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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「愛恋草」 第四章 別れ

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第四章 別れ

みよは別れを惜しむようにゆっくりと光の身体を手ぬぐいで拭っていた。背中、腰、足、そしてまだ膨らみかけたばかりの胸、お腹、やがて女の部分に来た時、光は手でしっかりとそこを押さえた。首を左右に振って嫌がる仕草をした。みよのそれとは違ってまだ子供と大人の間の様相をしている事が恥ずかしかった。

「光は好きな人が居られるのか?」
「・・・エッ?そのような事をどうして聞かれるのですか?」
「私は昔から感の鋭い生い立ちゆえ、なんとのうわかるのじゃ。本当のことであろう?」
「・・・申せませぬ・・・お許しを・・・」
「申せぬという事は、居るという事じゃのう・・・怒っているのではないぞえ。女子は惚れた方と仲良うすることが一番じゃ。そちの体はもうすぐ大人になろう。ややも生むことが出来ようぞ。みよは、そなたに幸せになって欲しいからのう・・・苦しい時は話されよ、みよは味方じゃからのう」
「・・・姉上、光は・・・ほんにうれしゅうございまする。一蔵殿に意見されましても姉様に逢いに行きましょうぞ!光の事ずっとずっと思うて下さいまし」

光は押さえていた手を放し、みよに抱きついた。みよも強く抱き締めた。お互いの体がピッタリと重なって、その思いは全身から二人の絆を深めていった。もう本当の姉妹以上に思い逢うこの日の夜だった。

翌日みよは作蔵と連れ立って数日振りに我が家へ帰っていった。臥しがちの母の事は心配であったが、一蔵が気を利かせて家人の一人を作蔵たちが戻るまで世話人として行かせてくれていた。炭焼きの仕事は次の冬まではない。夏場は材料の木を切って乾燥させておく仕事になる。樫の木を炭にしたものが良いものとされている。

みよは毎日吉野の方角を見つめ、光や久のことを思い出していた。作蔵はその姿に胸を痛めていたが、やがてある夜のこと、月明かりに耳を済ませると、かすかに笛の音が聞こえるではないか。みよはきっと光が吹いているに違いないと思い、その方角を見やった。光も自分のことを思い出していてくれているのだろうかと、その想いにみよは涙が止まらなかった。

この笛の音は澄み渡る満天の夜空を遠く大峰の辺りまで響かせていた。
「殿!なにやら笛の音が聞こえましてござりまするぞ」
「なに!本当か!」
維盛は外に出て、里の方角を見やった。ほんのかすかに下から吹き上げてくる夜風に乗って、その音は聞こえてきた。

「光・・・そなたほどの女子に、もっと早よう出逢いたかったのう・・・許されよ・・・維盛は・・・」
言葉が詰まってしまった。ここにも一人頬に涙する人が居た。そんな事は思いもせずに、光は覚えた笛を心をこめて吹いていた。

光の吹く笛の音は一蔵の所にいる家人や女子供たちにも、心に染みる美しさを奏でていた。こんなに早く吹けるとは一蔵もしきりに関心した。

「光の笛は染みるのう・・・遠く子どもの頃の平和な日々を思い出すわい・・・のう久殿・・・」
「はい、同じ思いでございます。京に住まいしておりました頃には時々聞こえておりましたゆえ・・・もう遠い時の流れを感じましてございますが・・・」
「そうであったか。そちも苦労しているようだのう・・・勝秀殿の消息は分からぬのであろう?」
「はい、聞き及んではおりませぬ。ところで一蔵様、お尋ねしとう儀がござりまする。こちらに連れ戻られました女子衆とお子達の父方はどう召されたのですか?」
「うむ、それはじゃのう・・・」笛を吹き終えた光が中に入ってきた。久は席をはずすように言い含めたが、光は聞き流せずに、口を挟んだ。

「母上、お話聞いておりました。私は山小屋を出る際に、一族の頭領様のお名前を聞かされました。今日まで内緒に致しておりましたが、一蔵さまのお力を借りずとも、私めがお答えいたしまする」
「なんと、そうであったのか!なぜ早よう申されなんだ!口止めされておられたのか?」
「いいえ・・・光は・・・その・・・きっと久殿が驚かれると思い話せずにおりました。いえ、母上・・・その方は・・・平の・・・維盛さま・・・なのです」

久の顔はみるみる血の気を失っていった。
「どうした?久殿!・・・大丈夫か?久殿!・・・」一蔵は近寄った。
「母上!光でございます!お解かりですか?」
久が話せるまでに少し時間がかかった。やがて赤身が顔に戻ってきて、落ち着いたようで光も一蔵も安心した。

「何という事じゃ!維盛殿とな。奇縁に感じておろうな、光。して、勝秀様の事は何もお話しておられなんだか?」
「はい、ただ、驚かれて・・・世話になったといわれたように覚えております」
「何かご存知かも知れぬゆえ、明日にでも居られる所にお伺いいたそう!一蔵殿、久の思いを聞き届けてくだされ・・・頼みまする・・・」

一蔵は少し考えた。やがて、自分と二人で行くなら良かろうと話がついた。明日の早暁に発つように今宵は早く眠ることにした。光は、同い年のここに来た由乃と仲良くなっていた。今宵は一緒に湯殿に入る約束をしていた。順番が来て、二人は中に入った。由乃は光とちがい子供ぽかった。光と一緒に風呂に入るとすぐに湯をかけてきて、きゃっきゃとはしゃいだ。光も一緒に湯をかけてはしゃいでいた。光は思い切って由乃に聞いてみた。

「ねえ、由乃、維盛どのの従者で、勝秀と申される武将を知りませぬか?」
「・・・聞き及びませんよ。どうかなされたの?」
「私の父なの!無事で居られるか気がかりで・・・」
「そうでしたの・・・母上ならご存知かも。明日にでもお聞きなされたら宜しいですわ」
「ありがとう・・・そうしましょう」

再びきゃっきゃと湯の掛け合いを続け、髪までびしょ濡れになってしまった。寝所で久は布団の上で座ってじっとしていた。考え事をしているように光には伺えた。

「久殿・・・どうされましたか?具合が悪うなられましたのか?」
「いいえ、そのような事はありませぬ。明日のことが気にかかるのです。もし御身に万が一のことがあったら、久は生きてゆく自信がのうなりましょう・・・何事も知らぬ、と聞かされれば、落胆するであろうに・・・のう。気持ちとは不思議なものじゃ。安堵を求めて、本当のことが聞きたくないと、もう一人の自分が囁きよるでな・・・」

久の思いは光も同じであった。しかし、光にはそれと、維盛その人のことも気にかかっていたのだ。離れてしまってより一層想いが募る・・・という事が光の心の中に芽生えていた。みよには知られたが、まだここでは誰も知るところではなったから、悟られないように振舞っていた。

「久殿、明日は早発ちゆえ眠られませんと・・・気になされても今は何も出来ませぬゆえ・・・」
「そうであったのう。寝るとしよう。光も早う床に入られよ」
「はい、そういたしまする」

久は明日の事を思い描きながら、なかなか寝付けなかったが、光の言葉と傍にいる安堵感でやがて寝息を立てるようになった。隣で光は久が維盛どのをどのように感じられるのか、心配になっていた。そして、その心配はさらに大きな心配へと変わり、光を失意の底に沈めて行く事になってしまうのだった・・