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佐崎 三郎
佐崎 三郎
novelistID. 27916
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因縁論

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思った通りオタクな顔だった。学生かどうか分からないが、年齢不詳のなよっとした男であった。ワタシは特に何も云わなかった。3冊を渡した時、その本を見て女店主が話しかけてきたので少し驚いた。それはくだけた感じの声質と態度だったからだった。そう、本に出てくる会話を聞いてるような。実はこの人も同類なのかと訝った。

「これは表の本ですかね。今日はすべて100円になってますよ。それから」
といって先程の署名本を手にして、表紙を開きながらこう続いた。
「あの、この署名は見ましたぁ?」
「はい」
「ある人が言っていたんですが、著者よりもなんかぁ有名な人に送ったみたいなんです。その人のほうが価値があると」
「その方は詩人です」
「ああ、そうなんですかぁ」

男の視線を感じながら700円を支払って、「雨が降るかもですよ」と言った女店主が紙袋に入れようとするのをお断りして、むき出しのまま本を手に車に戻った。これで初版本購入が4回連続である。(姫路でも出会った!)決して狙っているわけでもないが、嬉しいものだ。欲を失くすことはできないけれど、いつも考えているからか、アンテナの感度がいいのか。いやいや、偶然である。何事も偶々である。

漱石のお墓に猫が居たのも、(これで二度目だが)、吉行兄妹との出会いも、初版本との出会いも、すべて偶然の賜物である。またはすべて因縁があるとも言える。それからもうひとつ付けくわえると、白洲・河合対談の本の題名は、

『縁は異なもの』であった。ほんとうの話である。

そして、実はもうひとつ、あの署名入りの本と吉行理恵さんの本は同じ1981年に発行されていた。ちなみにと、白洲・河合対談本は2007年発行。で、またビックリ。この文庫本もまさしく初版本であった。怖しい。現実は怖しい。ねえ、漱石さん!

旅から帰って、こうして東京の片隅で、今日もいい買い物をしたと自己満足で、後ろめたい気持ちのまま女子大を背にし、いつのまにか日も暮れた薄暗がりの風景へとゆっくり密やかに入っていったのだった。      

                                                                            (了)
作品名:因縁論 作家名:佐崎 三郎