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しっぽ物語 8.白雪姫

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 鼻を鳴らし、電源をつけたままのレコーダーをポケットに落とす。
「あんたらの宣伝活動に加担する気は更々ないんでね。『ボードウォークの天使』、いいタイトルだろ」
「くだらない」
 Gは不機嫌に顔を背けた。
「いかにもイエローペーパーらしい見出しだな」
「そのイエローペーパーは、面白い情報も持ってるんだ。あんたらに直接関係する話で」
 すっと細めることで誤魔化した瞳の揺れを覗きこむ。
「この病院で聞いた話。キングダム・カジノの雇用形態に抜け穴があるみたいだってな」
「抜け穴?」
「つまり、被雇用者に対して著しく不利になるような契約内容があるってことだよ」
「馬鹿らしい」
 くるりと踵を返し、Gは受付に向かった。
「私もその被雇用者の一員として言うが、ここは他のホテルに比べても格段に働きやすい職場だよ。強制される残業はないし、給料だって悪くない」
「才能あるカジノディーラーが車に撥ねられて、休みが欲しいのに休めないそうだ」
 首を捻っただけの姿勢では鼻から上しか見えないが、確かにGの目尻は神経質に引き攣っていた。傷だらけの受付の台に出腹を押し付け、Rは男の横顔に詰めの笑みを浮かべた。
「あんまり長期休暇をとると解雇されるから、怖くて休みを取れないらしい」
「名前は」
 心得顔で籠を受け取った受付嬢は、Rの顔を確認した途端、縮れた黒髪の向こうにある無感情を不機嫌に変える。三日前、手懐けようとして失敗したことを思い出し、苦笑いを返しておく。
「ディーラーの。今すぐ休暇をとらせる」
「見舞金も出ないとかで」
「心当たりのある奴が一人いるが」
 台帳に引っかかったペン先に舌打ちしながら、Gは呟いた。
「そいつは無断欠勤を繰り返した挙句、勤務時間外に車に撥ね飛ばされた。しかも軽症で、医者から完治のお墨付きを貰ってる。大体見舞金は渡してあるぞ」
「へえ、俺が聞いた話とは違うな」
 少しだけ、と指で示してみせる。
「あれは見舞金じゃない、口止め料だってな」
 余りの圧力に、細かく連なった文字の上へダークブルーのインクが滴り落ちる。縁だけが青さを見せる染みをじっと見つめたまま、Gはしばらく口を開かなかった。
「そもそも、そんなろくでもない奴を雇っておくなんて、ご立派なホテルらしくないな。どういう風の吹き回しだ」
「カジノのことは部署違いだ。フロア・マネージャーに聞いてくれ」