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表と裏の狭間には 十八話―家族旅行―

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部屋にいるのは、俺と、レンと、雫だけだ。
他の連中はどこかへ行ってしまっているらしい。
まぁ、自由奔放な連中だしな……。
「………苑?…………ちゃった……?」
………あれ。
………意識が………。
この………引きずり込まれるような感覚は……………。

気がついたら日付が変わっていた。
「あ。起きたかい?」
うん。目が覚めたときに目の前にレンの顔があるという状況に、すっかり慣れてしまっている俺がいる。
「テメェ今度は何をしてるんだよ。」
「君の寝顔を至近距離で眺めていたんだけど?」
「……………毎度毎度、飽きないのかお前。」
「飽きないよ。最愛の親友――盟友にして、恋人である君の寝顔を眺めるのは飽きない。見てて落ち着くからね。気持ちが和む。平和だと実感できる。」
「はぁ………。お前がいいならそれでいいけどな………。」
とりあえずそこをどけ、と言うと、レンはあっさりと退いた。
「ふぁ~ぁ。」
思い切り伸びをする。
中途半端な睡眠のせいで、眠いのに目が冴えてしまった。
「暇なら温泉に行かないか?露天風呂なら浸かりながら話せるだろ?」
「ああ………まぁいいか………。」
雫はまだ熟睡中のようだしな。

「熱い………。」
源泉をそのまま流している温泉は、結構熱い。
でも、秋口の山奥で、尚且つ深夜となれば、かなり冷え込むわけで。
だからこの熱い湯は、結構気持ちよかったりする。
「あー…………。いい気分だ。」
俺しかいないので、思う存分口に出せる。
露天風呂で、竹の仕切りに背を預け、肩まで深々と湯に浸かる。
左手には、闇夜に包まれた静かな山が広がる。
獣も寝静まる深夜。
静かな世界に、温泉の湯が流れる音と、川の水が流れる音が木霊する。
「はぁー…………。」
「気持ちいいねぇ。」
俺の真後ろから、声がした。
考えるまでもなく、レンの声だ。
やっぱり、俺のいる場所まで正確に読まれている。
まぁ、俺もレンがこの辺に来るということが分かっていたわけだが。
「いい湯だね。それに、いい景色だ。」
「ああ。本当にな。」
水の音に混じって、鈴虫などの声が聞こえる。
風に吹かれて舞ってきた紅葉が、湯船に落ち、それが月明かりに照らされてぼんやりと輝く。
水面に移った満月が、水とともに揺れる。
ここにいるのが大人なら、ここで湯船に浮かべたお盆に酒が乗っていたりするのだろう。
あるいは、ゆりや煌なら酒の一つくらい調達するだろう。
「いい夜だ。綺麗な満月だねぇ。」
「確かに。狸の一匹くらい出てくるかもな。」
「上手く化かしてボクを襲うように仕向けてくれるといいねぇ。」
「流石に突っ込まないぞ。」
こいつの妙な発言ももう慣れっこだ。
「そういえば、オヤシロさまって、かなりタチの悪い精神攻撃使いだよね。」
「唐突にどうした!?」
「いや、ふと思ったから。」
「まぁ、確かにな………。」
ロックオンした相手に、常時ラップ音と謝罪の声を聞かせるという恐るべき相手だ。
ずっと見られているような感覚、自分の足音と全く同じタイミングで響く足音、そして常に聞こえる『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』という声。
雛見沢症候群が加速する要因の一つは、絶対に羽入のあの謝罪だと思う。
「ねぇ、紫苑?」
「なんだよ。」
「ねぇ、ムッツリーニ?」
「なんでだよ!!」
「この前の定期テストで保健が学年一位だったから。」
「それだけでそんな不名誉なあだ名をつけるな!おちおち高得点も取れんわ!」
だからこいつはなんなんだよ。
「ねぇ、紫苑?」
「今度はなんだよ………。」
「ボクのこと、好き?」
「ぶっ!?」
いきなりどうした!?
「ねぇ、答えてよ。ボクのこと、好き?」
「…………。」
俺は、家のシアタールームに化物語のブルーレイがあったことを思い出した。
旅行の直前あたりに、デートの話でも見たのだろうか?
「答えてくれないのか。困ったね。ひょっとして、ボクのことなんて好きじゃないのかな?」
「ぐ……………ッ!」
答えないわけにはいかないが………。
どう考えても手のひらの上だよなぁ………。
「…………好きだよ。」
「そう。ボクも好きだよ。」
…………………。
最悪すぎる。
何で俺がこんなに嵌められなきゃならないんだ。
しかも、この会話はまだ続いて………!
「ボクのどんなところが好き?」
「…………………ッ!」
本当は、『好きじゃないところははっきりしている』と言おうとしていたのだけど。
無理だ。
「全部好きだ。好きじゃないところはない。」
「ボクもだよ。でも強いて言えば、紫苑はボクのどの辺が好きなのかな?」
「お前も答えろよ。」
「ああ。答えるさ。」
俺は、しばし考える。
馬鹿馬鹿しいが、真剣に。
こいつにだけは、いい加減なことを言えないからな。
いや、こいつと雫にだけは、だ。

「頼りになるところ、いつも隣にいてくれるところ、誠実に接してくれるところ。
頼りになるところ、いつも隣にいてくれるところ、誠実に接してくれるところ。」

「家族想いなところ、相手のことを第一に考えるところ、全てを受け止めてくれるところ。
家族想いなところ、相手のことを第一に考えるところ、全てを受け止めてくれるところ。」

「優しいところ、厳しいところ、一緒にいると楽しいところ、そして何よりも、
優しいところ、厳しいところ、一緒にいると楽しいところ、そして何よりも、」

「「何があっても必ず助けに来てくれるところ。」」

俺とレンの台詞は、一言一句、区切りのタイミングに至るまで、完全に同一だった。
それが可笑しくて、二人で笑いあう。
「前にもこんなことがあったねぇ。」
「ああ。あの時はあの後、お前に嵌められたんだっけな。」
「今回もそうだったりしてね。」
「それはないな。同じドジを二回も繰り返してたまるか。」
冗談をかけあって、更に笑う。
深夜だから、控えめに。
「空が綺麗だ。」
「ああ。東京じゃまず見られないな。」
漆黒の空には、明るく輝く満月は勿論、宝石を散りばめたかのような星々が広がっていた。
紅葉が風に舞う温泉で、極上の星空の下、最愛の人間と語らう。
これ以上のことがあるだろうか。
ここ一年で、俺の人生はかなり変わった。
まさに、最高の人生だ。
「この前も。」
「あ?」
「この前も、君が助けてくれたんだろ?」
「…………。」
またその話か、と、正直思った。
この前とは、八月、レンの親戚がレンを引き取ろうとしたことによって発生したごたごたのことである。
そのせいでレンは強いストレスを感じ、体調を崩すほどになった。
あの時の詳細を語るつもりは無い。
俺がレンの親戚の所に向かい、どういう風に立ち回り、どういう解決を見たか、なんてことは。
俺は、語るつもりは無いのだ。
ゆりも、詳細は全く語らなかったようだし。
あの事は、何も語るつもりは無い。
繰り返すが、何も、語らないのだ。
「何度も言ってるだろ。俺は語るつもりはない。」
「そうか………。」
はじめはしつこく食い下がってきたレンだが、最近になって、ようやく素直に引き下がるようになった。
「でも、お礼だけは言わせてくれ。助けてくれてありがとう。」
「それももう何度も聞いた。もういいよ。」