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碧は夏休み前までの達也に対する気持が無くなってしまった。人の心が解らない男子だと思えてきたからだ。

二学期に入って隣の席の詩緒里と親しくするようになっていた。4月の誕生日だったから13歳になっている。自分より大人っぽく見える体付きが碧は羨ましかった。

日曜日に渋谷へ遊びに行こうと約束をした。ミニのワンピースに合わせるブーツが欲しかったから母親にねだって小遣いをもらい、その日に選ぼうと思っていた。たくさんの人出で賑わう公園通りに並ぶ店を一軒一軒見て回った。気に入ったブーツが無かったから、原宿に移動した。やっと見つけて大きな荷物を抱えて、詩緒里とマックへ休憩に入った。

「いらっしゃいませ！ようこそマックへ」の声に二人はレジに並んで注文をしてトレイを持ちながら座る席を探していた。

「碧ちゃん！碧ちゃんじゃないの？俺だよ、貴志」
声をかけられてその方向に振り向いた。そこには男女4人で座っている貴志がいた。
「貴志さん・・・」
「こっち来いよ・・・詰めれば座れるから・・・」
詩緒里がもじもじしていたので、大丈夫よ、と声をかけてその席に行った。
「貴志、誰なんだよこの子？」
「ああ、富士急で知り合ったんだよ、なあ？」
「はい、そうです」
「まだ子供じゃない？いいの？」
仲間の女子がそう言った。
「子供って言うなよ・・・可哀想じゃん。ゴメンな。さあ、座って一緒に食べようよ。今日は二人で来たの？」
「うん、ブーツ買いに来たの。こちらは同級生の詩緒里ちゃん。席が隣なの」
「そうか、詩緒里ちゃんか・・・よろしく、貴志って言うの。碧ちゃんの・・・なんて言えばいいのかな・・・知り合い？友達？・・・まだ早いか？」
「おかしな人・・・フフフ。ジェットコースターで並んでいた時に話しかけられたの」

「おう、貴志、ナンパしたのか？隅に置けないなあ・・・こんな子供を誘うなんて・・・」向かいの席の男子がそういったので、碧はちょっとむっとなった。
「子供じゃないですから・・・中一です」
「同じようなものさ・・・貴志俺達先に行くから仲良くしてろよ」そういい捨てて3人が席を立った。貴志と碧と詩緒里だけの席になってしまった。

「何だあいつら勝手に帰りやがって・・・まあいいか。こうして話せるから。家はこの近くなの？」
「ううん、目白よ。私は豊島区だけど詩緒里ちゃんは新宿区なの」
「そうか。偶然だな。俺下落合なんだよ。線路沿い」
「そうなの！近いね。偶然だね」
「そうだな・・・詩緒里ちゃんは彼氏いるの？」

えっ！と困った顔になってうつむいてしまった。好きな子がいたからだ。
「貴志さん・・・詩緒里ちゃん恥ずかしがっているから答えられないよ」
「言わなくていいよ、ゴメンね」
「はい、すみません・・・」か細い声で返事した。
「貴志さんこそ、さっきの中に彼女がいたんじゃないんですか？」
「彼女？・・・ハハハ・・・誰があんな女子好きになるか」
「ひどいことを言うのね。可哀想だわ」
「違うよ。あの子達は同級生だし、それも近所だし、彼女って感じしないんだよ。4人ともみんなそう思っているよ」
「ほんとに仲良しグループなんだね・・・それも羨ましいわ。碧には詩緒里ちゃんしか友達がいないんだもん・・・」
「そうか・・・淋しいな。もっとたくさん友達作れよ。可愛いから逆に敬遠されちゃうのかも知れないね、碧ちゃんは」

詩緒里と目を合わせてくすっと笑った。お世辞を言ってくれていると感じたからだ。
「俺は・・・友達になれるよ・・・ううん、なって欲しい」
「貴志さん・・・私12歳よ・・・構わないの？」
「直ぐに大人になるよ・・・携帯持ってる？」
「うん、持ってる」
「じゃあ・・・これがアドレス。俺に返信してくれない？」
「ちょっと待って・・・」

使い慣れた携帯の操作に貴志はちょっとビックリした。それよりも隣にいた詩緒里はもっと驚いていた。高校生の男子とメルアド交換していたからだ。

貴志はメルアドを交換すると直ぐに出て行った。「メールするから」そう言い残して。

「碧、いいのそんな事して・・・達也君いるじゃない」
「達也君から逢えないって言われたの・・・勉強に励むらしいよ」
「そうだったの・・・仲良くしていると思ってた」
「それよりさっき恥ずかしがってたけど、好きな子いるのね？だれ？教えてよ」
「だれにも言わないって約束できる？」
「もちろんだよ、言う訳無いじゃん」
「だったらいいけど・・・体操部の近藤先輩」
「言ったの？」
「言えないよ・・・わたしなんかきっと相手にしてくれないから」
「何でそう思うの？」
「碧みたいに可愛くないし・・・スタイルだって良くないから」
「そんな事無いよ！男の人って容姿だけじゃないよ。思い切って告って見たら・・・言えないなら、私が聞いてあげようか？」
「碧が・・・そうね同じ部だから知っているのよね。やっぱり自分で言ってみる」
「頑張れ！ダメもとなんだし・・・」
「碧は積極的ね・・・さっきも驚いちゃった。携帯だって持っているし。話が上手だから羨ましいわ」
「褒めてくれているの？あきれている？」
「褒めてるわよ、もう・・・同級生って感じないときがある」
「身体は明らかに未熟なの・・・早く詩緒里ちゃんのようにおっぱいも大きくなりたいけど、まだ女の子だから悲しい・・・」
「まだなの？・・・そう・・・もう直ぐよ、何も焦ることじゃないし」

帰りの電車の中で着信音が鳴った。貴志からのメールだ。ちょっと嬉しかった。自分を子供扱いしなかったからだ。二人で逢うときが来るのかなあ・・・そうぼんやりと考えながらメールを読んでいた。


家に着いて直ぐに二階へ上がって自分の部屋で貴志のメールに返事した。貴志も家に居るのだろうか、また直ぐに返信が来た。何度かやり取りをして今度二人で逢おうって最後は言われた。迷ってしまった・・・

兄弟でもないのに高校生の男子と二人きりで逢うなんて、自分の身体に自信がなかったし、きっと子供っぽいから直ぐに飽きられてしまうと考えた。部屋をノックする弥生の声が聞こえた。
「碧！ご飯よ・・・降りて来なさい」
「はい、今行くから・・・」
出かけて帰ってきてからずっと部屋にいた碧に由紀恵は「どうしたの？具合でも悪いの？」そう尋ねた。
「悪くないよ。何で聞くの？」
「だって、ずっと部屋にいたから」
「考え事していたから・・・別に心配しなくていいよ。大したことじゃないから」
「それならいいけど・・・何でも話してね」
「うん、ありがとう・・・」

食事が済んで風呂に入って自分の部屋に戻ってくると、弥生が中にいた。
「お姉ちゃん・・・何してるの？碧の部屋で・・・」
「話したい事があるんじゃないの？ママに言えなくても、私には言えるでしょ？」
「別に無いよ・・・心配してくれてありがとう」
「ゴメン・・・携帯見たのよ・・・心配になったからここに居るの」
「お姉ちゃん！なんて事するの・・・碧お姉ちゃんの携帯見たりなんかしないでしょ！」
「もうこれからはしないって約束するよ・・・だから、話して。どういう人なの？貴志さんって・・・」
「・・・言わない・・・まだ言えない・・・」
「秘密なの？達也君は知っているの？」