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最後の夏

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「へっ。校長の驚く顔が目に浮かぶぜ。」
「そうだね。」
青山も道重もどこか楽しそうだった。

日が沈み、暗くなっても練習は続いた。
時計の針が8時を回ったころようやく練習は終わった。
「いつもより長いなー。練習が。」
岬がつぶやく。
「そうなのか、ヒロシ?」
中尾が尋ねる。
「いつもは6時くらいで終わりだよ。キャプテン気合入ってるな。」
「塔海は10時までだったぞ。」
「・・・。まじで?」
「おぉ。マジだ。」
しゃべりながらも二人は着替えを終えていた。
そして、ふたりはいっしょにかえっていた。
駅に着き、別れを言おうとすると、どうやら二人は偶然にも同じ方向の電車だった。
「なぁ、ヒロシ。お前なんであの高校の野球部何だ。一日見ただけでもお前野球が相当うまいのはわかるぞ。」
「それには、いろいろあるんだよな。あれは俺が中学二年の時だった。俺は二年生からレギュラーで、俺の中

学校は結構強い所だったからさ県大会の決勝までいったんだ。その決勝の相手のピッチャーが青山先輩だっ

た。いままで特に苦労せずに野球ができた俺にはあの人のプレーは衝撃的だった。どんなピッチャーでも一試

合たてば、打てた俺が四打席中全部三振。俺は悔しくて、悔しくて。先輩がホームラン打って、1対0で試合に

は勝ったんだけどな。」
「ふーん。」
「その試合の後あの人のところに行ったんだ。そして聞いた。なんで、あんたはあんな球が投げられるんだ。俺

が打てない球なんて初めてだって。そしたら、あの人なんて言ったと思う?俺は自分のために野球をしたことは

ない。自分のためにしか野球をしないやつには負ける気はしない。っていったんだ。その言葉の意味が俺には

分からなかった。必死に考えたよ。けど、とうとう三年生になっても分からなかった。だから、俺はその言葉の意

味を知るためだけにあの人のいる高校に行ったんだ。もうその時すでに野球部はボロボロだったけど関係ない

。あの人についていければさ。」
「で?言葉の意味はわかったのか?」
「まだ、分からずじまいだよ。なかなか、おしえてくれないしな。」
「そうか。」
「そういう中尾こそなんで名門の塔海から来たんだよ?しかも、ベンチ入りしてたんだろ。」
「それは、言ったじゃないか。橘がいるからだよ。」
「その理由が聞きたいよ。なんでそこまで橘にこだわるんだ。」
「それは、ヒーローだからさ。」
「ヒーロー?」
「あぁ。あいつが前の学校で人を殺したって話は聞いただろ。その話についてなんだ。殺したっていうのは半分

本当で半分嘘なんだ。実は塔海野球部内では伝統の行事がってさ。一年生を上級生がかわいがるっていうも

のなんだ。かわいがるってのはもちろん・・・何でもありだ。」
「そんなことが。」
「あるひ、一年生が部室に行くとそこでは上級生がたばこを吸ってたんだ。一年生にたばこを見られた上級生

はそいつをかわいがってさ。とうとうそいつ死んじゃったんだよ。たばこの罪も全部なすりつけられてさ。警察は

自殺だって言ってたけど、そんな訳がない。俺は見ちゃったんだよ!上級生がそいつの首をつっているところ

を。。」
「だったら、警察に言えばいいじゃないか。」
「おれだって、もちろんそうしたさ。でも、上級生の親のなかには警察の幹部がいてさ。もみ消されちまったんだ

よ。」
「・・・」
岬は言葉を失った。
「そのことを俺は橘を含む一年生全員に話したんだ。そしたら、上級生にチクッたやつがいてさ。今度は俺がか

わいがられて殺されそうになったよ。そこに橘が来てくれたんだ。上級生は俺と橘を人目につかない外階段ま

で連れだして、かわいがっていたんだ。けど、橘はレギュラーだしさ。本気出せばそんな奴ら目じゃないんだよ

。だから、ほとんどかわしてたんだけど。隙をついたやつがいて。そいつが殴ってきたから、思い切り振り払った

んだ、そしたらその時にそいつが階段から落ちたんだ。四階だったとはいえ、突然の事でそいつは頭から落ち

て即死。橘は人殺しの罪を着せられたんだ。そのあと、上級生のかわいがりはなくなった。だから、俺たちにとっ

て橘はヒーローであり、命の恩人であり、仇を取ってくれたやつでもあるんだ。そんなやつといっしょに野球をし

たいと思うのは当然だろ。」
「塔海にそんなことがあったなんて。」
「知らないだろうな。必死にもみ消したらしいから。」
次はー北千住、北千住です。
電車内にアナウンスが響く。
「あ、俺降りなきゃ。」
そういったのは岬だ。
「じゃ、また明日な。」
中尾が言った。
「あぁ。」

その翌日から地獄の猛特訓が始まった。
だんだんと暑くなると、吐く人もでてきたが練習の厳しさは変わらない。
「お前ら、そんなんで夏の大会勝ち抜けると思っているのか。」
青山がゲキを飛ばす。
そんな日が続いていき、とうとう夏の甲子園に通ずる大会は始まった。
この高校はそれまでの評判を覆す破竹の勢いで勝ち進み、とうとう決勝戦まですすんだ。
何の因果か、決勝戦の相手は塔海学園だった。
「中尾、ついに決勝だな。しかも相手は塔海学園。ここに勝って今までの恨み少しでも晴らすぞ。」
ヒロシが中尾に言った。
「サンキュー。ヒロシ。」

試合は始まった。
空には黒い雲が立ち込めていた。

試合は進みお互い互角に戦うが、九回表に均衡を破る一点を塔海に取られてしまった。
「すまない、みんな。」
打たれた青山はベンチでうなだれる。
「そんな、キャプテンのせいじゃありません。」
ヒロシは励ますが、青山の耳には届いていないようだった。
九回の裏、最後の攻撃に一番中尾がヒットで出塁すると、続く二番がバントをしっかり決める。
一死二塁でバッター三番の道重。
「道重先輩、頼みます。」
ヒロシが大声で叫ぶ。

相手のピッチャーに少し疲れの色が見える。
道重は、ツーストライクスリーボールからの七球目。
外角から逃げていくスライダー。
道重の振りだしたバットは止まらない。
キン
あまりいい音とは言えない音が球場に響く。
ボールはファーストの前にぼてぼてっと転がった。
全力で走る道重。
ファーストが拾いカバーに入ったピッチャーに投げた。
ぎりぎりのタイミング。アウトかセーフか!

アウト!!
審判の声が球場内に響いた。
これで、ツーアウト三塁。
ヒット一本で同点だ。

ウグイス嬢の声が聞こえる。
「四番ピッチャー青山君。」
ワァっと球場内がざわつく。
絶好の場面に青山の登場だった。

青山はかなり疲れていたが、それは相手のピッチャーも同じこと。
ピッチャーは肩で大きく呼吸していた。
一球目、真ん中高めのストレート。
青山は振りぬくが空振り。
二球目、内角低めのスライダー。
厳しいコースだったが見送りボール。
三球目、外角へのストレート。
青山はフルスイング。
キンと音がした。
しかし、ボールは塔海学園ベンチへ。
ファールボールだ。
四球目ワンバウンドのフォークボール。
青山は振りだしそうなバットをなんとか抑えて、ボール。
キャッチャーがこぼすが、ボールは三塁側に転がってしまいランナーは進めず。
ツーストライクツーボールからの五球目。
内角へのストレート。
作品名:最後の夏 作家名:イチテン