小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
九宝 阿音清
九宝 阿音清
novelistID. 31190
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

一夜の邂逅

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

 全ての始まりは突然のことだった。俺はいつものように家に帰ると転寝をしたんだ。それで起きてみると俺はいつの間にか病院にいるんだ。驚いたね。起きたとき自分がどこにいるか分からなかったし、全身に激痛が走るし。側に立っていた母親が、よかったね、真…。と手を握っていた。話を聞くと実に俺は五日も眠っていたそうだ。俺はそのまま何気なく聞いた。
「父さんは?」
本当に何気なく聞いただけなのにその場にいた母親も医者も看護師も固まってしまった。笑っちゃうね、父親が会社をクビになって腹いせに放火したんだと。いま留置所に入っているそうだ、と聞いた。だけどそん時の俺にとってはかなりのショックだった。
「ウソだろ、なあ、母さん!」
母の手をとって泣き叫ぶ僕を母親は撫でてくれた。
 だが、俺が失ったのは優しい父親だけではなかった。俺はもっと深刻なものを失ってしまったんだ。
 三週間のリハビリの後、学校に戻った僕をみんなは表面上は温かく迎えてくれた。だけど、俺を見る目は間違いなく変わっていた。俺の顔が完全に変わっていたんだよ。こんな怪物と誰が仲良くしたいと思うだろうか。
 致命傷は好きだった女の子にふられた事だ。今から考えると俺の甘ちゃん加減に嫌気がさすよ。だけど、俺はみんなの本当の気持ちに気づいて学校に行くことはできなくなってしまった。友達なんてそんなもんさ。俺はそう思って、街に出ては覆面をつけてケンカをするようになった。怒りに塗られた俺はどんどん強くなっていったよ。
 俺はそれから半年もしないうちに家を出た。でも行く当てなんかない。もうどうにでもなれ、という感じだった。そんなときに俺は気立てのいい老人に出会ったんだ。

「なんだ、いい人に巡り会ったんじゃないか。」
僕は安心したように息をついた。正直、ここまで暗い話ばかり聞かされて参っていたのだ。「俺もそう思ったよ」
有馬はふうっと息を吐いた。その拍子に口がめくれる。全く感情のこもっていない虚ろな笑いが僕を戦慄させた。あたりは夕焼けに染まり、それが有馬の茶色い顔をくっきりと浮かび上がらせていた。

 俺が餓えに負けて道に倒れていたところに現れたのがその藤田って言う老人だ。近くでバーを営んでいるんだが、俺をそこに住み込みで働かせてくれた。無論給料も中学生と同年齢の俺には有り余るほどくれたよ。店は順調に流行っていたんだ。俺は藤田を信じ、こいつの下でなら自分というものを取り戻せると思ってがんばったよ。
「己の限界を知れ」
これが藤田の口癖だった。
「確かにお前は強い。だが、怒りに塗られたその道を歩み続ける限り、お前にその終わりは見えないだろう。」
 俺は藤田の言うとおりその道から足を洗って地道に働いた。来る日も来る日もバーのお客を相手しながら俺は満ち足りた気分だった。何気ない客の会話を小耳に挟むのが俺は好きだったんだ。無論、客に俺の姿は見えない。俺もそこはわきまえていた。俺の姿が彼らにどういう気持ちを引き起こさせるか、また、それによって藤田がどれほど苦しむかを熟知していた。俺にはこれが俺なんだといえるだけの自分はまだいなかった。だけど、俺はそれでもよかったんだ。しかし、そんな暮らしも永遠に続くものではなかった。
 一昨年の十二月、店に若い男たちが殴りこみに来た。俺はそいつらに見覚えがあった。俺が昔ブチのめした相手だったからな。俺の居場所を嗅ぎつけてきやがったんだ。あいつらは客のいる夜中の盛りに俺を大声で呼んだ。
「いるんだろ?覆面の腰抜けやろうが!」
藤田は穏やかに答えた。
「お客様、当店では騒がず、お静かに願います。」
「だまれ、くそじじい!とっとと有馬を呼んできやがれ!」
俺はそいつの舌足らずな声を聞いて頭にきた。藤田を侮辱するやつは許さねえ、そう思って覆面もつけずに客のいる店内に飛び出したんだ。次の瞬間男たちは真っ青になった。あいつらは俺の顔を見たことはなかったからだ。だが、俺はすぐに自分が致命的な過ちを犯したことに気づいた。ここには他のお客がいるのだ。
「か…顔が!」
一人の客がそう口走るのを見て、もう駄目だと悟ったよ。確かに野郎どもは逃げてったさ。だけど、藤田の店からも客は逃げちまった。閑散とした店で藤田は丸っこい背中をさらに丸めてこう俺に言った。
「お前は一時の怒りに駆られてこの店をつぶした。残念だが、お前はクビだ。だが、これだけは忘れてくれるなよ。お前を愛してくれる人はそんなに多くはない。お前を認めてくれる人もそんなに多くはいない。自分の力でこれからは生きていけ。」
俺は自らを嘲るように笑うしかなかったよ。そういうお前も俺を見捨てた一人だろ?俺の行動が藤田のバーの経営を傾かせた。だから藤田は俺を追いださなければならなくなった。
この世の中はそんなやつばかりだ。都合のいいきれいごとを並べて、自己満足の偽善を行い、自分に不都合になるとすぐに突き放す。俺は藤田の魂胆が読めたから、すぐに出てやったさ。

そっからはなんでもやったよ、生き残るためには。万引きは日常茶飯事。自販機の下の硬貨を漁って河原で段ボール生活。ホームレスのやつらも俺の顔を怖がって近づいてこなかったからな、完全に独力で何とかするしかなかった。悪ふざけみたいに襲撃してくる高校生を撃退してな。


そこまで言うと、有馬はふうっと一息ついて、紅茶をまた一口すすった。その仕草は、姿こそ変われど昔のままの滑らかな仕草で、僕はほっとした。昔の有馬の片鱗がかろうじて見える気がした。
「おい、お前はこっちの世界に落ちてくるなよ。一旦転落すると、どんなにあがいても戻れないからな。」
 醜い顔で笑う有馬の顔には、しかし僕を気遣う、昔と同じ目が、虚ろな闇の向こうから覗いていた。
「有馬…お前、本当は…」
ピンポーン!というインターホンの音で僕の台詞は途切れた。
「ごめんくださーい!」
僕は慌てて応対のためにドアを少し開けた。と、二人の男が立っていた。警察官だ。僕がわずかに身じろぎしたのを見て、やや年配の方の警察官が柔らかい笑みを浮かべた。
「すまないね、急にやってきて驚かせてしまったかな?私は警察庁組織犯罪対策部の神田という。」
「同じく黒田です。」
二人の警察官が警察手帳を見せてくれた。僕は戸惑いながらも、用件を聞いた。神田さんが口を開く。
「ちょっと聞きたいことがあってね。君は小学生のころ、有馬という少年と仲が良かったんだよね。どんな風だったのか教えてくれないかな?」
僕は咄嗟にやばい空気を感じ取った。ここで正直に答えたら、僕は有馬をまずい状況に追い込んでしまう、そんな気がした。
「有馬?有馬ねえ…。確かに昔はよく一緒に遊んでいましたけど、彼も突然転校しちゃって、もうすっかり疎遠になってしまいましたね。彼は温厚で誰からも好かれるやつでしたよ。顔もよくて、運動神経も抜群。みんなの人気者でした。僕は彼と持ちつ持たれつだったんですよ。勉強の苦手な彼に僕は勉強を教える。彼は、友達づきあいの僕に、有馬の友達という武器を与えて友達を増やしてくれた。そんな仲です。…有馬がどうかしたんですか?」
作品名:一夜の邂逅 作家名:九宝 阿音清