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暗闇の中に潜むモノ

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暗闇の中に潜むモノ

 バイト先から出ると、夜風が思ったより冷たいことに気付く。半そでで家を出たことを後悔しながら、私は家路を急ぐ。
 夜風がアスファルトを撫でて行く。私は冷たくなっていく腕を擦って暖める。
 冬が目の前に来ている。私はあまり寒さに強い方ではないので、秋の風はかなり苦手である。
 びゅうびゅうと吹き荒ぶ秋風によって枯葉は舞い上がり、その赤い色は月によって照らされる。月がぷかりぷかりと浮かぶ夜空には、その強い光を恐れたのか星たちは闇の中に紛れてしまっている。
 今夜は妙に綺麗な夜だった。物影は真っ暗なのに月明かりが当たる場所は明るい。明暗の境界線はハッキリしており、その所為か夜道が妙に写実的に感じてしまう。
 ――いや、影絵的なのか、これは。現実感のない現実は、やがて私の視界を飲み込んでゆく。自分が立っている地面すらあやふやで、影絵たちが踊りだす。影絵の化け物たちは踊り笑う。甲高い哄笑はこんなシャープな夜に響き渡る。
 彼らには形がない。その為、形を得るために人に襲い掛かる。
 影絵たちはにじり寄ってくる。形が欲しいと、笑い踊りながら。やがて私はその影たちに飲み込まれ――。
「お、何やってんだよ、こんなところで」
 そんな妄想に取り憑かれそうになった時、背後から声を掛けてきたのは例によって例の如く、友人Mであった。

作品名:暗闇の中に潜むモノ 作家名:最中の中