安部の外交担当が消滅してからのことだった。真紅に染まったローブを見つけ真っ青になっていた騎士のもとに、宰相が声をかけたのである。
――君はもう意味が分かるよね?とりあえずコレを諜報部長に渡してくれないかな?
 行方不明になっていた倉庫管理科の男の謎が、渡された金色の鍵で全て理解できた。
「共犯者もいたんだ……」
 騎士の小さな呟きは、隣にいたメイド長に聞こえたようだ。彼女が、ゆっくりと騎士に目をむける。口角が上がっていた。
「フフ……まったく困ったものですね?城のものが皇帝陛下に逆らうなんて」
 ころころと笑うメイド長の表情は、今までの可愛らしい笑顔ではない。全身に魔女のような迫力があり、その瞳は深い闇に染まっていた。瞬時に騎士は理解する。この城で皇帝に仕える者は、皆が彼女と同じ瞳をしているのだと。
 ごくりと唾を飲み込んだ騎士に、メイド長が続ける。
「それにしても、教育長が来ないのはいつもの事ですが……今日に限って保安部長が来ないあたり、何かしら感じますよね」
「え、教育長はいつも来ないのですか?」
 思わず声をあげた騎士に、メイド長は目を見開いた。
「あら、知らなかったのですか?……ああ、貴方は今日が初めてでしたね。まあ彼女には彼女なりの考え方がありますから。どのみち陛下も許しているので問題はありません」
「そうなのですか。すみません、話題を逸らしてしまって。それで、保安部長でしたね?」
 その時、部屋の戸が大きく開いた。地下通路から漏れた光が差し込んで、その眩しさに騎士は目を細める。
 騎士の背後から、皇帝が憎らしげな声で言った。
「お前が招かれざる客か、保安部長」
「ふっ。陛下に話しかけられるのはこれが最後のようですね」
 蔑むような笑みを浮かべた保安部長。皇帝の隣に座る宰相が翻したのは、この場にいる皆が着用している漆黒のマント――。
 剣の切っ先は、保安部長の喉もとに向けられている。
カキン
 騎士の剣が、宰相の剣をのけた。
「閣下、ここは私が」
 頷いて皇帝のもとへと下がった宰相を確認し、騎士は視線を保安部長にむけた。視界の隅では諜報部長が笑っており、騎士のこめかみには青筋が浮かぶ。しかしそんな余裕は、保安部長の取り出したモノを見た瞬間に吹っ飛んだ。
「銃!?」
 教育時代に一度だけ見たことがある、黒光りした拳銃。すっきりと彼の手に収まるその武器は、この世界では絶対的な威力を持つ最強の暗殺道具。
 銃口が皇帝にスッと向けられた。
「これは女帝国が開発する特殊な武器だそうですね。城の武器庫にもありましたが、何故使わないんです?陛下」
 クスクスと笑う保安部長は、ゆるぎない瞳で皇帝を見つめる。
「いままでずっと貴方は裏切られていませんか。その気分はどうです?」
「何が言いたい」
 身動き一つなく保安部長を睨み返す皇帝。
「何が言いたい?だってしょうでしょ。緑神国の長でもある貴方に賛同するものなんて、この部屋にいる7人がやっとではないですか」
 
「それは素晴らしい勘違いですねぇ?」

サクッ 
 それは目にも留まらぬ一瞬だった。
 騎士の長い剣が一直線に振られ、保安部長の利き腕を切り落としたのだ。ボトッという音とともに、握られた拳銃が皇帝の足元に転がる。皇帝は汚らわしそうにソレを見つめる。
 部屋に満ちた沈黙は、保安部長の叫びで破られた。
「う……あぅ…あああああああああああッ」
 肩に大量の血を溢れさせながら、保安部長が皇帝のもとに歩を進める。凍りつくような瞳を向けた騎士が、勢いよく彼を蹴り飛ばした。
「ぐがッ」
 扉の前まで血だらけで倒れた保安部長を、追い討ちをかけるように騎士が追う。周りの国務臣は何も言わずにその様子を観察していた。部屋の中心で顔を蒼白にしながら失神している『主役』達には、誰も興味を示していなかった。
 ユラリ、と騎士の体が揺らめく。
「あのさあ保安部長。陛下に余計な事言わないでくんない?私達以外の者が裏切っている?ふふ、そんなことあるわけ無いじゃないですか!!」
ザクッ
 再び振られた剣に抵抗する余地もなく、保安部長の左腕は落とされた。
「わ、悪かったぁぁぁ!やめろぉぉぉッ」
 ポロポロと涙を零しながら、彼は騎士に懇願する。体中は痛みのせいか痙攣していて、身動きするたびに血が床を濡らしていた。あまりの酷さに見ていられないほどである。
「残念だけど、陛下に言葉を発する権利は、お前にはないんだよね」
ガスッ
 騎士の剣が、男の脇腹に突き刺さった。とどめをささない剣捌きのあたり、騎士の垣間見せる冷酷さが現れている。諜報部長が、苦笑していた。
「あはは、さすが国一番の剣士だね。全く、笑わせてくれるじゃないか」
 ねえ?聞かれた国民長は、小さく肩をすくめた。緑神国で仕事をしていれば、こんな場面いくらでも目にするのだ。
 その時、皇帝が口を開いた。
「騎士、もういい」
 まるで時間が止まったように、騎士はぴたりと静止した。そして何事もなかたように保安部長に背を向けると、皇帝の前で跪いた。立ち上がった皇帝の横には、『主役となるはずだった罪人』が恐怖で震えている。
――気を失ったままの方が良かったのに。
 諜報部長はそう思ったが、すでに遅い。皇帝は宰相から剣を受け取ると、死にかけた保安部長の目の前に立った。引きずられたマントの裾が、床に零れている血でさらに深い闇色になる。そう、今までもこのマントはずっと人間の血を吸ってきた。 
「保安部長。戯言はもう終わりか」
「こ……皇帝、陛下……」
「本当だったら、お前にも公開処刑を受けてもらいたい所だが……まあいい。私はとどめをさす気はない、せいぜい死ぬまで苦しんでろ」
 宰相に借りた剣を振ることなく、皇帝は言い放った。その目が、鎖の音をたてる2人の男達に向けられる。
「お前らにも用があるんだった」
「うあぁぁぁあぁあ」
 ガキンッ
 諜報部長の取り出した剣が、彼らの座る椅子に勢いよく当てられた。諜報部長は普段の軽い雰囲気とは裏腹に、冷えた表情を浮かべている。そのナイフのような鋭い迫力に、男達は押し黙ってしまった。皇帝が言葉を続ける。