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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑アナザー

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 紫苑で戦ったときもそうだった。少年は必ずヒットする攻撃をさせないのだ。そして、全ての攻撃は、いつしか少年が望む場所に繰り出されていた。こちらの意思で放ったはずの攻撃が、相手の意思になっているのだ。
 傀儡師が相手に操られている。これほど愁斗にとって屈辱的なことはなかった。
 妖糸を放とうとした愁斗の手が不意に止まり、少年は悪戯に嗤った。
「やっぱり来たね――君の友達」
 二人しかいなかったこの場に三人目の気配が現れた。
「なんだかおまえの様子が気になって、戻って来ちまったよ」
 この場に現れたのは、愁斗の態度が気がかりで戻ってきた西岡大吾だった。
 背中にかけられた声に反応して、愁斗が振り向こうとしたときだった。
「秋葉危ねぇ!!」
「――!?」
 愁斗が背を向けた一瞬の隙をついての突き[エペ]が繰り出された。
 レイピアの切っ先は愁斗の肩の付け根を貫きすぐ抜かれ、少年は素早く後退り間合いを取る。
 すでに自分に背を向けている愁斗の肩から流れる血を見て、西岡は上ずった声をあげた。
「どういうことだよ?」
 ここに来て間もない西岡には、愁斗と少年、そして自分の置かれてしまった状況が理解できなかった。
 殴り合いの?喧嘩?ならよくある話だが、これは?殺し合い?だった。
 レイピアを構えなおした少年が地面を駆けた。
 放たれる細い煌きを避けながら疾走する少年を見ながら、西岡は呆然と立ち尽くしてしまっていた。その少年が徐々に自分に近づいてきているのに気づきながら、西岡はなにをしていいのかわからなかった。
「西岡逃げろ!」
 友人の叫びを浴びせられ、やっと西岡は走った。必死に逃げる西岡の足は早い。しかし、徐々に縮まる二人の距離。比べるまでもなく、少年の足の速さは西岡を遥かに凌いでいたのだ。
「うあっ!」
 西岡は急激な痛みを背中に感じ、地面に膝をついてしまった。背中は学生服ごと切り裂かれている。少年の放った斬り[サーブル]が決まったのだ。
「確立は僕にいいようになって来たみたいだ」
 蹲る西岡の首元に細い刃が突きつけられた。
「さあ、蹲ってないで立て! 僕の盾になってもらうよ」
 首元に刃を突きつけられている西岡に拒否権はなかった。相手の言うがままに立つしかない。
 ゆっくりと立ち上がる西岡の首元に刃は突きつけられたままだった。少しでも動けば、殺される。少年の姿をしているが、中身は悪魔だ。西岡もそれをひしひしと肌で感じ取っていた。
 愁斗と少年は対峙した。その間に挟まれる西岡は、人懐っこい笑顔を浮かべていた。
「すまねぇな秋葉。おまえが俺のことさっさと帰したわけ、これだったんだな。ホントすまねぇ、足引っ張ってさ」
 西岡の影で少年は顔を醜悪に染めていた。
「どうする秋葉くん? 僕はいつでもこの人質を殺せるよ」
 愁斗はなにも答えなかった。ただ無言で立ち尽くし、西岡を見つめた。二人の視線が合う。そして、西岡が笑顔を崩したのだ。
「なあ愁斗助けてくれよ」
 西岡の顔に悲愴が浮かび、彼は大粒の涙を流していた。
「俺死にたくないんだよ、助けてくれよ。なんでこんなことに……おまえと出会わなければ……」
 くしゃくしゃの顔をして泣きじゃくる西岡を見て、愁斗はひどく哀しい表情をした。
 ――そして。
 紅い飛沫が地面を彩った。
「ま、まさか……その確立は……見えなかった……」
 両脚を消失させた少年は、自らが流す血の海に体を埋めた。そして、その横では少年と同じ目に遭わされた西岡が腹ばいになって呻いていた。
「……なんでだよ……俺ま」
 西岡の首が落とされた――愁斗の妖糸によって。表情のない愁斗は非情なまでに、自ら友人に止めをしたのだ。
「君は鬼だ悪魔だ、あははははっ!」
 蒼白くなっていく少年は血の海で笑っていた。
「あはは、君と出会わなければよかった」
「…………」
 愁斗はなにも言わず、冷たい視線を少年に送り続けていた。
「僕は高い確率のものしか見えないんだ。でもね、例外がある。自分の死の確立さ。僕は常に自分の死……の確立に怯えて……いたんだ……」
 少年の声は徐々にか細く弱々しくなっていく。それでも少年は話し続けた。死の恐怖から逃げるように。
「道端を……歩いてい……て死ぬことなんて……滅多にない……けどね……死ぬ確立はゼロじゃ……ない……君……と出会ったとき……僕が……君に殺される……確立が……でていた…………とても少ない確立さ……その場で逃げて……いれば……僕は……死ななかった……かもしれない……けど……僕は……君を殺さずには……いられなかった」
 少年は固唾を呑み込んで、囁くように投げかけた。
「……なぜだか……わかるかい?」
 問いかけを残して、少年は事切れた。
 世界が朱色に染まる中、愁斗は歩きはじめた。
 二人の亡骸を残して……。

 CASE02(完)