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かがり水に映る月

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09.だから言いたいんだ、これが最後かもしれないから(4/4)



「……」
音をたてて、つきたてていたナイフが草むらに沈んだ。
桂も空気を察したらしく、銃をおさめる。

――なんで、月は黙ってるんだ?
人を殺したか殺してないかなんて、忘れようもないし、間違いようもないし、すぐに違うって応えられるはずなのに。
僕の期待に応えられるはずなのに。
何でその声が聞こえてこないんだ?

「月!!」
「私は……」
「ぼうや、殺してるよ。そいつは、人間を殺してる。しかも、ぼうやもよく知ってる人間をさ」
「やめて!! 私が言う、言わないでッ!!」
「言う? 今まで黙っていたくせに。今も隠そうとしている。なんでかな? 私が代わりに言ってあげるよ」
「やめ――」
月の両目が、大きく見開かれた。


「君の恋人、真を殺したのはこの吸血鬼だよ……英人」


場の空気が氷で密閉されたかのように固まった。月と英人の瞳がひどく揺らぎながら交わる。
嘘だろう? 嘘だと言ってくれ。すぐ近くにいて、違和感や思い当たるふしはあったはずなのに、自分は見てみぬふりをしていた。認めたくなかった、それは自分が知る彼女の全てを否定し拒絶することになるから。
何で言ってくれない。
何でその声が聞こえてこないんだ?
「英人……それは……」
月は苦々しい表情で答えようとするが、うまく言葉にならない。言っていいのか、迷っていた。
それは出会った頃から変わらない。言えば英人は自分を恨むだろう。恨まれると、果たせない事柄が生じる。
かといって、隠しているわけでもない。結果的に秘密になってしまっていて、それが、致命的だということに、今の今まで気づかずに。
「もう一つついでに言ってやろうか。それは、異能力をもっていてね……自分の姿が、周囲の望むままに見えるんだ」
「え……?」
聞いて、意味が理解できなかった。皇もそれを承知の上で言ったのか、すぐに言葉を繋げる。
「例えよう。大事な大事な恋人を亡くして、その恋人の面影を追い求めている人間には――月が、その恋人とうりふたつに見える。幻視能力が制御できてないのが原因だろうが、不思議なもんだよ」
「……」
「果たして、君が見ているそれは、本当の姿かな?」
「ひで、と……」
「月……正直に、言ってくれ……。僕が見ているその姿は、本当の君なのか……?」
「本当よ!」
「真を殺して、真を追い求める人間の前に現れる……能力を賢く使って隠れ場所を得て、逃げる……」
「皇、やめなさい!! これ以上英人の心を揺さぶらないで!!」
「そんなことをしてまで生きたいのか? 邪魔になれば、その人間をも始末する気でいるんだろう?」
「そんな、ことないッ!!」
感情を抑えきれずに、皇の発言を力ずくに止めようと動いた月だったが、自分が皇に意識を奪われている間、何が起きていたのか理解するなりはっとして行動と感情をせきとめた。そして、失策を投じたことに気づく。
「……」
「面白くなってきたろ?」
――英人が、月に向けて拳銃を構えていた。慣れない手つきながらも、引き金に震える指がかかる。
桂が渡したのか――皇の言葉は、半分時間稼ぎだったのだ。そして、意識を英人に集中させないための。
動けぬまま、事は進んでいく。桂が英人のサポートをするようにして、構えを修正した。
「あとは引き金を引くだけ。あなたしだいよ……復讐したいのなら、憎いと思うのなら、撃つといい」
「あ、う……」


作品名:かがり水に映る月 作家名:桜沢 小鈴