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時夢色迷(下)

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そう言うと、新聞をその場に置いて立ち上がり、陽幸たちの方へと向かう。
「行かないのか?」
「……」
声をかけると、杏香は固まっていた。
「……どうかした?」
「へっ? い……いえ。何もないわ。行きましょ」
そう言って、冬弥の横に立つ。冬弥は、不思議そうな顔をしたが、あまり喋るのが得意なわけでは無いので、そのまま歩き出した。
杏香は、冬弥の置いた新聞を見て、固まっていた。
そのニュースは、冬弥の言っていた嫌なニュースだろう。その新聞紙の一面の端の方。



本日、都内にてひき逃げ事故が起きました。車が、二人の子供を巻き込んで歩道に乗り込み、そのまま今も逃亡中です。 巻き込まれたのは、都内に住む志岐杏香ちゃん(12)と春田陽幸くん(12)です。二人は病院に運ばれましたが、詳細はまだ不明です。目撃証言では、白い軽トラックで、運転手は黒い帽子を被った男性です。お見かけしだい、一一〇まで……




そこには、ひき逃げの話題が載っていた。






「どう? 咲いていた?」
楽しそうに話している二人に近付いて、そう問いかけた。
「もう少しで、咲きそうです!」
「もう咲きそうやねん!」
二つの満開の花が杏香と冬弥を見る。ツツジの開花はまだだが、笑顔の花は満開だ。
「そう。楽しみね」
「ツツジ……か」
陽幸と千秋の笑顔を、夏に咲くひまわりと例えるとすると、杏香と冬弥の笑顔はアヤメの様だ。気品がありながら、存在感がある。
「うん! このツツジは絶対綺麗に咲くで!」
ニコッと笑って、冬弥に笑いかける。
「そう……楽しみにしてる」
千秋の頭を撫でると、千秋はさらに笑顔になった。
「なぁ……冬弥さん。冬弥さんも手伝ってくれへん?」
「俺にできることなら」
そう言うと、にっこりと笑った。
「ありがとう! めっちゃ助かるわ!」
「まつくん! ボクも、助かってますか?」
千秋の服の裾を引っ張って、聞く。
「うん! 陽幸くんめっちゃ助かるよ! 陽幸くん特によう手伝ってくれるし!」
そう言って、二人で笑う。
「あれ……?何か、さっきより花、開いてない?」
笑っていた杏香は、花に近付いた。それにつられて、全員がしゃがんで花壇を覗き込む。確かに、さっきよりも一段とつぼみが膨らんでいる。
「えぇ! 何でなん!」
ビックリして大声を上げた後、千秋は花に向かって「咲けぇ」と念力を送り出した。
「じゃぁ、ボクも!」
陽幸も面白がって、千秋の真似をしだした。それを見ていた杏香も、同じようにしだしたので、冬弥も片手だけ真似をした。
「おい……目、開けてみろ……」
冬弥の、少し上ずった声に目を開けてみると、白いツツジで一杯になった花壇が目の前にあった。
「嘘やん……」
そんな事を言う千秋の声は、嬉しそうだった。その横では、同じように笑顔をこぼす陽幸と、呆気にとられている杏香。
「やった……咲いた! 咲いたで!」
「咲きましたね! 満開です!」
「え……なんで……」
「……綺麗」
十人十色。それぞれが、それぞれの反応を見せた。
「僕ね、小っちゃい頃近くに住んどった、幼馴染の子が都会行くって時に、ガーベラの花の種貰ってんけど、枯らしてしもてん……」
ツツジの香りに包まれながら、千秋が話し出した。
「でも、今度は咲かせられたで! あの子にも、見せたっかたわぁ」
楽しそうに、笑っている千秋の後ろからどんどん光が出てくる。これは、美夏の時と同じ別れの合図
もう、千秋の願い事は叶った。ツツジは、確かに咲いた。
「千秋君!」
「まつくん!」
杏香と陽幸が叫ぶと、ふふっと笑って水道の方に行った。
「どこ行くんだ」
冬弥が千秋に呼びかけると、少ししてから帰ってきた。
「陽幸くんな、その子にめっちゃ似とんねん! で、これ」
どんどん光が千秋の周りに広がっていく。そんな時、千秋が陽幸に渡したのは
――真っ白のガーベラ
たった、一本だけのガーベラ。それを受け取った陽幸の目からは、涙があふれ出した。
「まつくん……うんう、ちーくん!」
ぼろぼろとあふれ出す涙で地面を濡らしながら、叫んだ。千秋は、びっくりしたような、納得したような顔をして、陽幸を抱きしめた。
「ひーくん? やっぱ……ひーくんに会えて……ホンマ良かった」
そう言うと、光は千秋と共に消えていった。千秋に抱きついていた陽幸は、その場にぺたんとしゃがみ込んだ。止まらぬ涙を、必死に抑えようとしながら。
千秋がいた場所にあるのは、赤と黄色とオレンジの無機質なビーズだけ。
「せかっく……せかっく気付いてくれたのに……」
零れ落ちた涙が、ビーズも濡らしていく。杏香は、そんな陽幸に声をかけられずにいた。言葉が、見つからなかった。
「泣いたらいいよ。……悲しければ、もっと泣けばいい。感情に従うんだ」
声をかけられない杏香をよそに、冬弥は陽幸の前に回り込み、背中をさすってやった。
「でも……ボクは……」
「とりあえず、枯れるまで泣けばいい」
また、崩れだした表情を冬弥の肩に押し付けた。冬弥の、不器用な優しさに甘えることにした。
「それで……あの子は、何処に?」
少々悲しそうな顔をしながら、杏香に聞いた。
「……帰ったわ」
「帰ったって……そうか……」
最初、不思議そうな顔をした冬弥だが、何かを察したらしく呟くと陽幸の頭を撫でた。
「別れは、寂しいな」
その言葉は、杏香の中で反復した。その中で、違う言葉が入ってきた。
『悲しい事があったんやったら、次に来るんは嬉しい事やで? 笑顔で待たな!』
『別れの後は、何があるか知ってはる?』
『別れの次は、出会いですやん!』
それらは、全て千秋の言葉。別れで悲しんでいた、私の顔を笑顔に変えてくれた、あの優しい声。
「ねぇ、二人とも……別れの後は、何が来るか知ってる?」
杏香の問いかけに、陽幸は顔をあげた。
「そんなの……悲しみですよ……」
そう言って、またぎゅっと冬弥に抱きつく。
(あの時の私と同じ答え)
心の中で、小さく微笑むと一度深呼吸をした。皆で咲かしたツツジの甘い香りが、体の隅々まで行き渡る。
「違うわ。別れの後は、出会いよ。嬉しいことが来るの」
そこで一度区切ると、花の様な笑顔になる。
「だから、笑顔で待たなきゃいけないのよ」
そう言うと、陽幸は冬弥から離れた。
「そっか……そうですよね! とーやくん! ありがとうございました! ボクも、ちゃんと強くなります!」
涙で、赤くなった目をこすって笑顔を見せた。
「十分泣けた?」
心配そうな顔で、陽幸の顔を覗き込んだ。
「はい!」
「そうか。良かった」
冬弥も、少しばかし嬉しそうに顔をほころばせた。



―――千秋は、帰ってしまった後も大切なものを残して行ってくれた―――



「色を、戻すないですか?」
いつの間にか、天使がそこに居た。現れるたびに、言葉が少しずつまともになっていく。今は、まるで日本語を習い始めたばっかりの外人さんの様だ。
「戻すよ。……ちーくんの、最後のプレゼントですから!」
そう言うと、足元のビーズを拾って杏香の方に持っていく。
「あんちゃん。お願いします」
作品名:時夢色迷(下) 作家名:黒白黒