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てっしゅう
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「深淵」 最上の愛 第一章

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「聞きたいことあるんや。ちょっと待ち」店から離れようとした男に森岡は尋ねた。
「はい、何ですか?」
「女の子のことや。店で最近来なくなった子おらへんか?」
「よう解りまへんわ。中に花梨って子居るよって聞いてみやはったら知ってると思いまっせ」
「花梨やな、おおきに。もう行ってもええで」

入り口で警察手帳を見せて花梨を呼ぶように受付の男に指示した。程なくやってきた。
「花梨です。なにも悪いことしてませんけど、何ですの?」
「ちょっと聞きたいことがあるんや。パクれへんから正直に言いや、ええか?」
「ほんまですか?・・・はい」
「シャブやってるもん居るやろ。知ってるか?」
「ええ、少しは・・・私はしてませんよ」そう言って両手の内側を見せた。
「そうか・・・綺麗な肌してるな」
「本気で言わはりました?」
「ああ、そうやで」
「嬉しいわ〜刑事さん男前やからドキドキして来ましたわ」
「そうか、ほんなら正直に話して欲しいねん。最近シャブやってた奴で来なくなった子居らんか?」
「そういえば人気あったのにこの頃姿見せへん子居ますわ」
「誰や?名前教えて」
「ここの名前はエリーって言うんやけど、本名は夏海って確か聞いた事がありますわ」
「支配人に聞いたわ解るか?」
「本名名乗ってたらの話ですけど」
「おおきに・・・役に立ったわ。支配人呼んできてくれへんか」
「はい、じゃあ・・・あのう、名前教えてくれません?」
「森岡や。訪ねてきたらあかんで、クビになるさかいに」
「そうなったら、私に面倒見させて」
「あかん、好きな女が居るんや。悪いな」
「なんだ・・・がっかり」

支配人から夏海は真木夏海と言って、住所は神戸市だと言うことがわかった。

及川が一軒目の店に入った。
「支配人よんでんか」
「今日はまだ来てませんけど・・・電話しましょうか?」
「一番古い女の子来てたら呼んで」
「はい、それやったら百子呼びますわ」

奥から少しぽっちゃりとした女がやってきた。
「百子です。刑事さんなんですの?悪いことしてませんけど」
「店の手入れと違うねん。聞きたいことあって来たんや。正直に答えてくれたら直ぐ帰るさかいに、頼むわ」
「はい、言うてください」
「シャブ打ってる子居るやろ?」
「そんな事言えませんやんか・・・言ったら逮捕するんやろ?」
「逮捕なんかせえへん。答えてくれへんかったら、全員署に連れてゆくかも知れんけど・・・」
「困るわ・・・仕事でけへんやんか。私の知っている子は一人だけやけど、今日は来てないわ。名前はここでは淳子って言うてるけど、本名は知りません。支配人やったら知ってやはると思いますけど」
「よっしゃ、おおきに。支配人に電話してくれへんか?」
「私がですか?」
「そうや、不都合でもあるんか?」
「解りました」

淳子から聞いている本名は竹下真奈美で、住所は豊中市(とよなかし=大阪府)になっていたがそれは確かめて欲しいと支配人は百子に話した。

5件全部の店を回って二人が得た収穫は3人だった。そのうちその場で事件当日のアリバイが成立した一人を除いて、夏海と真奈美の二人の捜査を開始した。署に帰って、早川に報告した。

「ご苦労様。よくやったわね。その二人のうちどちらかに手がかりがあるといいわね。今日はこれで帰りましょう」
「あのう・・・警視正」
「どうしたの?森岡くん」
「これからの捜査の事もありますし、警視正の着任のお祝いも兼ねて食事しませんか?警部ともう一人呼んで」
「食事ね・・・それもいいね。もう一人って誰?」
「上村です巡査長の」
「あなたの彼女なの?」
「違いますよ。以前から警視正と話がしたいって言われていましたので呼んでやろうかと思ったまでです」
「そう、いいわよ」

森岡はやった!と飛び跳ねたい思いであった。

大阪府警は大手町にあったので、4人は谷町4丁目の地下鉄駅まで歩いた。梅田まで出て、静かなホテルのレストランで会食しようと森岡は手配をした。

普段私服姿の絵美は黒かグレーのスーツを着ていることが多い。今日も黒のパンツスーツだった。上村朋子は制服勤務なので着替えて春らしい可愛い洋服を着ていた。もちろん男性二人は当たり前のようにスーツ姿だ。

「早川さんって素敵ですね・・・憧れます」朋子はそう言った。
「朋子さん・・・だったわよね?」
「はい」
「あなたのように可愛いといいんだけど、女は仕事だけって言うのも寂しいよ」
「私は、可愛くなんかありません。早川さんは美人でかっこいいから素敵な彼が居られるのでしょうね?」

話を聞いていた森岡がじっと絵美を見た。
「彼・・・か。高校大学と一生懸命だったからそんな出会いはなかったね。恋もすることなく来てしまったのよ。あなたは彼が居るの?」
「いえ・・・好きな人は居ます」
この返事にプッと森岡は噴き出した。

「どうしたの?森岡くん」絵美にそう聞かれて、
「別に・・・なんともありません。げっぷが出ただけです」
「汚いのね、何食べたの?」
「すいません。大丈夫ですから」
ちょっと冷や汗ものだった。朋子が自分の事を好いている事が解っていたからである。
「好きな人って署内の誰かなの?」
「はい、そうです」
「ふ〜ん、そうなの。いいわね、思い切ってあなたから話してみなさいよ。今幾つなんだっけ?」
「28です」
「じゃあ、遅くはないよ。結婚前提でまじめに告白すれば適うかもしれないよ」
「そうでしょうか・・・考えます」

電車は東梅田駅に着いた。帰宅する人とこれから遊びに出る人が混じり合って、地下街は混雑していた。
運が悪かったと言うか、不良の若者が二人トイレの横でタバコを吸っていたので及川が近づいて注意をした。

「ここは地下街やで。タバコはダメだろう!」
二人はじっと及川を見て、
「おっさん!怪我するで。あっち行き」
「おっさんはあかんやろう。警察呼ぶで、かまへんか?」
「なめとるんやないで!誰や思うてるねん。顔貸せや!」
そう言うなり、一人が及川のむなぐらをつかんだ。

「ちょっと止めなさい!ここを何処だと思っているの!公衆の面前なのよ」絵美は及川の上着をつかんだ男の手を握ってそう言った。
「姉ちゃん!ええ根性しとるな。東京の言葉しゃべって生意気なやつや」今度は絵美の上着を掴もうとした。

一瞬だった。男は床に投げ倒されて腰の辺りが鈍い音を響かせていた。
「痛てて・・・何さらすんじゃい!兄貴!」もう一人を呼んだ。
兄貴と呼ばれた男は賢かった。絵美の前に来ると頭を下げて、
「勘弁してやってください。もうしませんから」そう言って頭を下げた。
「何謝ってはるんですか?一樹会が泣きまっせ」
「うるさい!名前出すな。こちらがどなたか解らへんやろう」

森岡は兄貴と呼ばれた男に話しかけた。
「兄ちゃん、一樹会のもんか?」
「そうやったらどないすんねん」
「ちょっと聞きたいことあるさかいに、教えてくれたら今日のことは無しにしたるわ」
「話すことなんかあらへんで。あんたら誰や?」
「小野田さんの知り合いや」
「えっ?組長の・・・うそやろ?」
「電話してみ。森岡言うやつ知ってるか?って」
「いや・・・電話なんか出来へん。すんません何聞きたいですか?」