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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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図書館にて - in the library -

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 「スポーツ推薦で行ったから忙しいんだろうね。最近会ってる?」
 「…………入学式の次の週末に会ったきりかな。相当忙しいみたいでさ」
 倉田都。彼女が所属していたソフトボール部の元主将で、自分が高1から付き合っている相手。2年の時にチームを全国大会優勝に導いた実力が認められて、体育会系の強い女子大に推薦入学した。
 「そっか、寂しいね。メールとか電話はできてる?」
 あんまり、と間を置いて答えながら、なんとも言えない気分が湧いてくるのを感じた。あえて例えるなら先ほどの後ろめたさの、もっと強い程度の感情。
 彼女を好きだと気づいたのは3ヶ月ほど前で、それよりずっと以前から、彼女は同じ学年の野球部の男子と付き合っている。今でもそのはずだから、自分の想いに気づかせれば間違いなく彼女を困らせる。
 ――そのくせ、否、だからこそ彼女を手に入れられないことがひどく不満で、苛立っている。その苛立ちを倉田都との付き合いをわざと続けることで解消しようとしながら、都のキス以上の求めには応じていない。特に卒業直前からは会うたびにその要求が言葉でも態度でも示されて、だんだんあからさまになりつつある。入学直後に会った時は、都の振りまく香水の強い匂いで頭痛がしたので、早々に帰ってきた。
 そんなふうだから、近頃は自分からメールや電話をすることはまずない。デートの誘いも、あれこれ理由をこじつけて断っている。だがもう3度続いているから、そろそろ譲歩しないと怪しまれるだろう。入学してすぐにフットサルのサークルに入ったのも、体育会系の部活をやる気はなかったもののサッカーに近いことは続けたいと思った以外に、誘いを断るのにちょうどいい程度には活動の忙しい所を、という考えも多少は含まれていた。
 「ふうん、やっぱり忙しいんだね。あ、名木沢くんはどこ入ったの。やっぱりサッカー? ……え、違うんだ。フットサルってどんなスポーツだっけ」
 本を探しながら、忙しく棚とこちらを往復する彼女の目はキラキラしている。どんな話でもつまらなさそうな表情は全く見せず、彼女自身のことを話す時と同じぐらいに一生懸命、興味を持った様子で聞く。今年の1月、偶然彼女と二人で映画を観に行って過ごした時もそうだった。
 生き生きした表情をたたえる顔、資料の本に添えられた白い指。平均的な身長らしい彼女は、凹凸はあまり目立たないけどバランスのいい体型をしていると思う。もちろん見たことなどないけれどーー
 「————っ」
 思わず小さくうめいて額を押さえる。今の己の想像に、自分で動揺した。何を考えているんだ俺は。
 「……名木沢くん大丈夫?」
 大丈夫じゃない、と口走りそうになって今度は口を押さえた。心配と訝しさを7対3ぐらいで表して見上げる彼女に、苦労してうなずいてみせる。
 「ほんとに? なんか気分悪そうだよ、外出た方がいいんじゃない。頼まれた本一緒に探しとくから、タイトル」
 「あ、いい。今日でなくていいから、じゃ」
 えっでも、と彼女が言いかけたが先を聞かずにその場を離れた。おそらく戸惑った顔をしているだろうから振り返らずに、できる限り早足で。
 これ以上一緒にいたらおかしくなりそうだった——いや、すでにおかしいとしか言いようがない。あんな場所で、何でもない場面で彼女の裸を想像するなんて。
 都と付き合っていても、すでに気持ちは都に対して動かなくなっている。キスまでは我慢できてもそれ以上触れたいとは思わない。
 だがさっき、彼女に対しては、瞬間的にだがきわめて衝動的に触れたいと思った。もしお互いにフリーの状態だったら、人目がないのをいいことに十中八九抱きしめていただろう。実際。あと数分でも一緒にいたら、気にせずそうしてしまっていたかもしれない。だから逃げた。
 やばいな、と心の底から思う。
 万一、彼女に会うたびこんなことを考えるようではまずい。そこまで常識を忘れてはいないと思いたいが、一度感じた衝動を完全に忘れるのは難しい気がした。
 ……しばらくは彼女に会わない方がよさそうだ。
 学部もサークルも違うことを感謝する時が来るとは、思いもよらなかった。図書館の外へと向かいながら、ため息とともにさっきの邪な感情も吐き出してしまいたい、そう思った。