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てっしゅう
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深淵 最上の愛 第四章

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何と言う偶然だ。神は命を捨てる覚悟をした翔太に絵美をプレゼントしてくれたのか?翔太だと信じたくない絵美の想いをあざ笑うかのように、衝撃の瞬間は来た。

「生きているとは思わなかった。きっとあなたのご両親が引き合わせてくれたのね」
「絵美・・・俺はお前に会う資格なんか無い人間だ。悪いが逢った事は偶然にしておこう。もう二度とここに来るな・・・俺は死んだことにしておいてくれ」
「何言ってるの!だったら何故車から降りてきて顔を見せてくれたの?同じ想いだったからでしょ?」
「すまん・・・懐かしかったから。弱い人間なんだ、俺は」
「ねえ、私今時間がないの・・・夜逢ってくれない。今夜は泊まりだから、ゆっくり出来るの。いいでしょ?」
「絵美、今何やっているんだ?」
「答えられない・・・そのときに言うわ。翔太は?」
「同じだ。そのときに言おう」

待ち合わせ場所と時間を決めて、二人は別れた。


絵美は本部長室に居た。二人きりで先ほどからずっと同じことを絵美は頼んでいた。
「捜査は自分だけでやるものじゃないぞ。それぐらい良く解っている筈だろう。自分も大切にしないといけないが、全体で捜査に当たるということはもっと大切なことなんだぞ」
「本部長、私しか知りえない情報があります。捜査のために使うことは約束します。24時間だけ時間を下さい。お願いします。これ以上はいえません。信じて頂けませんか?」
「何度も聞いたよ。同じことを・・・具体的にどうするのか話してくれないと許可出来ないんだ。君だって部下が同じことを言ったらどうする?」
「解りません。部下を信じるのか、許可しないのか。今は、本部長に私を信じてくださいとお願いするしかありません」
「困ったなあ・・・条件がある。居場所が特定出来るように、GPS携帯を持ってゆけ。24時間以内に君から連絡が来なかったら、その場所に署員を向かわせる。何があってもその時は俺の指示に従うんだ。いいな」
「はい、ありがとうございます。及川警部と森岡警部補に良く話しておきますのでご安心ください」
「解った。気をつけろよ。なんだか悪い予感がするんだ」
「大丈夫です」

絵美は、ハンドバッグに拳銃を忍ばせて本部長から預かった携帯を所持した。及川と森岡には24時間経って連絡しなかったら、携帯の場所に来て欲しいとだけ伝えた。
「警視正、何か掴んだんですか?」
「まだ、わからない。私は囮になるの・・・危険だけど、本部長には話してある。詳しくは言えないけど、大丈夫よ」
「一緒についてゆきますよ。解らないようにしますから」
「あなたは顔が知られているからダメよ。待機してくれる?お願い」
「心配なんですよ・・・万が一のことがあったら、署に顔向け出来ないじゃないですか。お前ら何してたんだって!言われてしまいますよ」
「ありがとう。でも今回は一人でやらせて、お願いだから」
「覚悟を決めておられるんですね・・・解りました。24時間ですね?約束は守ってくださいよ」
「うん、解ってるわ」

何とか誤魔化して絵美は本当のことを話さずに署を後にした。本部長は絵美の携帯が六甲山のホテルに向かっていることを確認した。

翔太は水島に別れを言うために会いに行った。絵美と逢って、15年間の隙間を埋めることが出来たら、死のうと考えていた。籾山が捕まって、夏海も逮捕されて、自分が指名手配されている状況で身を隠し続けることなど不可能に思えるからだ。捕まって、山中組の幹部だと知れると迷惑が掛かる。人知れず消えてゆけば、捜査はそれで終わってしまうだろう。せめて絵美と短い時間でも昔のように話すことが出来たら、思い残すことは何も無い。

「翔太、お前・・・死のうと考えとるんやろ、ちゃうか?」
「水島さん・・・許してください。こんな俺を一人前にして頂いたのに、身勝手なこと考えて」
「死なんでもええ、万が一捕まってもいつかは出てこれる。その時まで、俺も組長も待ってる。お前は組にとって大切な人材や。早まったらあかんで」
「ありがとうございます。組に迷惑を掛けるような事はしません。水島さん、おれの好きなようにやらせてください。最後のお願いです」
「翔太、あかんって言ってるやろ!どんなことをしてもおれが守るさかいにここに居れ」
「好きな女がいます。最後に逢って別れてきます。偶然逢ったんです。そいつと話せたら未練はありません。ここに戻って来ますから、行かせて下さい」
「翔太、ほんまやな?帰ってくるねんで、約束しいや」
「はい、水島さん。約束します」

戸村翔太は持っていた銃を水島に渡して、丸腰で絵美に逢いに出かけた。六甲山ホテルの明かりが見え出して子供の頃の記憶がゆっくりと戻ってきた。絵美はタクシーに乗ってホテルに着いた。少女のような可愛い服装に恥ずかしさを少し感じたが、翔太と最後になるかも知れないと思い切って着ていたのだ。

ロビーで待っていた絵美に翔太は近づいてゆく。周りの視線を気にしながらゆっくりと進む。薄暗いロビーの明かりで、翔太は救われたかも知れない。
テラスに誘いだして、宝石を散りばめたような神戸の夜景にしばし見とれていた。

「ここから夜景を見るなんて、初めてのことだな。もう15年もここに住んでいるのに」翔太は絵美の顔を見ながらそう言った。


「私ね、震災の後2月にあなたを探しに母と来たのよ。見つからなかったから、両親には諦めるように言われたの。大学に入って何度も探したけど結局は見つけられなかった。死んだと思ってたの」
「そうだろうなあ。俺も死んだと思ったよ。気が付いたら両親が家の下敷きになって死んでいた。助けてくれた人のところで世話になって今日まで来た。絵美は結婚してないのか?」
「翔太は?してるの」
「俺は・・・してないよ」
「私もしてない。あなた以外に男性は受け入れられなかった・・・ずっと」
「絵美、すまなかった。早く言えばよかった」
「言えなかった理由があったのね?」
「ああ、そうだ。でもいいんだ、今日で過去の自分とはさようならをする。絵美にこのタイミングで逢えて嬉しいよ。心の中にお前がずっといた。今でも好きだ。でも、今日で俺のことは忘れてくれ。頼む」
「何言ってるの?変な事言わないでよ。逢ってすぐに、忘れてくれ、だなんて。私も好きよ。二人のこと考えられないの?」
「月日が経ちすぎてしまった。絵美とは住む世界が違うんだ。言えないけど、お前に迷惑をかけたくない。もう少ししたら帰ってくれ。俺は絶対に絵美のこと忘れたりしないから」
「いや!帰らない・・・訳を言ってくれるまで帰らないから」
「ここじゃ言えない」
「あなたの家に行く。それならいいでしょ?」
「俺は男一人住まいだ。何を言ってるんだ」
「ねえ?覚えている。大学に合格したら一緒に旅行に行こうって誘ったこと?」
「ああ、覚えているよ」
「今日がその旅行よ・・・泊まるのはあなたの部屋。それでいいの・・・構わないの」
「絵美・・・」
「私も話さないといけないことがあるの・・・二人きりになったら言うから」
「後悔しないな?」
「なんでするのよ?翔太のこと好きなのに」
「車に乗ってくれ」
「うん」