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海竜王 霆雷 発熱2

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たまには挨拶してやろうぞ、とか、嘯いているので、深雪も、ほとほと困り果てる。あの怒り心頭状態の妻と娘では、手加減がない。それを止めるのは、自分の役目だが、力が出ない。絶対に、まずい。怪我をさせたら、それこそ種族間抗争に発展する。黄龍二匹の攻撃を防ぎきれるだろうかと考えて、溜め息が出る。
「やはり、わしも本性のほうが貫禄があるな。」
「的を大きくするな。」
「誰が的じゃ? 表敬訪問に、的などあるはずがない。」
「頼むから、帰ってくれ。今、本気で怒ってるから危ないんだって。」
「銀竜よ、あまり怒鳴ると体力が消耗するぞ? 後で、あの飴は、やはり届けてやろう。満足に政務も勤められない哀れな銀竜には、わしも同情ひとしきりじゃわい。なんと、わしも心広いことか。この無礼な暴れ銀竜に心を砕いてやるとはな。」
 もう一度、玄武本体に変化すると、その背に深雪を乗せて、ゆっくりと浮上する。玄武は地を治めるものだ。巨体は、生半可の重量ではない。
「カメっっ、じじいっっ、おいっっ。」
「うるさいぞ、銀竜。大人しくしておれ。」
「ダメだ。」
「おまえ、わしをバカにするにも程があるぞ? 玄武の長が、黄龍の攻撃に負けるわけはあるまい。」
 動こうとする深雪を胴体に巻きついている蛇が押さえ込む。水流で落ちないように掴まえている。


 地上の光りが届く距離まで登ると、そこに突然に、現「水晶宮の小竜」が現れた。
「親父っっ。」
 その声で、深雪が顔を上げると、霆雷が自分と同じように甲羅の上に立っている。昨夜の弱々しさは微塵もない。いつもの元気なやんちゃ小僧の態度だった。
「・・・具合はいいのか? 」
「おうっっ、復活、俺っっ。さっき目が覚めたら、すっきりしてた。」
「・・そうか・・・そりゃよかった。」
「で、親父は何してんの? カメと散歩か? 」
「・・・おまえさ、貰ったものは、一応、確かめてから食えよ? カメのくれた飴で熱出したんだぞ? 」
「え? あれが原因かよっっ。だって、カメが、親父にも食べさせてた飴だってくれたんだぜ。」
「そうらしいな。おまえの体質には合わないんだ。」
「耄碌したカメはしょうがねぇーなー。で、親父、具合が悪いのか?」
 見るからに顔色が悪い。体調を崩したとは、霆雷も聞いていたから心配はする。目が覚めて、父親を、まず確認したら、こんなところにいたから跳んできたのも、そのためだ。
「カメのせいで具合が悪い。・・・・おまえ、俺の代わりに、このカメを十発ばかり殴ってくれ。さっき、権利は貰ったから、譲ってやるよ。」
「了解。じゃ、親父は宮に送ってやるな? 」
「いや、このままでいい。・・・・カメじじい、さっさと浮上して、うちのちびに殴られろ。」
 霆雷が暴れたら、さすがに、黄龍たちも止めるほうに回るだろう。それなら、どうにか騒ぎは治まると、深雪は計算した。だが、このひねくれものは、その計算なんて簡単に覆してしまう。浮上から下降へと動きを変えたからだ。
「なぜ、そこの蚊トンボに殴られねばならんのじゃ。わしは、許可など与えた覚えはない。銀竜ならば、昔なじみのよしみで遊んでやらんこともないが、蚊トンボとは初対面じゃ。」
 漆黒の竜を蚊トンボとは言い得て妙な悪口だな、と、深雪は笑う。なんていうか、このカメは、万事が万事、この調子だ。マトモに対応してくれる相手ではない。
「・・・このまま帰れ。」
「おまえも拉致してやろう。さすれば、いかな、黄龍とはいえ慌てふためく様が見られることじゃろう。痛快、痛快。」
 玄武が作り出した空間へ引き摺り込まれると、瞬間移動できるものしか出入りできないし、場所も探すのが厄介な場所にある。そこで少し休息して、飴を食えと言っているのだが、小竜には伝わらない。深雪の身体を、その玄武の身体から瞬間移動で取り返した。
「十発プラス俺の分五発で手を打つ。それでいいな? カメジジイ。」
 なんで、うちのものは、こう好戦的なんだろうな、と、呆れつつ、深雪が小竜の身体を腕に抱きこむ。
「本気はまずいから、俺が考える通りに動いてくれ、霆雷。」
「了解。」
 身体を接触させていれば、言葉より楽に意思疎通が出来る。こういうふうに、と、深雪が考えれば、霆雷は、その通りに動ける。持ち上げて、湖の上空へ瞬間移動させて叩き落せ、加重はかけなくていいが、水しぶきは過剰に上げろ、と、指示を考えると、オッケーと、霆雷が、その通りに動く。湖中で激しく戦っていると思わせればいい。まあ、何度か玄武には空中落下してもらうことになるが、それは、自業自得というものだから気にしない。ちゃんと、深雪のところへ顔を出してくれれば、小竜のことは説明したのだ。それを省くから、こういうことになる。



・・・・おまえも上空に飛べ。そこから、波動を投げろ。ただし、水面で四散させるんだ。・・・・・



「おう。」

 霆雷なら、それぐらいの使い方をしても疲れるだけで眠らない。上空には、龍体の黄龍だけでなく、衛将軍や左右の将軍もいたが、誰も手を出さない。
「背の君、助太刀をっっ。」
「背の君、私くしも一撃を。」
「華梨、俺たちだけでいい。あなたは傍観してなさい。」
「美愛、俺の獲物だ。手を出すなっ。」
 二匹の黄龍に、深雪と霆雷が命じると、戦闘体型は解かれて人型に戻った。将軍たちは、動かないが、苦笑している。派手さで隠した似非報復劇だと解っているからだ。そうでないなら、深雪は、一撃で玄武を沈めることができる。





 湖中に再び、沈んで、深雪は霆雷から手を離した。これで、適当に報復したと思ってくれるだろう。
「帰ろうか? 霆雷。」
「うん、おもしろかった。親父と合体技っていうのもアリなんだな。これはいいぞ。」
 これなら、父親に余計な力を使わせずに鍛錬ができる。対戦はできないが、これもおもしろい。父親の心の声の通りに、自分が動けるのも、父親が力の制御も教えてくれているからこそだ。
「待たんか、銀竜。」
 散々に、上下運動をさせられた玄武が人型に戻って、目の前にやってくる。まだ足りないか、と、小竜は父親を庇う。
「十五発分いただいたぞ? カメ。」
「・・・ふん、無理矢理に奪いおって、このバカものが。」
 小竜の力を、制御していたのは、深雪のほうだ。攻撃自体ではないから、力は、それほど使っていないが、消耗はした。玄武は無茶をするな、と、叱っている。それも、霆雷に解るように玄武の心の波動を深雪が霆雷の心へ届けてやった。
「それより、うちの次期様は。どうだ? 黄龍の婿選びに間違いはないだろ?」
「なんだよ、カメジジイってば、いいヤツじゃんか。親父のツレか? 」
「ツレ? わしは、こやつの師匠みたいなものじゃ。敬うことを知らんバカものだから、こんなことになっておる。おまえも、わしは敬え、黒雷竜よ。」
 玄武は、気に入った相手に、呼び名をつける。水晶宮の銀白竜というのも、玄武が最初につけた呼び名だった。ただ、みなが、それを呼ぶので、銀竜と約したのだ。つまり、玄武は、水晶宮の小竜も気に入ったらしい。
「敬うって? 親父。」
「たまに、カメが顔を出したら遊んでもらえ。」
「わかった。とりあえず、帰る? 」
作品名:海竜王 霆雷 発熱2 作家名:篠義