小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

傀儡師紫苑アナザー

INDEX|8ページ/40ページ|

次のページ前のページ
 

 二匹の猿は互いの服に手をかけた。なにをするのかと目を見張ると、猿たちは互いの服を脱がしはじめたではないか!? なんとも目を覆いたくなる、醜いストリップショーのはじまりだ。
「わぁ〜っ、やめてくれ!」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
 猿たちは顔面蒼白になりながら、一匹は叫び、一匹は念仏を唱え始めた。幽霊の仕業と思ったのかもしれない。普通のものが見たら、そう思うのが当然なのかもしれない。
 靴を丁寧の脱ぎ、上着を脱がされ、気づいたときには二匹とも、あと一枚の大事な部分を隠す布を残すのみだった。最後の一枚を脱がされまいと、呪縛を破り必死に抵抗する。が、それもまた猿回しの芸。愁斗によって猿を操る妖糸が緩められては縛られる。
 いつの間にか辺りには人だかりができていた。
 買い物途中の主婦から、学校帰りの女子高生。猿のストリップショーでも、人は寄ってくるものだ。
 いつの間にか、ひとりの観客になって笑い転げている西岡の背中に声がかかる。
「行こう」
 声をかけたのは愁斗だった。
「誰かが警官を呼んだらしい」
 愁斗は遥か前方を指差して言った。
 自転車に乗った警察官がこちらに向かって来る。
 西岡とともに足早にこの場を後にする愁斗は、最後の仕上げと猿のパンツを下ろしてやった。
 歓声とも悲鳴ともつかぬ声を背中で感じながら、愁斗はこの場をあとにしたのだった。

 夕焼けを浴びた川が朱く輝いている。
 愁斗の顔はにこやかであった。真横でそれを見ている西岡の自然と笑みがこぼれる。
「あれ秋葉がやったんだろ?」
「ん?」
「とぼけんなよ」
「勝手に脱ぎはじめたんだよ、きっと露出狂の気があるんだよ」
 あの場所で妖糸を使えば、誰であろうと愁斗に疑いの目がいくだろう。その危険があるにも関わらずに愁斗は妖糸を使ってしまった。些細な気まぐれを動機に。
 ?教育?を施されようとも、やはり愁斗の本質は?人間?であったのだ。
 ふいに愁斗の足が止まった。
「今日は楽しかったよ、ありがとう。また明日」
 愁斗は西岡に軽く手を振って別れの挨拶をした。挨拶をされた当の本人である西岡は、きょとんと目を丸くして辺りを見回している。
 右手にある土手を下った先にあるのは川であり、左手には野原や農地が広がっていた。道はまだまだ先まで続いている。ここは別れ道ではないのだ。それなのに愁斗は別れを告げた。
 不思議な顔をしながらも西岡は愁斗に手を振った。
「明日もどっか遊びに行こうぜ、俺のダチも紹介すんから。んじゃ、また明日な」
「またね」
 走り去る西岡を見ながら愁斗はゆっくりと指先を動かしはじめた。
 愁斗の視線が注がれる。
 川辺に腰を下ろし、近くの小石を拾っては川に投げ込む少年の影。その影はふぅっと立ち上がる。
「この道を通る確立が一番高かったから、ここで待ち伏せさせてもらったよ」
 背格好は愁斗と同じで、歳も同じくらいだろう。どこか大人びた雰囲気を纏うところも愁斗に似ている。この気は魔導を帯びたモノが放つ気だ。
 傾斜になっている土手を滑り降りた愁斗は少年の前に立ち、剃刀のような瞳で相手を見据えた。
「僕になんのようだい?」
「僕が追ってる相手と同じ技を使うみたいなんでね。もしかしたらあいつの知り合いかなって」
「技?」
「そうそう、操る技。とぼけてもダメだよ、君が他校の生徒で遊んでるのちゃんと見ちゃったんだから」
 これは完全に愁斗自身の失態であった。やはり人のいるところで妖糸を使うべきではなかったのだ。しかも、嫌な相手に見つかってしまった。そう、愁斗はこの少年を知っていた。
 数時間前、愁斗――いや、紫苑はこの少年に敗北した。
 不幸中の幸いか、少年はまだ愁斗が紫苑の操り主であることを知らないらしい。
 表情を完全に消している愁斗が訊ねる。
「仮に僕が君の探している人物の知り合いだとしたら、僕にどうしろというんだい?」
「住所氏名年齢、連絡先もかな。とにかく奴のことを知りたいんだよ」
「なにも知らない。君に提供できる情報はなにもない」
「襤褸布着てたし、顔は仮面で隠れてたから、まったくどこの誰だかわからないんだよね。えっとね、そうそう、背は君より高くて、声はもっと透き通った中性的な声だったような気がする」
「知らない」
 と言い張る愁斗に少年は一度目を合わせて、視線を下げた。そして、もう一度、愁斗を見た瞳は狂気を浮かべていた。
「君ってヤナ奴だね。僕、君みたいな奴嫌いだよ。ホントむかつくね。さっさと、くたばれって感じ」
 少年は肩から紐で提げていた筒から、素早く武器を取り出した。
 長く細い刃が夕日を浴びて赤く輝く。それはレイピアと呼ばれる片手持ちの剣であった。フェンシングと呼ばれる剣術に用いられる剣だ。
 先に仕掛けたのは少年であった。
 疾風のごとく突きが紫苑を捕らえる。剣先を紙一重で交わしたはずだった。だが、愁斗の頬に紅い筋が走った。
 すぐに次の突きが繰り出される。
 しゅっと風を切り、愁斗の上着の袖が少し切り裂かれた。
 後ろに飛び跳ねる愁斗の手から煌きが放たれる。
 だが、妖糸は見事に切断され、大地にはらりと散った。
「――やはり攻撃が読まれているか」
「僕は確立の糸が見えるのさ!」
 意気揚々と声をあげた少年はにやりと下卑た笑いを浮かべた。
 確立の糸が見えるとは、どのようなことなのだろうか?
 全ての事象を事前に知ることのできる予知能力のようなものだろうか?
 ならば、誰もこの少年に勝ち目がないではないか。
「僕が見える糸は全てのものから伸びているんだ。少し目を凝らしてやれば、糸はおのずと見えてくる。でも糸っていうのは例えさ、感じるだけで糸のようなものが見えてるわけじゃないよ」
「確立と言ったな? なら、普段と違う行動をすれば読まれないということか?」
「普段と違う行動をするのも確立に含まれてるよ。君がそれをしようとすれば、その糸は太くなる。つまり、君の行動は全てお見通しさ!」
 それは自身に満ち溢れた勝利宣言であった。
 やはり、また逃げなくてはならないのか。いや、相手が逃げ切れぬほどの、高確率でヒットする攻撃を繰り出せばいい。と、愁斗は紫苑でこの少年と戦ったときに考えた。それが浅はかな考えであったと知ったから、逃げるしかなかったのだ。
 ――だが、やるしかない。
 同時に放たれた二本の妖糸が地面の上を翔ける。
 だが、やはり少年に軽く避けられた。
 三本目が放たれる前に少年は逃げていた。それも遥か後方へ。
 愁斗は三本目の糸を放つことはなかった。だから、次の攻撃もなくなってしまった。
 最初に放った二本の糸から力が抜ける。三本目を放とうとしたとき、まだ最初の二本は愁斗と繋がっていた。攻撃を外したと思わせ、最初の二本を罠として使う気だったのだ。しかし、三本目を放つことができなかったために、二本の糸は罠としての効果を失った。
 少年は遠く離れた場所で笑っていた。
「確立が見えるってことは、相手のしようとしていることの妨害もできるんだ。僕にだって避けられない確立になることもあるさ。でもね、避けれない状況に追い込まれる前に先手は打てる」