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てっしゅう
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「忘れられない」 第五章 仁美の秘密

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「ごめんなさいね。泣いちゃった・・・ずっと我慢してきたのよね。あなたに付き添って自分の事は帰ってから考えようって。裕美の事は考えても考えてもどんどん辛くなるの。解る?失ってみて初めて気付くのかも知れないけど、何も出来なかったことが悔やまれて・・・そのことばかり、自分を責め続ける。あなたと出会えてなかったら、きっと自分から命を絶っていたかも知れないわ。確かに安田に責任を押しつけて自分を慰めようとした部分があるわ。安田は裕美が死んだことを知らないのよね?」
「多分ね。自分の部屋の前の住人が自殺したという事は聞いているのかも知れないけど、それが娘だとは気付いていないと思うよ。すぐに知らせるべきよね?違う?」
「知らせて二人で慰め合うの?そんな気にはなれないわ」
「違うよ、親として知る権利がある、知らせるべきよ」
「親は私だけよ!安田は・・・父親の資格なんかない。なによ、いまさら知らせたってどう変わるものじゃないし、慰めてもらいたくもない。もっと先でいいわ、有紀さん」
「あなたがそう言うのなら、無理に私が知らせる必要はないけど、そんな酷い人には見えなかったけどねえ。まあいいわ、それよりあなた今夜一人で大丈夫?泊まろうか?」
「大丈夫よ。有紀さんは帰って、ほら、電話しなきゃダメじゃないの?そうして。明日また聞かせて、どうなったか・・・ね?」
「うん、解った。そうする。じゃあ、気を取り直して普段通りにしなきゃダメよ。あなたまだまだ若いんだから、私よりも」

さようならを言って有紀は自宅へと帰って行った。寝屋川駅の近くにあるパスタ屋で軽く夕食を採り、マンションに着いたころ、玄関先に停まっているタクシーから安田は降りてきて、一緒になった。
「こんばんわ。どちらかに行かれていたのですか?」安田はしばらく留守だったので尋ねた。
「ええ、岡崎へ。知り合いがいましたので」
「そうでしたか。岡崎ですか・・・私は前の仕事先が岡崎だったんですよ。偶然ですね」

「えっ?そうでしたの・・・偶然ですわね」有紀は安田の顔をじっと見つめてしまった。
「どうかされましたか?なにかお尋ねになりたいことでもありますか?」

心の中を見透かされそうになった。慌てて否定して、首を横に振り、話題を変えた。

「安田さんはどちらでお仕事されているのですか?」
「はい、名古屋にある自動車部品メーカーです。この一月から転勤になってこちらへ来ました。埜畑さんはお仕事されているのですか?」
「名古屋から来られたのですね・・・そうでしたか。元々は大阪の方ですよね?言葉がご一緒ですから。私は今は仕事をしておりませんの」
「ええ、そうです。ちょっと事情があって勤めていた会社を辞め知り合いを訪ねて名古屋で就職しました。大阪に転勤しろと言われて、ちょっと悩みましたが、独身だしもうすぐ定年になるからここは従おうって・・・生まれ育った場所ですからなじめるのですが」その先は黙ってしまった。

「私は長年努めた仕事を辞めたばかりですの。ストレスで病気になり、退院して今は自由に生きていますのよ。先のことを考えると不安ですが、しばらくはこのまま過ごす予定なんです。お話出来てよかったです。どんな方なのかちょっと気になっておりましたから・・・」
「そうでしたか。中年男の一人暮らしですから、不安に思われたのですね。ボクもあなたのような綺麗な方とお話しが出来るようになれて良かったです。では、また時間がありましたらお話して下さい」

エレベーターが5階に着いてそれぞれの部屋に向かって歩いた。
「では、失礼します」先に安田が部屋に着いた。
「はい、おやすみなさい」有紀が返事した。
思っていたより物腰も柔らかく、好印象の安田であった。仁美が嫌っているようなことをしてきた人物なんだろうか・・・そうふと思うようになった。

たくさんの新聞や郵便物を取り込んで、部屋の灯りを点けお風呂の湯張りをして、ソファーに腰掛けた。いろんな事があった5日間であった。何故か疲れがどっと出てきて電話を掛ける気力が無くなってしまった。「明日にしよう」そう決めて、洗面所で歯磨きの後、メイクを落として、テレビを観て寛いでいた。

仁美は安田のことを考えていた。有紀が言った「父親だから知る権利がある」という文句が引っかかっていたのだ。裕美からすれば確かに父親であることに違いない。自分がもし逆の立場だったら・・・何故知らせてくれなかったの!と怒りをぶつけてしまうだろう。理由はともあれ安田にとって裕美の消息を知る方法は、仁美に聞くしかないはずだ。お互いに今も携帯のメールは繋がっている。仁美が変えなかったように、安田も携帯を変更しても、番号とアドレスは同じにしている。

携帯を手にした仁美は安田のアドレスにメールを入れた。
「お知らせしなければならないことがあります。12月に裕美は不慮の事故で亡くなりました。何も出来ない日々が続きやっとお知らせできるようになりました。残念で仕方ありません」と。

すぐに知らせるべきであったのだろうか、これでよかったのか、それは自分でも判断できない。安田がどう返事してくるのか、その事は気がかりではあった。有紀には安田にメールをしたことを電話で伝えた。
「今時間よかったかしら?」
「仁美さん、構わないわよ。どうしたの?」
「ええ、いま安田に裕美のことメールしたの。返事はまだ来ないけどあなたにお知らせしたくて電話したのよ」
「そうだったの、良かったわ、その気になってくれて。さっきね、玄関先で安田さんと偶然会ったから、少しお話ししたのよ。名古屋の勤め先からこちらへ転勤でいらしたんだって」
「そう、何か気になること聞いたの?」
「ううん、何も・・・また話しましょうって別れたわ」
「聞かなかったのね、何も」
「ええ、そうよ。あなたと私が知り合いだって事、解ったらきっとビックリされるわね」
「そうね、裕美のことも知らせたから二重よね。偶然とはいえ、あなたのマンションに安田が住んでいるなんて・・・ね」
「やはり裕美さんの引き合わせなのよ。何かを知らせたかったのかしら・・・」

そうだ、知らせたかったのだ。とても大切なことを・・・

有紀は電話を切って風呂に入った。バスタブに浸かってゆっくりと流れる時間を過ごすことが一番の楽しみ。仁美と安田の事を考えていた。

「仁美さん、安田さんに裕美さんの事知らせたのよね・・・それとなく今度顔を合わせたら聞いてみようかしら。すぐ傍に住んでいて、何もかも知っているのに黙っているなんて、やっぱりなんだか悪い気がする」
有紀はそう思い始めた。身体が温まってきて少し眠気が襲ってきた。疲れもあるのだろうが、早めに出て今日は寝ようと思った。

パジャマに着替えて、冷たいジュースを冷蔵庫から取り出そうとした時、ピンポン!と呼び鈴が鳴った。
「誰だろう?こんな時間に・・・宅配便にしては遅すぎるけど」ちょっと嫌な感じを抱きながら、玄関に出た。覗き窓から見ると、そこに安田が立っていた。
インターホンで会話をする。

「遅くに申し訳ありません。安田です」
「はい、どうなさいましたか?」