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ぼくのウルフマン

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「それでお前が犠牲になるというのか」
高い背もたれの椅子に座っていた男の顔は何と言うことだろう。人間ではなく狼の形をしていた。長く突き出た口の縁からは赤黒い舌が見え隠れする。鋭い牙が時折蝋燭の光を受けて鈍く輝く。闇のように黒い瞳を持つ目は血走りいつ狂気に陥るか判らない。七フィートに近いと思える巨大な体は上品な衣服に包まれていたがそこから出ている大きな手に硬い毛が密に生え、爪は短かったがどす黒く見えた。その衣服の下にどのような強靱な肉体が隠されているのだろうか。そんな彼が今住居としている城を訪れた青年はアレクスと言いまだ年は一七歳。六フィートを越す身長、隆と盛り上がる筋肉は若いためにしなやかでまだどこか幼さがある。輝く黄金の髪に湖のような冷たい青い瞳を持つ。
「私がこの領地を支配した為に数多くの民が私によって命を奪われた。私の欲に限りはない。それを抑える為、お前が犠牲になる。それがどのような意味なのかは判っているのだろうな」
青年アレクスは黙ったまま衣服を脱ぎ捨てた。すらりとした肉体には一分の贅肉もない。透き通る白い肌に均整の取れた美しい体の彼を見てウルフマンは満足していた。
「よかろう。ではお前の体がそれだけの価値を持つのか、実際に試してみよう。ここへ来るがよい」
ウルフマンの言葉に臆することもなくアレクスは近寄った。青い目には僅かに悲しみが宿っているがそれは決して哀れを含んではいない。ウルフマンはその潔さに疼きを持った。
「美しい若者よ。名前は?」
「アレクス」
「そうか。良い名前だ。私のことはウルフと呼ぶがいい」
「ウルフ」
「お前を味わってみよう。お前は今まで誰かにその味を教えたことがあるのか?」
この言葉に頬を染めた逞しいアレクスは俯いた。
「いいえ、まだ誰も」
「そうか。では私のものが初めてお前を貫くのだな。それは苦痛だが、お前次第ではそれが甘美な時となることもあろう」
ウルフマンも立ち上がり、その巨?から豪奢な衣服を剥ぎ取った。途端に鋼のような筋肉と剛毛に覆われた肉体が露わになる。今までに嗅いだことのない体臭がアレクスの鼻腔を刺激した。それは一種の麻薬のような作用があるものか、それともアレクスだけが反応したのか彼は奇妙な恍惚感に浸る。赤黒い舌がアレクスの太い首筋を舐め、次いで麗しい薔薇色の乳首に絡みついた。「あ」という小さな溜息が漏れる。ウルフマンが彼の顎を掴んで表情を見ると眉根を寄せすでに快感を捕らえているのが判る。「感じやすい体なのだな。ではお前の意思を見せてもらおうか」ウルフマが下半身を覆う衣服も脱ぎ去るとそこには特に剛い毛に覆われ巨大な逸物が飛び出していた。美しい白皙のアレクスは彼の足下に跪きその逸物を愛撫し始めた。口には入らないが柔らかな皮膚の指で掴まれしごかれ、湿った舌で舐められウルフマンのそれはますます硬直し反り返っていく。「お前の心は通じた。アレクスよ。このテーブルに乗ってその伸びやかな脚を開くのだ」アレクスが言われたとおりにして局部をウルフマンにさらけ出すとウルフマンはまだ誰も触れたことのないペニス、そして誰も挿入したことはないアヌスにその赤黒い舌を這わせた。アレクスの喘ぎ声は次第に激しくなっていく。ウルフマンの舌がアレクスのペニスを包み込むように舐め回し、アヌスは長い舌によってほぐされ次に訪れる固い逸物の通り道をつける為に何度も繰り返し侵入してくる。「今までにないほど芳しい味わいだ。アレクスよ。では最終試験を受けるが良い」どっしりとしたマホガニーのテーブルの上に座るよう命じられたアレクスのアヌスに今、ウルフマンの巨大な逸物が挿入されようとしていた。黒々と光り、もうすでに白い液体が先から溢れ出ているそれを受け入れたアレクスは叫び声を上げ鍛え抜かれた体を反らした。
「アブねっ。何やってんだっお前っ」
ぼくの目の前すれすれを鮮やかなピンク色の軽自動車が横切っていった。
 
 ぼくの魂ははファンタジーワールドの中を彷徨っていて肉体のみがリアルワールドを歩いていたのだった。
 リアル世界に戻った俺は登校中、降りたバス停から歩いてもう少しで学校に着く途中だった。脇道から本道へ入る瞬間、通りかかった軽自動車に衝突する寸前だ。その俺の腕を掴んでくれたのはなんてこった、リアル世界の俺のウルフマン、奥上達朗その人だったのだ。リアル・ウルフはその名に相応しい形相で俺を怒鳴りつけた。まったく狼みたいに浅黒くて怖い顔だ。
「井伏かよ。何やってんだ。朝からぼおおっと歩いて。今俺が掴まなかったらオマ、完全に轢かれてたぜ」
「ご、ごめん。あ、ありがと」
背の高い彼に掴まれ、ぼくの体は空中に浮かんでしまった。掴まれた手首が痛い。奥上はふんとばかりにぼくを地上に降ろすと「さっきのは運がよかっただけだぜ。いつもそんなにタイミング良く来れるわけじゃねえんだから気をつけろい」そう言って狼らしい鋭い目をして去っていく後ろ姿に暫し見惚れていた。鼻血が出てたとしても事故のせいではない。
「痛」
掴まれていた手首が熱い。危機一髪で俺を救ってくれたウルフマン。こんなに近くで見たのは初めてだった。ファンタジーのウルフマンのように体臭はきつくない。少し汗ばんでいたけどね。力強い腕。低い声。うーん。ますますウルフマンと重なる。ぼくはますます彼とウルフマンを融合させてしまうじゃないか。

ぼくはここでカムアウトしたいことがある。一つはぼくが非常に狭い範囲のゲイであること。一つは同じクラスの奥上達朗が好きなこと。もう一つは現在ウルフマンと愛し合っていること。
 そう言うと多分、ウルフマンって何?と思われてしまうだろう。ウルフマンはぼくの妄想から生まれたファンタジーワールドの住人で肩から上は狼、それ以外は人間、という生命体なのだ。彼は所謂狼男のように満月の時だけ変身するのではなく常時人狼である姿をしている。
 ぼくは彼に恋している。ウルフマンというイメージに恋をしている。ウルフマンと言う存在であり得る男性に恋をする。別の角度で言えば狼と人間の合体動物、というイメージに俺は興奮するのだ。狼の顔と毛深さと力強さを持った逞しい男性の体に欲情してしまう性癖を俺は持っている。ぼくはゲイ、であると思う。女性には性的関心がない。でもたとえ男性でもウルフマン以外の人間にはまったく興味も恋心も生じない、という種類のゲイであるとカムアウトしよう。
 そしてリアル世界でぼくが「ウルフマンだ」と感じた男性がクラスメイトの奥上達朗だったのだ。
 
 同じクラスにいる奥上達朗は陸上部で800メートルを走っている。その姿を見てぼくは昂ぶる。ぼくは何部にも所属していないので彼が柔軟体操をしたりグラウンドを走るのを見て帰宅する。
 奥上は背が高く、胸板の厚いがっしりした体格だ。着替え手いる時、彼の背中の毛が濃いのを目撃してしまった。髪は学校の規則もあるから長くはないが硬そうな髪質を逆立てている様は狼そっくりだ。一重瞼のクールな目をしていて笑うと裂けてしまいそうな大きな口も狼の種族の印である。さらに奥上は走る以外の運動神経も抜群で喧嘩も強いという噂がある。友人も多くて女子にももてている。
作品名:ぼくのウルフマン 作家名:がお