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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
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クロス 第三章 ~PAINT IT,BLACK~

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案の定、アレックスは喜んだ。夕飯を終えて紅茶を飲みながら、ビリーは今日の成果を話した。不謹慎極まりないこの女は、何か重大な事件が起きているかもしれないと聞いて、手放しで喜んでいる。自分も参加したくてうずうずしているのだ。オール・トレード商会の荒事担当は銃も使うし、警察の敵にも味方にもなる。やはりここはロンをつつくしかないとアレックスは思い、三〇五号室に向かった。
 呼び鈴を押そうとしたら向こう側から開いて、ロンが飛び出してきた。危うくぶつかるところだった。
「どうした、慌てて」
「どうもこうも呼び出しだよ」
「こんな夜遅くに御苦労なコトだな」
「冗談じゃねぇよ。人死にだぞ」
「これは失礼。で、どこだ」
「北はずれのフィゲロ通りだよ」
「フィゲロ通り? あんな辺鄙なとこで? 珍しいな」
「あぁ。おかげで大騒ぎだ。アレックスも気をつけろよ。一応ガンマンなんだからよ」
「よく分からんが、ありがとう。じゃあ、仕事に励んできてくれ」
「言われんでも。じゃあな」
 慌ただしく背広を羽織りながらエレベーターへとロンは駆けていった。フィゲロ通り? あんな民家もまばらな人気(ひとけ)の少ない所で人死にとは本当に珍しい。そういえばガンマンだからと言っていたな。例の一件か? アレックスは思案顔で部屋に戻った。

 フィゲロ通りの現場は殺気立っていた。慌ただしく鑑識が現場をさらっていた。ロンは到着するなり、チェイス係長に詰め寄った。
「ツーマンセルじゃなかったのか!!」
「ツーマンセルだったのに殺られたんだ」
「クロスなんだな」
「あぁ。ツーマンセルで巡回中、一人が殺られ、一人はパニック状態だ。余程ショックだったんだろう」
「証言は?」
「一応取れた。背の高い黒ずくめの男だったそうだ。決闘を申し込まれて、受けて起(た)ったらしい。その間、相棒は銃口を男に向けてたらしいんだが、どうしても引き金を引けなかったらしい。新人だから仕方なかったのかもしれんが、これで三件目だ」
「くそっ! 昨日の今日でかよ。鑑識は何と言っているんですか」
「四か所の銃創と十バックス硬貨に薬莢なしとしか、今のところは」
「リボルバーの四十口径か。それ以上の情報は期待できないな」
「あぁ。たぶんそうだろう。それはそうと、お前にこのヤマを任せたが、相棒をつけんとな」
 チェイス係長は振り返り、一人の男を呼び寄せた。
「はい、なんでしょう、係長」
「チャック・デービス刑事だ。今回ロンの相棒を務めさせる」
「分かりました。でもいい噂聞きませんよ、カーター刑事」
「なんて聞いてんだ」
「長生きできないって」
「かもしんねぇな。足だけは引っ張んなよ」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「これで顔合わせは済んだな。明日の朝定時に会議だ。遅れるなよ」
 そう言い残して、チェイス係長は覆面パトカーに乗り込んで去っていった。鑑識も終わったらしく、帰り支度をしていた。白墨で書かれた人型だけが残されていた。
 鑑識のバンが去ると、通りの向かい側に、私服警官に付き添われてしゃがんでいる警官が見えた。
「奴は?」
「ジャック・トーマス巡査。唯一の目撃者です」
「よし、行こう」
 二人はトーマス巡査に歩み寄った。付き添いの警官に状況を聞くと、このまま病院に搬送されるというコトだった。
「ちょっといいか。クロスはどんな奴だった」
「……笑ってた。ずっと笑ってたんだ。ずっと……」
「こいつ、ずっとこんなか?」
「落ち着いたんですよ、これでも。でもそれからは何を聞いてもこればっかりで。相当ショックが強いようです。後は医者に任せましょう」
「そうだな。悪かったな」
 そう言うと二人はその場を離れた。今度は人型に歩み寄る。これで三件目だ。ロンはまだまだ続きそうな予感がした。

 翌朝の会議は前回とほぼ同じだった。被害者の欄にショーン・デンプシー巡査の名が加わっただけだった。どの報告も判を押したようなものばかりだ。捜査方針も引き続き継続だが、ただ一点追加事項があった。それは警察の予算食らいのアンドロイド部隊の投入だった。これ以上の人死にを出したくないチェイス係長は、アンドロイド部隊長コーエンに巡回を打診したのだ。コーエン隊長は快諾し、人気の少ない地域に部隊を投入するコトに決めたのだ。後はトーマス巡査が落ち着き、医師の許可が下りたら、再度聴取をするというコトだった。
「よく上は許可しましたね。いくら隊長が快諾したからといって。そう思いませんか、カーター刑事」
「だよな。なんせ一体百万バックス以上する高級部隊だからな。まぁ、面子の問題もあるだろうがな」
「うまく引っかかってくれればいいですよね」
「そうさな。金食い虫なんだから、そんくらいの手柄は欲しいもんだよな」
「我々はこれからどうしますか。みんな聞き込みに行っちゃいましたけど」
「帰る。寝たい」
「いいんですかぁ」
「いいんだよ。オレはいつもそうしてんだ。昼から動いても成果は変わらんさ」
「じゃあ、僕も休みます」
「そうしてくれ。十三時にレオナルド通りのカフェ・パリスに来てくれ」
「分かりました」

 ビリーはご機嫌だった。久し振りに仕事の依頼が入ったからだ。アレックスは渋ったが、常連の頼みなので断りはしなかった。二〇四号室の世話好きなおばちゃん、タミヤが身内だけのパーティーを開くためにオーダーしたオードブルを取りに行って欲しいとのコト。大きいため、この小柄なおばちゃんではおぼつかないのだ。たった千バックスの仕事だが、ビリーは嬉しかった。
「はい、お金ね。オードブル代はもう支払ってあるから、取りに行くだけよ」
「お金は後払いですけど」
「いいじゃないの。いつもちゃんと届けてくれるんだから。はい、渡したわよ」
「分かりました。行ってまいります」
 ビリーは中央広場横のフードセンターにおつかいに行った。予想していたのより大きかったので、少し驚いた。
「ビリーやい」
 突然ビリーは呼び止められた。振り返るとマラキーが手招きをしていた。近寄ると耳を貸せという。ビリーはオードブルをなんとか頭の上に持っていき、かがんだ。
「今日プロント通りで銃声を聞いたという客が来てな」
「プロント通りで? 銃声?」
「しかも四発じゃよ。一昨日のコトだと言っておったわい。警察にしつこく聞かれて嫌気が差したとも言っておったわな」
「一昨日……」
「思い当たるじゃろ」
「警官が増える前の日ですね」
「そうじゃ。四発も銃声があったのに事件を伏せとくとは、何か理由がありそうじゃな」
「そうですね。ありがとうございます。でも手持ちがこれだけしかないんです」
 ビリーはタミヤの依頼料千バックスを差し出した。
「構わん構わん。この間これの三倍貰ったんじゃからな。貰い過ぎじゃて」
「じゃあ、千バックスでお願いします」
「えぇよ、えぇよ。さぁさ、おつかいの途中じゃったんじゃろ」
「そうでした。思い出させてくれてありがとうございます」
 ビリーはそそくさと立ち去った。

 ビリーはタミヤにオードブルを届けると急いで部屋に戻り、マラキーから聞いた話をアレックスにした。
「せっかくの千バックスが消えちゃった。今日の酒代……」