小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ハイビスカスに降る雪

INDEX|2ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

 健治は家へ向かうと着替えることもなく、自転車に乗った。家の前から続く、長い坂道を必死になってペダルを漕ぐ。やがて坂道は九十九折となり、急勾配で丘の上へと登っていく。樹木が生い茂り、昼間だというのに鬱蒼としている。坂道が終点を迎えると、途端に視界が開ける。そこは海の見渡せる公園になっており、生垣にハイビスカスが植わっている。ここは健治が好きな場所だったのだ。ここから眺める雄大な海はいつ見ても、健治の心を躍らせてくれる。漁師になりたい健治にとって、僅かな潮の流れの境目や色の違いは、まだ見ぬ魚との対面を夢見るようでウキウキさせてくるのだ。そんな健治を見守るかのようにハイビスカスの花が咲いている。海は太陽の光を反射してきらめいていた。どこまでも澄んだ青に、朱とも銀ともとれない独特の光がまぶしい。健治はそんな海をただただ目を細めて眺めていた。
 ふと、健治は背後に忍び寄る足音に気付いた。ハッとして、健治は振り返る。そこには白いワンピースを着た少女が立っていた。少女ははにかむように微笑んでいる。
「島の方かしら?」
「ああ、そうだけど、君は?」
 健治は少女に尋ねた。少女はこの辺りでは見ない顔だったし、透き通るような肌の白さと濡れたような髪の黒さはどうだ。
「私はユキ。あっちの方からきたの」
 ユキと名乗る少女は北の方を指差す。
「あっち……って?」
「北の方よ。どうでもいいじゃない。そんなこと……」
「僕は金城健治。この島で生まれ育ったんだ」
「あなた、この島や海が好きみたいね」
「どうしてそんなこと……」
 健治が呆気にとられ、口をポカーンと開けた。
「あなたが海を見つめていた時の表情でわかったわ」
 健治はこの時、ユキのことを勘の鋭い少女だと思った。健治はユキをまじまじと見る。黒髪が海風にたなびき、心地よさそうに揺れていた。白い肌は陽の光に輝き、その存在を誇張しているかのようだ。それにユキの目鼻立ちはくっきりと浮き立ち、芯があるようで、それでいて清楚だった。
「ふふふ、故郷を大切にする人って好きだなぁ」
 ユキが健治に並ぶ。ユキの髪が風にいたずらされて、健治の鼻をくすぐった。健治の顔が心なしかうっとりしている。
「そんな立派なものじゃないよ」
「将来は何になるつもり?」