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てっしゅう
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「忘れられない」 第二章 すれ違い

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第二章 すれ違い


森は有紀に連絡先を教え、名古屋に来たときは寄ってくれるように話した。有紀もこうして知り合いになったことを大切にしたいからと、必ず尋ねると約束した。メルアドを交換してカラオケバーを後にした。部屋に戻って、これからのことを考えていた。明日は帰る予定にしていたが、東京経由で戻る予定だったから、久美と志穂に会って帰ろうとメールした。

「有紀、志穂と東京駅で待っているからね。楽しみ。久美」と返信が来た。しばらく会っていないから、変わっているだろうなあ・・・もちろん自分もだが、そんなことを考えながら、明日会うことを楽しみに眠りに就いた。

目を閉じると、明雄との思い出が昨日のように思い出される。明雄が初めて買った車、黄色のセリカが待ち合わせ場所にやってきたとき、周りに居たたくさんの人たちから羨望の目で見られて恥ずかしかったこと。助手席に座って周りからじろじろ見られながら国道をドライブしたこと。少し走っては喫茶店を見つけ休憩して、レストランを探して食事をして、何とか夕方には予約していた出雲の宿に着けた事。

隣で運転している明雄の顔をずっと見ていたこと。時折自分のほうを見てにこっと笑うその白い歯が印象的に感じたこと。車を降りて必ず手を繋いで歩いていたこと。人影のない場所でぎゅっと抱き寄せられて、真っ赤な顔になったこと。キスしたいと言われて、首を横に振ったこと。純情だった自分が嘘のようだ。いや、今もきっと同じ気持ちになってしまうに違いない。あの頃と何も変わっていないのだから。

翌朝、早くに宿を立ち上越新幹線で東京に向かった。
「今、新幹線に乗ったよ。予定通りに着くから。有紀」とメールした。最後の「有紀」は要らないのだが、必ずつけて送信していた。そのほうが手紙と同じように気持ちが届くと思っていたからだ。

新幹線が東京駅のホームに入ってきた。窓から覗くと見知った顔が二人こちらを向いて探すような仕草をしていた。有紀は車内から手を振ったが、見つけられる事はなかった。列車が止まる。ドアーが開いて、ボストンバッグを片手にホームへ降り立った。

「有紀!こっちよ」
「久美!志穂!」
歩み寄った。懐かしい顔が目に入った。三人は抱き合うようにして喜びを表わしていた。

「久しぶりね、二人に会うのは・・・変わってないね」
「有紀も・・・相変わらず、素敵ね。羨ましいわその体型が・・・」
少し太ってきた志穂がそう言った。久美も同調するように頷く。凄く痩せていた久美だったが、子供を二人生んで運動をしなくなったせいか、ほぼ志穂と似た体型に変わっていた。

「あなたたちぐらいの方が女らしく感じられていいのよ。痩せていて綺麗なのは若いときだけ。皺がとても気になってくるのよ、これから・・・そんな事より、話したいことがいっぱいあるの。落ち着く場所へ行かない?」久美が返事をした。
「そうね、私の家でも構わないけど・・・下の子が帰ってくるからね、落ち着かないよね。ホテルにでも行こうか?」今度は志穂が言う。
「そうね、せっかくだし。帰りに有紀が新幹線に乗りやすいように品川にしましょう」

相談がまとまって、三人は山手線のホームへ移動して、品川プリンスに向かった。ロビーにあるカフェルームで何年ぶりだろう、膝をつき合わせて会話を始めた。

「何年ぶりやろ、こうして会うのは、なあ有紀」
「久美、そうやな、母が亡くなって葬儀に来てくれたやろ。その後一度会ったことがあるぐらいやから・・・5年ぶりぐらいやないか?」
「そないになるか・・・志穂とは月に一度ぐらいはおうてるねん、なあ?」
「うん、久美とはうちが行ったり、来てくれたりしておうてるわ」

やっぱり、大阪言葉に変わってしまった。

久美は見合いで紹介された今の夫と東京へ来て20年になる。二人とも大阪出身だが、本社が東京にある企業だったので夫に着いて転勤してずっとこちらに住んでいる。自分の両親が病気がちなので心配ではあったが、めんどうは兄が見ているので頼っていると話してくれた。

志穂は、就職で東京に出てきて、知り合った今の夫と藤沢に暮らしている。夫が通勤で東京に通っていることがこの歳になると大変だと感じていた。しかし、都内で暮らすことは並大抵ではなかったので、夫の実家がある藤沢で暮らしていた。何とか持ち前の明るさで舅や姑とは上手くやっているようである。

「有紀はどうしてるんや?」久美が聞く。
「先月まで入院してたやろ。原因はストレスやったみたい。退院して会社へ行ったら、用無しって言われて・・・辞めてしもおた」
「エッ?仕事辞めたん?どないするのん、これから?」
「考えてへんね。しばらくはボーっとしてるわ。ひとり暮らしやし、気兼ねせいへんからな」
「のんきやな・・・そんな表情には見えへんけど、ホンマは何か考えてるんちゃうのんか?」

久美は昔から理屈ぽかったが、鋭く聞いてきたので本題に入ろうと切り出した。

「久美も志穂も聞いて欲しいの・・・あのな、昔行った鯨波の寺、妙智寺覚えてるか?」
「覚えてるで、石原さんと出逢ったところやったやろ」
久美!と志穂は袖を引っ張った。
「志穂、構まへんね。気にせんといて。その寺にな、昨日寄って来てん。あの時の住職さんまだ元気やったわ」
「そうなん、懐かしいなあ・・・有紀が裸見られたってしょげたことあったね、ハハハ・・・純真やったからね」
「久美ははっきりと言うねえ、有紀が可哀相やわ・・・もっとデリカシー持たなあかんやろ!」

恋愛上手な志穂は有紀の心情がわかるから久美がずけずけとしゃべることにそう忠告した。体育会系の久美にはデリカシーは理解できても、得意ではなかったようだ。

「風呂の事はね住職も覚えてはったわ、ハハハ・・・それに石原さんのことも話してくれはった。3年ほど前に尋ねて来たんやて、それでなこの手紙預けて帰ったと知らされてん」有紀はハンドバッグから取り出した手紙を二人に見せた。

「中身も見せたいけど・・・今は自分の胸の中に仕舞っておきたいんや、堪忍してな。それでな、住職が言わはるのには、昔の宿帳に書いてある電話番号を教えるから、掛けたらどないや?って言われてん。ここへ来るまでずっと考えてたんやけど、迷ってるねん」

有紀は二人に相談した。自分の心の迷いが正しいのか過ちなのか。そして叶うなら明雄とやり直したい気持ちが残っている事も話した。こんな歳になって心が燃えるなんて、ありえないと思われるだろうけど、本当の気持ちなんだと理解して欲しかった。

聞き終えて少しの沈黙を志穂が破った。

「有紀、ええのんちゃうか。私は賛成やで。有紀の思うとおりに行動したらええよ。誰にも咎められる筋合いないし。悔いを残したらあかん!中途半端な気持ちがあるなら辞めとき。あんたが真剣やったら、うちら応援するで、なあ久美?」
「物凄く好きになったことないからわからへんけど、志穂の言うとおりかも知れへんな・・・初めて有紀が好きになったその気持ちをずっと持っていたんやろ?30年間もやで。迷うことないやろ、ちゃうか?」
「久美!ええこと言うな、感心したわ!なあ、有紀その通りや。強い味方が二人居るで!負けたらあかん、大阪人の根性見せたり」