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クレイジィ ライフ

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episode3 私メリー。今、



 始まりは、携帯に表示された非通知相手からの電話。
 丁度ギャルソンのバイトを終えて、タイを外しているところで電話がかかってきた。透は思考を巡らせるように目を細める。タイミングが良すぎる。まるでバイトが終わる時間を見計らったようなタイミングと思うのは気のせいだろうか。それよりなにより、携帯に表示された非通知の文字を見た瞬間、透は何故か確信めいた予感を覚えてしまった。
バイトの控室にはひとつの窓があり、外は雨が降り続いている。雨の雫が流れる窓を見ながら透は思う。
「雨、か」
 バイブ設定にしてある携帯は、早く電話にとらない透を責めるように振動し続けている。とらないという選択しもあるなぁと、袖口の釦をとりながら考える。透は緩く首を振ってから電話を手に取る。長々とコールを鳴らし続ける相手に、居留守が通じるとは思えなかった。
『神無崎透』
 第一声は抑揚のない声で透の名を呼んだ。
 声を聴いた時、電話相手が予想的中なのを確信したのだが。
「いきずりの通り魔に、自分の名を教えた覚えはないな」
『だーれが通り魔だ、バーカ。こっちはれっきとした殺しを本業にした殺し屋だよ』
 馬鹿はどっちだ。眉間にしわを寄せた透は電話を切りたくなった。
 出会いからして最悪だと思っていたが、まさか本物の殺し屋だったとは。
 電話を肩に挟み、ワイシャツの袖から腕を抜く。
『しかしおまえ、本当にポンピーだったんだな。しかも学生かぁ』
受話器の向こう、雑踏のざわめきが聞こえてくる。街中で歩いているのだろうか。透は半そでのシャツに頭を突っ込む。
「それは暗に老けて見えるっていいたいのか」
『違うけど・・・。確かに若く見えたけど、年下かぁ・・・』
透には全く理解できない独り言を殺し屋はぶつぶつと呟いていた。
押し忘れていたタイムカードを押し、透は考えをまとめる。
つまり、前に偶然接触して正当防衛でボコッた殺し屋は名乗ってもいない名前を知り、携帯番号まで入手しているところからみて、透自身のことを調べ上げたのだろう。ここまで推測して透は遠い目になる。
それってすごく厄介じゃないか。
「それで、何の用だ」
『おまえ、多分俺がお前のこと調べ上げて連絡しているの、理解していると思うけど。本当に緊張感がないよな』
透はロッカーの中を整理し、鞄に荷物をまとめたあとで靴を履きかえた。
「これでも内心面倒なことになりそうだなと思っている。でもアンタの様子からして別に報復って感じじゃない。それは不可解だと思っている。報復以外にアンタが俺になんの用があるかは、疑問ではある」
『その疑問をオレに明かす根性にオレはびっくりしちゃうけどね。あとアンタじゃない。オレにはカイナっていう名前がある。偽名だけど』
出口の扉に手をかけようとして、透は立ち止まる。近くの壁に背を預けた。
「一体何が目的なんだ。教えて貰えるなら、教えてくれ」
『じゃあ教えてアゲル』
 心底面白がっているような声がいう。
『でも電話でいうのはなんだから。オレ今、おまえのアパートの近くにいるんだ』
 アパートの近くにいると思うと、メリーさんと同じくらい気味が悪いものなんだなと思った。メリーさんに会ったことはないが。


作品名:クレイジィ ライフ 作家名:ヨル