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海竜王 霆雷 発熱2

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「ああ、連れて帰ってくれ。・・・・じじい、ありがとう。気をつけて帰れ。」
 手を振って挨拶すると、霆雷が移動して私宮に戻してくれた。暴れて力を使ったことになっているから、このまま眠ってもいい。ひとつだけ、雷小僧に告げておくことがある。
「霆雷、カメは、おまえが気に入った。・・・あれは、心の波動が真実で、言葉はまやかしだ。だから、波動を読んで話をするといい。」
「性格めちゃ悪ってことか? 」
「長く生きているから、ひねくれたと本人は言ってる。」
 玄武の寿命は、竜族の何倍もある。だから、すぐに入れ替わってしまう生き物など受け入れられなくなったのだ。その度に、取り残されて悲しみを感じるなら、最初から付き合わなければいい。それが玄武の考え方だ。深雪に関しては、さらに弱くて、寿命もまっとうできないから、ああいう物言いをする。だが、まっとうできない短い生を、できれは長く延ばしてやりたいとは思ったらしい。小さな頃の深雪は、弱かったから、さすがの玄武でも気になった。それなのに、やんちゃで言いたい放題で、生死を賭けた戦いもする。破茶目茶な生き物過ぎて、心を傾けさせられた。大変迷惑だと、玄武は笑った。悲しみを遺すものと付き合いたくはないのに、目を離せなくなったとも言って、小さかった深雪の頭を撫でてくれた。今も、それは続いている。だから、玄武にはありのままの自分で逢うことにしている。気に入ってくれてよかった。自分が消えても、また、雷小僧という破茶目茶な生き物がいれば、悲しみも和らぐはずだ。
「すまない、俺は少し寝るよ。・・・後は華梨が取り仕切る。カメは、住処に跳ばしたってことにしておいてくれ。」
「了解。おかーさんには、そう言うよ。おやすみ、親父。」
 がっくりと床に崩れていく父親の身体を寝台に跳ばした。そして、その横に、霆雷も横になる。さすがに、あの派手な演出は、いかな水晶宮の小竜でも疲れた。



・・・・・言葉はまやかしなんだな・・・・



 言葉だけで理解できない相手もある。人間だって、そういうのがいた。自分の養父は、まさに、それだった。何を考えているのか、ちっともわからない相手だった。最後まで、何も告げずに逝ってしまった。自分が人間から竜になるのだと、養父は知っていた。だが、霆雷には告げなかった。自分でもぎ取るものだと思ってたのかもしれない。
 聞こえるものだけが全てでない。深雪が、玄武の波動を届けてくれた時に理解した。玄武は、本当に、深雪のことを心配していたからだ。だから、父親は虚勢を張って、あの場で倒れなかった。倒れたら、黄龍の攻撃を覚悟して、深雪を届けるつもりだったからだ。



・・・親父、強えーな。俺は、まだまだだ。・・・・



 能力の高さではなくて、相手への気持ちで立っていられる父親は強い。ちゃんと、自分にも説明してから眠るのも、そういうことだ。昨日、ずっと手を握っていてくれたのも嬉しかった。それを言うのを忘れていた。起きたら、礼を言おうと、霆雷も目を閉じる。









 深雪の眠り病というのは、力の使った度合いによって眠る期日も異なる。派手に暴れてしまったから、一週間は眠っているだろうと、主治医の叙玉は診断した。眠っていても栄養は摂らせたほうがいいから、玄武の例の飴を砕いて、口元に含ませる。これは、玄武の秘薬で作ることはできない代物だ。叙玉が深雪のために直接、玄武の宮城まで出向いて作り方を乞うたこともあるが、教授はしてもらえなかった。ただし、その代わりに玄武の長が直々に定期的に届けてくれる。
「せんせ、親父は? 」
 ひゅいっと空間を移動して突然に、雷小僧が現れる。すでに、この出現に誰もが慣れた。手近の書類で、ぽかりと雷小僧の頭を叩き、「まだだ。」 と、返事する。
「今は、勉学の時間ではないのか? 霆雷。」
「休憩だ。・・・親父、そんなに悪いのか? 」
「いつものことだ。気にするな。」
 あれから三日だ。まだ、目覚める様子はない。疲れて静養していたところに、あの騒ぎだから、さすがに力尽きたのだろう。廉が呆れ顔で、眠っている深雪に叱責を食らわせたが、それでも意識は戻らなかった。誰かが傍についているのが常になっているから、今も叙玉と沢が寝台の傍に控えている。公務が終れば、華梨が戻って、ずっと傍に居るし、公務の手隙に廉や蓮貴妃も現れる。長引けば、これに、現役竜王も現れたりする。深雪に過保護な面々は、眠り病の報告に敏感だ。小さい頃、誰も居ないと泣いていたのを知っているからだ。
「俺に治癒能力なんてものが備わってたらよかったのにな。」
 寝台に降りて、父親の顔を眺めている小竜が、ぽつりと呟いた。あれば便利だろうな、と、叙玉も考える。
「神仙界広しと、言えど、そのような能力は、誰も持ち合わせていない。それは、ないものねだりと言うんだ。」
「けど、せんせー。親父は人間だった頃はあったんだぜ? 親父の親父を治したことがあるって。」
 聞いたのではなく、その記憶が寝込んだ霆雷に流れてきた。熱が高くて、その時は、はっきりとわからなかったが、思い出すと、そういうことを念じていてくれた。自分に能力があるなら発動してくれ、と、願っていてくれたのだ。
「え? ・・・だが、今はないはずだ。」
「うん、使えないって。」
「なら、やはり、ないものねだりだ。」
「わかんねぇーよ。もしかしたら、俺には備わってるかもしれない。今のところはないんだけどさ。」
 可能性はないことはない。父親は人間だった時に使えて、竜になって使えなくなった。もしかしたら、自分は逆かもしれない、と、雷小僧は考える。今は、まだ、身体が小さくて能力自体も使える範囲が限られている。二百年すれば、竜の神通力も備わるはずだから、複合技で、なんとかならないか、なんて人間界のロールプレイングゲームみたいなことを想像するのだ。レベル99の最強レベルに到達すると、白魔法も黒魔法も限定解除で使えるようになる。その段階まで、小竜が達することかできれば、可能になるかもしれない、という夢のようなことだ。
「それは有り難いな。是非とも取得して、深雪に使ってやってくれ。」
 叙玉は、小竜の説明に頬を緩めた。まだ幼いから、そんな夢のような未来を考えられるらしい。
「おう、やってみるさ。」
 拳を力強く握り締めて、小竜がキラキラと瞳を輝かせる。大胆不敵なことを言う小竜に、叙玉も笑いを漏らす。そこへ、部屋の真ん中に黒い衣服の老人が現れた。玄武の長だ。
「まだ寝ておるのか? このへっぽこ銀竜め。わしが、わざわざ訪問してやったのに、なんとも無礼な態度じゃ。」
「申し訳ございません、玄武の長殿。主人は、まだ回復には程遠く・・・・・。」
 叩頭して、叙玉が、深雪の容態を説明しようとしたが、相手は聞く耳がない御仁だ。つかつかと寝台に歩み寄って、そこに座っている小竜に、小さな包みを渡す。
「なに? 」
「銀竜に飲ませよ。おまえは飲むでないぞ。」
「だから、何? って聞いてるだろ? カメジジイ。」
「この間、おまえに食わせた飴の素じゃ。それなら、液体じゃから、このへっぽこの喉も通る。黒雷竜よ、わしに挨拶はせんのか? 」
「よおう、カメジジイ。親父は寝てるぜ。」
作品名:海竜王 霆雷 発熱2 作家名:篠義