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ぼくのウルフマン

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 つまりこんな風に彼はぼくのウルフマンそのものだ。つまらないリアルワールドの中で彼の存在こそがぼくの生きる価値になっている。
 だが、ぼくは彼とは殆ど口をきいたこともない。こっそりぼくは彼を観察する。もしかしたら突然にウルフマンになってしまうかもしれないからだ。凶暴なウルフマンを抑えきれるのはぼくだけなんだ。満月が近づくとウルフマンは理性を忘れ、次々と人間を襲うようになる。逃げ惑う人々の群れに逆らって彼に近づくのはぼく一人だけだ。彼は狂って血走った目でぼくを見つめる。ぼくも彼を見つめ返す。他の人間なら一撃で殺されるが彼はぼくを傷つけたりはしない。ぼくは彼の毛深い体を抱きしめ、尖った鼻にキスをする。涎を垂らし牙を?いていた彼がぼくの腕の中でおとなしくなる。そして彼はぼくを抱く。
 と、それは僕の夢想世界での話なのだが、ぼくはいつでもリアルと夢がごちゃ混ぜになってしまう。
 ぼくは奥上達朗を現実世界(リアル)でのウルフマンと呼んでいる。なぜならファンタジーワールドでぼくとウルフマンは恋人同士だからだ。
 毎晩、ぼくはウルフマンと愛し合う。リアルでの自分は自分を慰めている。ウルフマンのモノは滅茶苦茶でかい。でも大丈夫だ。これは夢の世界での出来事だ。ウルフマンはぼくを抱き、ぼくは彼を受け入れる。これ以上ない快楽をぼくらは楽しむ。
 さて、ぼくは平凡な高校生二年生男子だ。ゲイであることは特別なことなのかもしれないが、今のところ、ぼくはそのことを皆に隠している。勿論クラスメイトでしかも男子である奥上を好きなことは絶対の秘密だ。
 そういう訳でぼくは虐めにも遭ってないが、目立ったこともない。身長も体重も容姿も成績もごく平均月並みだ、と思う。
 そんなぼくのたった一つの自慢できることは他の人より少し絵が上手いということになるかもしれない。かなり自己満足のみの絵には違いないけれども。
 このところ、ぼくが夢中になっているのはイラストや漫画を描いて無料ウェブ漫画やブログにアップしていくことだ。一体何を描いているのか?ここでぼくのウルフマンが登場する。ぼくはファンタジーワールドでウルフマンに出会って以来、彼と恋に落ち、彼の絵を描き、彼との物語を漫画にしているのだ。
 
 高校に入ってすぐ、ぼくはウルフマンに出会った。ウルフマンというのはぼくの永遠の恋人の別名だ。彼の姿や役柄はその時々で変わるけどぼくにとって恋人は常にウルフマンなのだ、ということになる。
 ぼくのファンタジーワールドはパラレルに存在している。このリアル世界もその一つだが、ある時は西洋や東洋の古代であり未来や宇宙に飛ぶ時もある。何かの本や映画をきっかけに新たなるパラレルワールドがぼくによって生み出される。主人公であるぼく自身もその世界によって様々な形態に変化する。ぼくは可愛らしい少女になる時すらある。だがそんなぼくの(女性になったとしても)恋人になる相手は常にウルフマン、彼なのだ。ウルフマンは肩から上が狼でそれより下は人間として存在する。背は一九〇センチを越え、長く突き出た鼻と鋭い牙を隠し持った裂けた口、血に飢えた赤い目は吊り上がり尖った耳は大きい。灰色の太く強い毛が肩まで覆い尽くしている。それから下は人間の形ではあるがやはり毛深い。胸も腕も背中も尻も脚から足や手の指まで荒々しい毛が生えているのだ。体臭はきつく他の人間には耐え難いがぼくはその匂いが好きだ。そして男性の象徴であるアソコにこそウルフマンのすべてがある。彼は満月に近くなるほど血が騒ぎ理性を失ってしまう、という特性がある。怖ろしいウルフマンが理性を失えば時代が未来であれ過去であれそこに住む人々はウルフマンの餌食になってしまう。ウルフマンは悪ではない。自然そのものを意味している。彼は正義でも悪でもなく自然の権化なのだ。彼の怒りを和らげる為には彼が求める生け贄が必要となる。それがぼくだ。ファンタジーワールドのぼくはリアルのぼくとは違う姿をしている。名前はアレクス。背は百八十センチ、体重六三キロ。輝く黄金の髪に湖のような冷たい青い瞳を持つ。すらりとした肉体には一分の贅肉もない。透き通る白い肌に均整の取れた美しい体のぼくを見てウルフマンは満足する。誰もが震え上がるウルフマンを見てもぼくは怯えない。誰もが逃げようとし、裂けて行くウルフマンの孤独の目にぼくは惹かれる。何でも引き裂く鋭い爪もどんなものも食い千切る牙もぼくは怖れない。愛しいウルフマン。ウルフマンにもぼくの心は通じている。
 
 次の日の昼休み。ぼくはいつものようにそそくさと弁当を済ませてしまうと一人机でブログにアップする予定のウルフマンとエレノアを描いていた。同時にぼくの魂はあの国へ飛んでいき、そこに留まっていた。
「へえ、井伏、かっこいいな、それ」
ファンタジーワールドにすっかり入り込んでいたぼくは一気にリアルに引き戻されたが、暫し何が起きたか判らず、魂を引き戻すのに必死だった。そうだ、ぼくは昼休みの教室、廊下側から三番目後ろから二番目の自分の机でそそくさと弁当を食べた後、今夜ブログにアップしようとエレノアとウルフマンを描きながらまた一人であちらの国の会話をしてたのだった。
 エレノアは永遠の処女なのでウルフマンと肉体関係を持ったりはしない。彼らは人間にとって愛とは何かを語り合っていたのだ。そんな所へ突然天から大声が降ってきた。リアルに戻ったぼくが目を上げるとぼくの描いた花束を持つエレノアと彼女を見守る人狼ウルフマンをじっと見下ろしていたのは、なんとウルフマンその人だった。
 まさか。急いで瞬きを繰り返す。焦点を合わせて見るとそれはぼくがリアルのウルフマンと呼んでいるクラスメイトの奥上達朗だった。また近くで見てしまった。かっこいい。汗が噴き出す。
「え、え、え、な、何?」自分で勝手に恋人のウルフマンと重ねているくせにぼくはクラスメイトの奥上と話したことが殆どなかった。奥上は狼的なクールな目をいつもになく見張って低い声で話し出した。狼がしゃべったらこういう声ではないだろうか。
「お前ー、昨日もそんな風にして道歩いてたんだろ」
「あ」思い出した。そうだった。「き、昨日はありがとう」
「そんなん、どうでもいいけど。井伏、お前ってそんな絵が上手かったんだ。へええ、才能って判らないもんだな」
体のでかい奥上がしきりに感心している。二年になって同クラスになり初めて自分に向かった言葉がこんな褒め言葉になるとは思いもしなかった。
「い、いや、上手いとか、そんなんじゃないけど」ぼくは小さな声でしどろもどろに返す。
「まあ、俺は絵のことは判らんけどさ。とにかくかっこいいよな、それって狼男?」
「あ、あああ、ああ、これ?」
並べて絵を置いていたのに、奥上が可愛い女の子であるエレノアよりウルフマンの方に興味を持ったのがぼくは少し驚きだった。
「ウルフマンだよ。狼男みたいに満月の時だけじゃなくいつもこの姿なんだ」
「へえ、そうなんだ」
しまった。つい調子に乗って自分勝手な創作をぺらぺら話してしまった。
「う、うん、まあ」
「何かの漫画のキャラなん?」
「いやぼくのオリジナルだよ」ああ、また。
作品名:ぼくのウルフマン 作家名:がお