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クレイジィ ライフ

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途中で何度か捨てて帰ろうかと思いながら、なんとか己の安アパートの一室に辿り着いた。
玄関に酔っ払いを捨て置く。痛々しい強打音が聞こえてきたが透は気にしなかったし、相手も目を覚まさなかった。抱えていた身体は徐々に熱を上げていた。風邪でもひき始めたかなと判断した透は相手の服を脱がす作業にかかった。同性なので特に深く考えない。相手が美人だろうか外国の血が混じっていようと関係なかった。濡れて重くなった服を引きちぎるように脱がせていく。
作業を進めていくにつれて、透は徐々に嫌な予感を覚えた。
身体につけられた青痣や鬱吻の跡。必要に迫られて下着も下ろしたのが決定打となった。
今日俺は何度跪けばいいんだと思いながら、透は床に蹲る。
どうやら連れ帰った喧嘩相手はゲイらしい、バイの可能性もあるが。
その事実自体は特に気にならないが、こちらが身体を見たことが知られれば、この短気な男が黙っているだろうか。
「ああ、面倒臭い」
透は面倒臭いことが大嫌いだった。
嫌いだが、喧嘩の相手を連れ帰って看病するぐらいに重度なお節介という持病を抱えていたりする。
適当に身体を拭いている間に、相手は吐瀉した。もっと吐いてアルコール度数が下がればいいのに透は見ていた。シーツを変えて、新しく下ろしたシーツに相手を転がして布団をかける。やれやれと息を吐いていると、傍に見慣れない煙草が落ちていた。恐らく相手のものだと推測できたが、透は封のあいていない煙草をあける。一本気持ちを落ち着かせるように吸ったあとで、透は自分の服を変え始めた。明日床掃除しないとなぁとぼんやり考えながら冷蔵庫からペットボトルを一本取り出す。
徐々に赤くなっていく顔色を見て、透はそっと額に手を乗せる。触れた熱にどこか安堵している自分に気が付いていた。
息苦しいのだろう、呼吸が短い間隔で繰り返されている。ペットボトルの蓋を開けて水を飲みながら、どう水を飲ませようかと見つめた唇が、僅かに動いた。
「アンリ…」
掠れた声が切なげに名を呼んだ。
透は僅かに目を細める。吐息のような声で苦しそうに何度も何度も繰り返す。声は段々と湿り気を帯び、切実さを増していく。はぐれて一人になった迷子のような哀れな声が静かな部屋にこだましていく。
「おい」
耐え切れなくなった透は声をかける。しかし相手は気が付かず、眦から涙を零した。痛み始めたこめかみを揉んだあとで、透は手を伸ばした。
濡れた頬を手の甲で拭う。
「そんなに泣くこたあないだろう」
閉じられていた瞼がうっすらと開かれた。正気が宿っているとは思えない、濡れた若草色の瞳が透を見つめる。涙に濡れた瞳が痛々しいと感じるのは何故だろう。そう自問しながら自失しながらもこちらを見つめる相手にな、と念を押しながら煌めく髪をゆっくりと撫でてやる。
翳っていた瞳がとろりと蕩け、口元に淡く儚げな微笑が浮かんだ。
「………」
目を見開けて、撫でていた手を止める。
一拍あとに我に戻った透は自身の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。
一瞬、身体の内側を撫でられるようなもどかしい衝撃を受けた。ああ、鳥肌が立っていると自分の腕を見下ろしていると、すいっと顎を引かれてそのまま向きかえる。至近距離に目を閉じた整った顔があり、それはすぐ焦点を失うほど近づく。息をする前に口唇は重なった。

 やっぱりゲイだった!

半端に混乱しながら透は心の中で叫んだ。
乾いた唇が何度も触れるだけの交わりを繰り返す。離れようとする透の後頭部を、意外に強い力が拘束した。濡れた舌がべろりと透の唇を舐めあげる。透が身じろいだ隙に軟体のような舌がするりと侵入してきた。くちゅくちゅという水音が、舌が交わるたびに淫らに生まれる。
なすがままになっている透は途方にくれながらどうするべきかを考えていた。舌が掠めて生まれる悦楽に思考が飛びそうになる。確かに気持ちいいけどなんか違うと思いながら、相手の頭を掴んで無理やり引き離す。最後まで絡められていた舌から唾液の糸がひいた。切れた唾液を唇の上で舐めて、媚びるような笑みで妖艶に誘う。
息を整えながら、透は唇を拭う。
慣れていると感じた。求める相手と勘違いしているのか、それとも求める相手じゃないとわかりながらしているのか。真意が見えないまま、再び伸ばされた手がこちらの唇を撫でる。
透はなお微笑み続ける歪んだ表情を見つめる。
どれほど綺麗に笑おうとも、濡れた瞳の奥底には、消えぬ哀しみが滲んでいるようだった。
再びキスしようとする頭を拘束し、額を合わせる。目玉焼きが作れそうな高熱だった。相手が困惑する雰囲気を感じながら乱れた髪を撫でてやる。触ってみるとなかなか理想の髪質をしているのが少し悔しかった。透は髪フェチだった。こちらを窺う額にそっと口づける。相手が何故か息を飲むのを感じた。
「もう寝な。熱、酷いから」
先までの滲んだ色はなりを潜め、戸惑った顔で透を見つめている。透は迷っている身体を横にさせてから布団を被せてしまう。無理やり瞼を下ろさせて、そこにもキスをする。相手の抵抗は段々と弱まり、僅かに布団を引き上げる。愛撫が好きなのかなと考えながらぽんぽんと頭を叩く。部屋の照明を落として、透も床に座る。何度かベッドの上で寝返りを打ったあと、寝やすい位置が見つかったのか、そのまま静かになった。
座ったまま目が冴えてしまった透は薄汚れた自室の天井を見るとはなしに見る。無意識に手が唇を撫でる。

「こうゆうのって浮気になるのかなぁ、アヤさん」
案外やきもちな恋人を思い出しながら、小声で囁く。今は乾いた唇を何度も撫でたあとで、傍のベッドに頭だけを凭れかけた。重い瞼を下ろしながら謝罪を呟いた。
「泣いているんだ、困っているみたいなんだ。だから、ちょっとだけ許してくれな」
脳裏に浮かんだのは恨めしそうにこちらを睨む姿で、それが可愛らしくて透はひっそりと笑った。



朝、細く開いたカーテンの間から差し込む朝日で透は目を覚ました。座ったまま眠っていたので、変に凝り固まった筋肉が痛み、透は首を回す。
ふと隣を見ると、ベッドは無人になっていた。
整えられた布団をめくり、手で触れてもそこには熱らしきものは見つけられなかった。
「夢かな」
それもいいな。
あまり深く考えず、立ち上がった透は伸びをした。


「まず床掃除だな」
床は盛大に水で濡れていた。

作品名:クレイジィ ライフ 作家名:ヨル