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てっしゅう
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「神のいたずら」 第四章 両親と優

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「先生、碧です。今度の日曜日の会合の事ですが、ボクの両親が来ると思うんです。会わないって決めていたけど、顔を見たら絶対に動揺する気がするんです。先生一緒に来て頂けませんか?」
「そうね・・・当たり前よね。解った、一緒に行かせていただくわ。お母様にもそう伝えておいてね」
「はい、ありがとうございます。助かりました・・・」
「いいのよ。頑張ろう」
「解っています・・・碧としてこれからは頑張りますから。それから、余計な事ですが・・・好きな子が出来て、今日キスしました。一瞬だけど・・・嬉しかった」
「まあ!もう・・・ダメよそれ以上は・・・あなたの身体はまだ受け入れられないから・・・それに妊娠したら大変!」
「ママには絶対に内緒にして下さいね。妊娠・・・か・・・考えたことないけど、将来はあるんですよね・・・」
「自分を大切にしてよ。預かった身体なんだから・・・」
「預かった・・・そうでしたね。忘れるところでした。では、日曜日に」

預かった身体・・・か。先生にそう言われて、もっと大切にしようと碧は、いや隼人は思った。


「日本坂トンネル多重追突事故被害者訴訟の会」と書かれた看板を見て中に入った。受付にいた女性から、名簿のチェックを受けた。

「小野碧さん、小野由紀恵さん・・・確認させて頂きました。バスに乗っておられた方ですね。向かって右側のテーブルになりますので、そちらでお待ち頂けますか」
「あのう、早川早苗と言います。小野碧さんの主治医ですが、同席させて頂いても構いませんか?」
「そうでしたか・・・お待ち下さい・・・確認いたしました。どうぞご一緒にお座り下さい」
「ありがとう」

碧は落ち着かなかった。きょろきょろして両親が来ていないか探した。
「碧ちゃん、あまり見ないほうがいいよ」
「うん、でも気になって」
「皆さんが集まってお話を聞いた後で探しましょう」
「解った・・」

弁護士の話は一時間ほどで終了した。今から個別に慰謝料請求の手続きに入る。由紀恵は入院治療費と運賃、衣装など持ち物の損害を算出して金額を書き込んだ。碧はそれとは別に精神的被害を慰謝料と言う形で請求することになった。

「先生・・・向こうのテーブルに来ているよ。父と母が・・・どうしよう、なんと言って話をしたらいいのか解らない」
「待ってて、私がそれとなく立ち話してくるから・・・」

早苗は高橋の両親の元に近づいてそれとなく会話を始めた。
「初めまして・・・精神科医の早川と言います。今回の事故で被害者の方のケアーをさせて頂いております。どなたが事故に遭われたのですか?」
「精神科医・・・そうでしたか。心のケアーをされているのですね。息子の隼人を亡くしました。追突されたトラック会社からは、現場の状況から不可避だったと責任逃れを言われまして、今回の訴訟に踏み切りました。こんな重大な事故を起こしておいて、責任が無いなんて・・・死んだ隼人が浮かばれません・・・妻も長らく臥せっておりましたが何とか一緒に来れるようになりました」
「そうでしたか・・・ご愁傷様です。隼人さんと仰るのですね、お幾つの方でしたの?」
「はい、26歳です。教師になると言って頑張っておりました」
「先生ですか・・・夢があったんですね。よろしかったらお話して下さいませんか?」

席を移して早川は両親と話しをするようになった。

「隼人は中学の教師になると試験を受ける予定でした。東京にいる交際相手と逢った帰りに事故に遭いました・・・こんな形で帰ってくるなんて・・・妻は葬儀が終わってからしばらく臥せってしまいました。今は何とか落ち着いておりますが、この先不安でなりません」
「お気持ちお察しいたします。何かお役に立てればよろしいのですが・・・お話させて頂きましょうか?お母様と」
「本当ですか?初めてお会いしたのに、そんな事先生にお願いして・・・」
「構いませんよ。私は今12歳の少女の治療を致しております。この事故で精神的損傷を受けました。すべての記憶を失ったのです。今はずいぶん良くなりましたが、初めの頃は大変でした。何か今辛いことが、今おありですか?」

母親の裕子は早苗に隼人が帰ってくると毎日思ってしまうことや、遺品を整理出来ない事など悩みを打ち明けた。

「お母様・・・今度ご自宅にお伺いさせて頂きます。今日はこういうところなので落ち着いて話せません。日曜日なら都合がつくのですが、宜しいでしょうか?」
「はい、先生に来ていただけるなんて光栄です。主人を迎えに行かせますから、名古屋に着いたらご連絡して下さい」
「ありがとうございます。それでは・・・勝手を申しますが、その少女もご一緒させて下さい。今回の事故で命を取り留めた恩返しがしたいと常に申しておりまして・・・お墓参りなどさせて頂ければ少しは気休めになるかと思っておりますので」
「そうですか・・・そのようなお気持ちを持って頂いているなんて・・・隼人も嬉しいと思いますわ、是非ご一緒に起こし下さい」
「では改めてご連絡いたしますので、これが携帯の番号です」

碧のところに戻ってきた早苗は、近いうちに名古屋に行くことを話した。
「さすが先生だなあ・・・凄い」
「これからがどうするかよね・・・」
「自分の墓参りをするのか・・・複雑だなあ・・・」
「わたしも同じよ。それより由紀恵さんになんて言おうかしら」
「ママに?・・・はっきりと言おうよ?」
「そうね・・・それがいいね」

早苗は由紀恵に碧を連れて名古屋に行きたいと申し出た。反対することも無く、「そんなお世話して頂いていいのですか?」と逆に恐縮していた。

ゴールデンウィークになると混むから、前の週に出かけることにした。碧は身支度をして母親と一緒に待ち合わせの東京駅に向かった。

「碧、先生の言うことを聞くのよ。勝手な行動はいけませんからね」
「解ってるよ、子供みたいに言わないで」
「子供じゃない、まだ・・・だから心配しているのよ」
「言うことを聞くよ」

早川がやってきた。
「お待たせ、早かったのね。由紀恵さん、私のわがままに碧ちゃんを付き合わせて、ゴメンなさいね。大切にお預かりしますからご安心して下さい」
「先生、こちらこそご無理を言うみたいで・・・よろしくお願いします」

やがて列車はホームに入ってきた。二人を乗せたのぞみ号は名古屋に無事着いた。すでにホームには連絡をしたので高橋の父親が探しに来てくれていた。碧は直ぐに見つけて、「先生あそこだよ」そう教えた。

「これは先生、わざわざありがとうございました」
「高橋様、ご足労かけます。こちらが申しておりました小野碧ちゃんです」
「そうですか・・・なんとかわいらしいお嬢さんだ。ありがとうね、先生から聞いて嬉しく思いましたよ」
「小野碧です・・・初めまして」
「高橋です。よろしく」
差し出した手を握り、久しぶりに父親の感触を思い出した。

家に着いて、二人はまず隼人の位牌にお参りをした。自分の写真と位牌を拝むのはなんとも理解しがたい気分だった。仏壇の経机に置かれていた隼人の腕時計に手を差し出した。

「碧ちゃん、それはね息子の大切にしていた時計なんだよ。飾っておいても仕方ないんだけど・・・」