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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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クロス 第三章 ~PAINT IT,BLACK~

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「渋ったくせに、よくもまぁそんなコトが言えますね。私の話聞いてましたか」
「聞いてたよ。プロント通りで四発の銃声、それも警官が増える前の日」
「そうです。警察はこんな凶悪な事件を何故隠そうとするのでしょうか」
「簡単だ。被害者が身内なんだろうよ」
「そうか。それなら面子にこだわる彼等ならありうる話ですね」
「やっぱりロンの奴をつつくしかないか。今日も帰ってきてるだろう」
 言うが早いか、もう部屋を飛び出していた。蛇腹格子のエレベーターに飛び乗り、三〇五号室の前まで行き、呼び鈴を押す。いつものやり取りをしてドアが開くと、アレックスは中に押し入り、ドアを閉めた。
「プロント通りで四発の銃声。身に覚えは?」
「ないね。いきなりなんだよ」
「それをきっかけに街で警官を見る回数が増えた。どういうコトだ。何故隠す。身内が殺られたからか?」
 アレックスは畳み掛けた。アレックスが言い出したら利かない性格なのを知っているロンは降参した。
「そうだよ。みんなアレックスの言う通りだよ。一昨日、プロント通りで巡回中の巡査が通り魔に襲われた」
「よろしい。まだ捕まえていないんだな?」
「あぁ、捜査中だ。もういいだろ。これから人と会うんだ。出てってくれ」
「分かった。何かあったら教えてくれ。人手が欲しいなら手を貸すから」
「間に合ってるよ。さぁさ、出てった出てった」
 アレックスは締め出された。思った通り、身内被害の隠蔽だった。通り魔と言っていたが、フィゲロ通りの一件もそうかもしれない。いずれも夜は暗く人気の少ない通りだ。アレックスは夢中だった。遊び道具を得た子供のように。

 ロンがカフェ・パリスに入ると、デービス刑事は手を挙げて合図した。マスターのヘンリーにいつものエスプレッソを頼んで席へと向かい、デービス刑事の向かいに腰を下ろした。
「待ったか」
「いいえ。僕もさっき来たばかりです。その証拠に先に注文したコーヒーとトーストがまだ来てません」
「そうか。情報は入ってるか」
「冴えないものばかりです。銃声のような音を聞いたってのしか」
「そうか。そんなもんだろうな。なんせ一番近い民家まで一キロもあったんだからな。いくら夜が静かでも無理ってもんだろう」
「えぇ。そちらはどうですか」
「厄介な奴が首突っ込んできて、頭痛ぇよ」
 その時ヘンリーがコーヒーとトーストにエスプレッソを持ってやって来た。注文の品を並び終えると、恭(うやうや)しく頭を下げて去っていった。
「厄介な奴?」
 デービス刑事はコーヒーに砂糖を三杯入れながら聞いた。
「入れ過ぎだろ、それ」
「ちょうどいいですよ。それより厄介な奴って?」
「オール・トレード商会だ」
「オール・トレード商会?」
「知らねぇのか? 有名だぜ。警察に茶々入れるので」
「知りません。初耳です」
「こっち来て日が浅いのか」
「まだ半年です」
「だったらしようがねぇ。オール・トレード商会ってのは、その名の通りなんでも屋だ。金さえ払えばなんでも請け負う。だから時にはこっちの味方にもなり敵にもなる。そいつが首突っ込んできやがったのさ」
「どこまで知ってるんですか」
「プロント通りの一件だけだ」
「なら安心だ」
「安心なものか。奴等にはデッカイ後ろ盾があるんだ。その気になりゃ、事件を横取りするコトなんかわけねぇんだ」
「後ろ盾?」
「そいつは言えねぇけど、とにかく厄介な奴等なんだ」
「複数形になってますけど」
「あぁ、二人組なんだ。一人はまだいい。もう一人が厄介なんだ」
「詳しいですね」
「同じマンションに住んでるからな」
「はい? 引っ越さないんですか」
「オレはあそこが気に入ってんだよ。先に住んでたのはオレの方。出てくなら奴等の方だ」
 言い終わるとロンはエスプレッソを流し込んだ。今日のエスプレッソはいつもより苦い気がした。ロンはおしぼりで顔を拭きながら頭を冷やした。
「すまない。奴等のコトになるとつい……」
「いいですよ。腕は立つんですよね? 逆に利用できませんか」
「腕はいいが、それは無理だな。外見はお綺麗だが腹の中はどす黒いからな。まぁ、最後の手段ってとこだな」
「そうですか。頼りにはしているんですね」
「そこに食いつくな。警察の限界が来た時、奴等の特権がものを言うんだ」
「後ろ盾、ですね」
「そうだ」
「これからどうしますか」
「オレはちょっと定期検査に」
「どっか悪いんですか」
「右腕がな」
「行く所がないんでお供しますよ」
「おいおい。見世物じゃねぇぞ。まぁ、ついて来たいならついて来い。すぐ近くだから」
「はい。では遠慮なく」
 ロンはデービス刑事を気に入り始めていた。
 カフェ・パリスを出ると二人は南に向かった。バッカス通りから通りを五本も下ると景色は灰色に変わった。工業地帯だ。フェルナンド通りは通称メタル・ストリート、あるいはスクラップ・ストリートと呼ばれ、アンドロイドやバイオロイド、サイボーグの廃材を再利用、再製品化している工場が軒を連ねている。
 二人は通りに入ったすぐのバーナード・プレス社の扉を押した。こじんまりとした工場でプレス機の音が響いていた。ロンは大声で叫んだ。
「レイ! いるかい?」
 奥から野太い声がして屈強な男が現れた。ここの技師で工場長のレイ・バーナードである。
「ロンか。どうした。見慣れない顔を連れてるな」
「相棒のデービスだ。メンテナンスの見学をしについて来た」
「おう、そうか。よろしくな。オレはレイ」
「チャック・デービスです。よろしく」
「まぁ、適当に座ってくれ。おっかあ、茶だ! 二人分な!」
 レイは奥に向かって叫んだ。二人は近くにあった丸椅子に腰を掛けた。横には木の作業台があり、壁にはプレート見本が掲げてあった。
「調子はどうだ」
「まぁまぁだ。天気が崩れかけると胸の継ぎ目と肩が痛む程度で」
「そいつぁ、オレの領分じゃねぇなぁ。ちょっと見せてみろ」
 ロンは言われた通りシャツと手袋を脱いだ。右胸と肩から先は鋼で覆われていた。
「サイボーグだっていうのは本当だったんですね」
「兄ちゃん、初めてかい。そう珍しくもないんだぜ。義肢の延長線みたいなもんだからな。じゃあ、プレート外すな。筋肉や関節の動きが見てみたい」
 レイは太い指でドライバーを摘み、器用にビスを回してプレートを外していく。ロンの右胸の生々しい傷跡が露わになる。続いて人工筋肉、人工関節もむき出しになる。
 奥から妻のフランソワが紅茶とスコーンを運んできて、作業台の隅に置いていった。二人はご馳走になりながらも作業から目を離さなかった。
「指動かしてみ。……うん、大丈夫だ。手首曲げてみ。回して。今度は肘曲げてみ。連続で。内旋。外旋。次に肩回してみ。前回し。後ろ回し。肘曲げて手の平背中につくか? そのままで左手でグッと押さえても大丈夫か? 最後に肩からプラプラさせてみ。……うん、大丈夫だ。動きに問題はないようだな。古傷が痛むのは万人に共通するコトだから、諦めな。じゃあ、プレート戻すな」
 レイはまた器用にビスを回して留めていく。ロンはほっとしてシャツを着て、手袋をはめた。
「面白かったかい」
「はい、カーター刑事」
「そいつぁよかった」