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てっしゅう
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「忘れられない」 第二章 すれ違い

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浪速女の根性か・・・なんか、ドラマの世界みたいだと笑えて来た。心が決まった。勇気を出して明雄に電話する、そうしようと自分の気持ちが決まった。

「帰ったら電話するわ。ホンマに会って良かったわ、久美、志穂、おおきにな・・・」
「冷たいこと言うたらあかんがな。友達やろ!ずっとずっと・・・そうやろ、なあ志穂」久美の言葉は三人の胸にいつまでも響いていた。

品川駅のホームに博多行きの、のぞみ号が入ってきた。
「ほな、さいならやね。また来るさかいに会おな、久美も志穂も元気にしててや」
「会えてよかったわ。有紀の元気な顔見れて、なあ志穂。いつでも会うさかいにメールか電話してや。石原さんと逢えるとええね・・・頑張りや、負けたらあかへん。ここまで待ったんやさかいにな」
「おおきに・・・ほな行くわ。さいなら!」

窓越しに見る二人は追いかけながらずっと手を振っていてくれた。やがて姿が見えなくなり、列車は東京の街を急いで後にするように速度を上げた。車掌の検札が済んで、有紀はカバンから再び明雄からの手紙を取り出し、読み始めた。

「妻と結婚してからも有紀のことを忘れる事は出来なかった。そんなぼく達夫婦が上手くゆくはずのない事は見えていた。仕事関係の束縛から我慢していた妻もはっきりと愛情を感じられないと実家に戻ってしまった。子供でも出来ていれば変わったのであろうが、夫婦の交わりなど数度しかなく子供が出来る事はなかった。自分を責めた、そして妻に対してすまないと思った。断るべきだった・・・取り返しのつかないことを妻と有紀に対してやってしまった。この世で許されないなら、あの世で許しを請うてやり直せるなら君と夫婦になりたい。有紀、今でも君のことが好きだ」

「明雄さん・・・有紀はずっとあなたのことが好きでした。そして今も気持ちは変わりません。あの世ではなく今やり直したいと思う事はいけませんか?あなたのお嫁さんにして下さい」

そう言おうと、有紀は決めた。
窓の外の移り行く景色が見慣れた場所に変わり始めたことに気付いた。もう、大阪に着く時間になっていたのだ。それほど思いつめた気持ちが時間を忘れさせていた。

「列車は間もなく新大阪に到着します。本日も新幹線のご利用ありがとうございました。乗り換えのご案内をいたします。東海道線・・・」アナウンスが聞こえて、有紀は降りる身支度を始めた。


母が亡くなって弟たちが結婚をして家を出てしまってから有紀はそれまで一緒に住んでいた文化住宅を出て、郊外の賃貸マンションに引越しをしていた。京阪沿線の寝屋川市駅に隣接する寝屋川パークに住いは在った。小高くなった丘陵地帯からは夜景も綺麗に見えて、学園都市枚方市もすぐ隣町にあった。

部屋の明かりを点けて、ソファーに腰掛ける。ふうっと一つため息をついて一昨日からの旅を思い出していた。入院中のベッドではあまり思い出さなかった妙智寺での思い出や明雄との恋愛がいま、頭の中をぐるぐると回っている。「逢いたい、早く逢いたい。明雄の顔を見たい、その手に触れたい。好きと言って抱きしめて欲しい、愛していると言ってキスして欲しい・・・」

熱いシャワーを浴びた身体がさらに熱く感じる。この手も、この胸も、そしてこの想いもすべてが明雄のためにだけあると感じられるのだ。他の誰とも恋をすることなんて絶対に出来ない。明雄以外の男性と手を握るなんて考えられない、まして抱かれることなど決して出来ない。そんなことが出来る自分なら、もうとっくに明雄を諦めて他の人と結婚していた、いやそうなっていたはずだ。

どんな時も、自分の心の中に明雄は居た。ふと心が淋しくなったり、同世代の仲の良い夫婦や恋人たちを見たりすると、明雄と過ごした短い幸せな時間が甦って来る。ずっと好きだった。出雲へ一緒に旅行した時に散歩の途中でぎゅっと抱きしめられて真っ赤な顔になったことも、二人だけの夜に明雄の手が自分の胸にすっと伸びてきて、「いや・・・お願い何もしないで」と恥ずかしがったことも、いまは何故もっと積極的になれなかったのだろうかと・・・心残りに思えていた。

明日、電話を掛けよう。諦めるなら早いほうがいい。そう考えながらベッドに入った。部屋の明かりが消えると、孤独で淋しい空間に変わる。これからずっとこうして一人で暮らしてゆくのかと思うと、涙が出てくる。眠れない夜が今日も訪れるのだろうか・・・

うとうとしだした頃救急車のサイレンの音が聞こえだした。やがてそれは近く感じられるようになり、どうやらマンションの下辺りで止まった感じだった。気になってベッドから起きて、階下を見やったがここからは何も見えない。反対側であろうか。少しすると、二三軒隣辺りの部屋から誰かが出てくるような気配がして、玄関ドアーを開いて様子を見た。同年ぐらいの女性がうろうろ落ち着かない様子で立っていた。エレベーターの扉が開き、先程の救急車からだろう、救急隊員二人がストレッチャーを引いて走り寄っていった。

きっとそこの家の誰かが病気になったに違いない、と思い様子を伺っていた。若い女性がベッドに乗せられて運び出されて行く。傍に先程の女性、多分母親だろう、付き添って一緒にエレベーターに乗り救急車へと向かった。直ぐお隣に住んでいる男性も目覚められたのか、顔を出して様子を眺めていた。有紀は目が合ったので軽く会釈をして、

「どうなさったのでしょうね?」
と声をかけてみた。
「さて、なにやら騒がしいので外に出ただけなので解りませんね」と返事が来た。そうだろう。直ぐに男性は部屋に入って扉を閉めた。廊下に出ていたのは自分だけになった。手すりから下を見ると救急車が再びサイレンを鳴らして走り去ってゆく光景が見えた。

こんな夜に、誰かが辛い思いをして病院へ運ばれる。事故や事件を含めると毎日どれほどの人たちが、救急車で運ばれてゆくのだろうか・・・そんな思いが脳裏をかすめた。すっかり目が醒めてしまった有紀は部屋に戻り、テレビをつけて温かい飲み物を飲みながら、時間を過ごしていた。ベッドのテーブルに置いた明雄からの手紙をじっと見詰めて、またテレビを眺め、また手紙の方を見る。そんな繰り返しをしながら、眠くなってきた身体を横たえて、短い睡眠を取った朝を迎えた。

目を覚ましてトイレに行き、戻ってきて再びベッドに横たわる、こんな事が出来る時間が贅沢で自分を堕落させてゆくと思わないではなかった。しかし、今は明雄の事が解るまで何もする気になれない自分が居る。遅い朝食を採り、少し散歩をしに下へ降りた。数人の奥様達が集まって話をしていた。一人が有紀の顔を見て声をかけた。

「埜畑さんでしたよね?5階の」
「はい、そうですが・・・」
「昨日の夜の事ご存知ですか?内川さんの、ほら救急車で運ばれた部屋の方ですよ」
「いえ、その時は起きて見ていましたが、どうなさったのだろうって思うだけでした。ご存知なのですか?」

内川と言う苗字なのか、と覚えた。

「聞いた話なんですが・・・娘さん、自殺未遂なさったんですって!怖いですね、今も何故そんな事をしたんでしょう、と皆さんで話していたところなんですよ」
「えっ!自殺未遂ですか?本当なのでしょうか・・・」