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てっしゅう
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「哀恋草」 第九章 彼岸花

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第九章 彼岸花


一蔵、志乃、弥生の三人は夜通して歩き、最短の道順で夜明けごろには作蔵の家の近くまで来ていた。一蔵は二人を吉野まで連れて行けば、事と次第によっては藤江の遺族からなぶりものにされるやも知れないと、懸念しひとまず作蔵に預けて、自分だけ帰ろうと考えていた。

「一蔵殿、すぐそこには作蔵殿の家がございまするな」
「良く存じおるのう。今考えておったのじゃが、吉野へはやはり連れてゆけんわ。皆にどう話すか考えつかんで、ひとまずは作蔵がところに世話してもらおうぞ。どうかのう?」
「もったいのうございまする・・・弥生と二人、このままご迷惑にならないように、行く先決めまするゆえ、ご心配くださいまするな」
「それは、ならぬぞ。勝秀殿や久殿との約束をたがえることになる。作蔵は心の大きい男じゃ。心配せずとも、世話になるが良い。時機を見てそれぞれに出立しても遅うはないぞ」

一蔵に説得されて、二人は世話になることを決めた。再びこの家に入ろうとは志乃は考えていなかったから、縁が何かを巡り合せようとしているのか・・・とそう思わざるを得なかった。

「作蔵!作蔵!早ようから済まぬのう。一蔵じゃ!中に入れてくれ」

眠い目を擦りながら木戸を開けると、作蔵はビックリしたように声を発した。
「兄上!それに志乃どの!なんとされてござりますか?」
「話は後じゃ!腹が減ったでのう、なんか食わせてくれまいか?話はそれからじゃ・・・」

土間で作蔵がこしらえた粥を三人はすすった。塩味がやけに腹にしみる味わいであったが、疲れからか渇いた身体に、すーっと塩分が入ってゆく心地よさを感じていた。

作蔵は兄一蔵から今までの話を聞いた。そして今は改心している志乃と弥生を世話する事も約束した。特に志乃は、奥の部屋で臥せっている作蔵の妻、桐の世話を申し出た。桐は物静かで体調が良くないのか話すこともあまり無く、いつも横になっていることが多く身体はやせ衰えていた。志乃の献身的な世話に、作蔵は感心した。このような優しい女子が何故、時政のような男の手先になっていたのか、そして藤江を殺めたのか・・・

女心を操っていた時政に怒りさえ感じた。時の流れが鎌倉政権に向けて進んでいる中で、二人の女が策略の手先として利用され、今自分の愚かさに気付き、ここへ逃げ込んできていることが作蔵にはせめてもの救いに感じられた。弥生にはきっと嫁に行ったら、よき妻となるに違いない、とその家事の器用さにそう思えていた。

一蔵は二人を預けてその足で吉野へと帰っていった。自分の目的であった志乃への復習は叶わなかったが、時政の陰謀と解って志乃本人を責める事が可哀相になってしまった。また今一人弥生を救い出したことを付け加えれば、それなりに満足できることだった。何より、勝秀に会えたことも大きな収穫であったろう。吉野へ着いた一蔵は、京の情勢が一段と騒がしくなってきたこと、この村にも何が起こるかわからないことへの呼びかけも徹底した。村民が一体化して、来るべき鎌倉と立ち向かう覚悟を決めざるを得ない状況であることも語気を強めて話した。


時政の館に戻ってきた家臣たちは、主の戻りが遅いことを不審に思っていた。そのとき時政に会いに来た景時は遅すぎるとまた家臣たちを伴って鞍馬の後白河別邸に急ぎ出かけた。馬を飛ばしてやって来たことに時政は気付いた。

「勝秀どの、家臣たちが馬でやってきたようじゃ。さてどうするのか、おぬしはここに隠れおるのか?一旦身を隠されるのか?」
「・・・庭から床下に隠れ潜むことにする。上手く演じられよ」
「あいわかった」

玄関を無造作に通り抜け中に入ってきた景時は驚いた。家臣たちの屍が転がっている。奥の部屋に入って倒れている時政を見つけて近寄った。

「守護職どの、どうされた!気をお確かに!」
「ううう・・・やられた。これは景時どの、たった今襲われたのじゃ!辺りに人影は無かったかのう?無念じゃ・・・」
「しっかり召されれい!傷は浅いぞ!これ、家臣ども、外にお運びいたせ。馬に乗せて館に戻るが良いぞ」

景時はその場の様子からこのまま見逃す気持ちにはなれなかった。家臣に倒されている数名の屍を外に担ぎ出させ、自分も外に出た。時政を連れて館に戻るように命じ、自分は再び中に入っていった。誰もいなくなった部屋の中で、大きな声で呼びかけた。

「梶原景時である!隠れているのなら、出ませい!堂々と勝負されるが良かろう。誰もおらぬ、景時一人じゃ!」

床下に居た勝秀はじっとしていたが、周りから他の家臣たちの気配を感じられなかったので、一対一の勝負を着ける機会だと決断した。

庭先に人の気配を感じて景時は振り向いた。ゆっくりと勝秀は刀を手に持って、縁側を上がり見据えるような位置まで近づいた。

「まずはお互い名を名乗ろう」景時はそういった。

「平勝秀、維盛殿が家臣。平家一族の無念を晴らすためにずっと忍んできた」
「梶原景時、頼朝殿一の家臣。相手に不足は無いのう」
「お互いに堂々と相交えようぞ・・・」
「望む所だ!勝秀殿、参られよ!」

カチーンと刀が合わさった音が響いた。二度三度と鈍い金属音が響く。景時は連戦練磨の武将。さすがに剣のさばきは優れていた。勝秀はかつてのように振舞っていないせいかやや鈍い動きになっていた。それでも持ち前の体力で相手の剣を受け止めることが出来ていた。小半時も経ったであろうか、夕刻になり日が落ちて相手が見えづらくなってきた。ハアハアと肩で息をするようになっていた勝秀は、己の不利を予感してきた。このままだと疲労から相手の剣を受け止められなくなる、と判断して一気に突きにかかった。見透かすように景時は矛先を寸前の処でかわし、前のめりになった勝秀の剣を上から叩いた。腕にしびれるような衝撃が走り、両手から刀が床に落ちてしまった。

「そこまでじゃ!勝秀殿!・・・御免!」

再び振り下ろした景時の刀の刃が勝秀の背中を切り裂いた。

「ウッ!・・・しまった・・・これまでか・・・」

振り返ったところに正面から再び袈裟掛けに右肩から振り下ろしたところで、息が絶えた。鮮やかな刀さばきであった。苦しむことなく二太刀で絶命させた景時は大きく息を吸って刀を鞘に収めた。

「南無阿弥陀仏・・・往生なされよ」
勝秀が隠れ潜んでいることを知っていたわけではない。ただ、時政が殺されていなかったことに不信感を抱いただけなのだ。勝秀の判断の甘さがこの結果になってしまった。景時はやはりその地位を築いただけの武将であった。


久と光、みよの三人は夜道を和束村から笠置方面へ急ぎ歩き続けていた。昔住んでいた川沿いの小屋はもう無かった。庄屋が取り壊してしまったのだ。時の流れを感じながら歩き進んでいた。日が高く上る頃、やっとの思いで作蔵のところへ帰ってきた。空腹感と疲労感でめまいがしていた光は、玄関先で焚き物をしている弥生を見つけて倒れこむように抱きついた。

「光殿!どうされました?しっかりなされませ」
「や・よ・い・・・どの、すみませぬ・・・」後は声にならなかった。