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「お話(仮)」

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「すごく小さな気配だけれど、もちろん貴方じゃないし、貴方がその手に持っているモノでもない」
 シヴァが両手に抱えて持ち込んだ“モノ”から目線を上げ、そのままロビー全体を見渡すヨウ。
「僕が知らせたかったのはそれだけ。ちょうどパーティーの準備も整ったみたいだし、会場へ行った方がいいよ。お客様なんだから」
「でも」
「心配しないで、クリストファー。中にあやしい人はいないから」
「……」
 ヨウの言う通り、今は会場内へ入る方が懸命かもしれない。
「そうね、せっかくのご招待だもの。お言葉に甘えて、アタシ達は行きましょうか」
 場の空気からそう判断したクリスが、シヴァ達をエスコートして会場へと歩き出す。
 そして、そんな三人の背中が人垣の向こうへ消えてしばらく経った頃、俯き加減にヨウは言った。
「フウマさん遅いね」
「気にしないでいいわ。彼は別件で動いてるから」
「そう。それじゃ、ここからが“牙”としての話だけれど……」
 静かに、その視線がパーティー会場の扉へ向いた。
「“ケモノ”は誰を狙っているのか、って事」

 そんな彼らの様子を、上階にある柱の奥からうかがう人影が一つ。
 分厚い布で顔を覆った長身の男。
 その手には、小さな木筒のような物が握られていた。



「クリスお兄ちゃん!」
 会場へ入るなり、クリスの姿を見つけたオリバーがその背中に飛び付く。
 そして――。
「坊ちゃん! また控え室を抜け出して……早く戻らないと幕が開いちゃいますよぉ!」
 慣れない正装で駆け付けたコウミが、素早く少年の首根っこを捕獲する。
「相変わらずね、二人共」
「あぁっ! ク、クリスさんじゃないですかぁぁっ!」
 クリスの姿に気付いて赤面する、その反応も相変わらずだった。
「さ、さぁさぁ、戻りますよ!」
 そのままコウミはオリバーの手を引き、そそくさと三人のそばから離れていった。
 素早くパーティー会場を抜け、関係者専用の通路へ入る。
 すると、そんな彼女の顔を上目遣いに眺めながら、オリバーがおもむろに尋ねた。
「あのさー。コウミ姉ちゃんって、クリスお兄ちゃんのことが好きなんでしょ?」
「なっ!!」
「バレバレだよ。ねぇ、何でコクハクしないの?」
 近頃クラスで流行り出した単語を並べてオリバーがからかう。
「と、と、とんでもないですよっ! クリスさんにはシヴァさんがいるんです! わたしなんか……」
「好きな子ができたら思いきりぶつかってけって、母様も言ってたよ。自分も昔そうしたって」
「思いきり、ぶつかって……?」
 ――と。
 狭い通路を曲がった瞬間、視界に人影が現れ、ぶつかった衝撃でコウミは尻もちをついた。
「す、すみません! わたしったら、考え事してて」
「……気を付けろ」
 相手の男は乱れた刀の並びを整えながら一言そう返し、無愛想にその場から去っていった。
 ただ、鞘の擦れ合う微かな音だけを残して。
「すごいや。あんなにいっぱい武器を持ってるなんて。強いのかな?」
「きっと警備の方なんでしょうね」
 振り返って答えた後、コウミは立ち上がり、男に背を向けて再び廊下を歩き出した。

 上層デッキの甲板に腰を下ろし、フウマは夜空を仰いだ。
 昨晩のルビアの言葉が、その脳裏をかすめては心をかき乱す。
(あなたの妹の件、情報が入ったわ)
 ――何だって?
(生きてるわよ。それも、すぐ近くでね。ただ……)
 ――ただ? 何だ?
(あなたのこと……いいえ、昔の記憶がないそうよ。残酷ね。それでもあなたは行くかしら?)
 風が冷たく刀の鍔を揺らす。フウマは黙って目を瞑った。
 静かな夜だった。



 ボードの上に並んだチェスの駒。
「役者もだいぶそろってきたし…………」
 白の“Queen(女王)”を守るように在る“King(王)”、“Knight(騎士)”、“Bishop(魔術師)”そして幾つかの“Pawn(兵士)”。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹