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表と裏の狭間には 十一話―とある兄と妹―

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政界に限らず警察にも太いパイプを持った、そんな組織だった。
だから。
地震の時の事故ということにされた。
僕ら兄妹が生き残ったのは、単に運がよかっただけだ。
一族郎党全滅し。
財産の類もほとんど奪われ。
煌は、僕たちが生きるための金を稼ぐために、研究所に引き取られた。
僕たちの、ために。
そして。
後には。
まだ幼かった僕と、耀が残った。
その辺りで、復興作業が始まり。
俺と耀は、別の施設に引き取られた。
しばらくして、学校に通うことになったが。
『被災者』『暴力団に絡まれた』『親なし』『没落貴族』『チビ』『足が遅い』等、結構それっぽい理由からくだらない理由まで百花繚乱、様々な理由で孤立した。
耀とは、通う学校も別だったため。
僕は、そして多分耀も、完全に孤立した。
孤児院でも似たような状況だった。
先生や孤児院の人などの大人も、似たような人間ばかりだった。
ものを投げられる、隠される、悪口暴力の類は日常茶飯事、時には食事をダメにされたり、授業の偽情報を教えられたり、教師に嘘の情報を流されたりと、そんなこともあった。
小学校四年の時。
煌から、手紙が来た。
それには、通帳と、いくつかの指示があった。
この金を使え。
この場所へ行って、耀と合流しろ。
東京へ向かい、この住所に住め。
この学校に転校の手続きを済ませてある。そこに通え。
こんな感じに。
あいつの指示通りに指定された場所に向かい、そして。
僕は、再会した。
何年離れてても、すぐに分かる。
不思議なほど俺とそっくりな顔。
ショートカットの髪。
どこかおどおどとした雰囲気。
何より、直感がそう告げていた。
あれは、耀だ。
孤独だった僕たちは、その時、孤独ではなくなった。
そのまま煌の指示に従い、東京の住所に向かった。
そのまま、指示通りに生活した。
煌が送ってきた通帳に入っていた金額は、二つ合わせれば一生を不自由なく暮らせるほどの額になった。
まあ、だからといって湯水のように使っては後々困るだろう。
何より。
そこでは、酷い虐めも受けることなく。
耀と二人、寄り添うように生きていた。
そして、中学に進学する辺りで。
僕らは、出会った。
あの、素晴らしき仲間たちに。
耀。
僕たちは、約束したはずだ。
もう、二度とお互いを孤独に追いやらないと。
耀。
僕は、必ずお前を助けてやる。
だから。
死ぬなよ。
耀。
約束は、守ってくれ。

僕は今、大蔵組本部の部屋の前にいる。
ノックをし、『ジョン・スミス』だと名乗る。
扉が開き、スーツの男が出てくる。
その男は周囲を見渡し、僕以外に誰もいないことを確認すると、部屋の中に招き入れる。
部屋の中は。
豪奢な革張りのソファ。
よく磨かれて艶を放つ、精密な彫刻が施された木のテーブル。
白い無骨な衝立。
窓には、反転した『大蔵建設株式会社』の文字。
スーツの男が思い思いの位置で立ったり座ったり、煙草をふかしたり。
そんな『いかにも』な部屋があった。
部屋の隅には、縛られて目を塞がれている耀。
………まだだ。耐えるんだ、僕。
ここで動いてはならない。ゆりたちを待つんだ。
「あなたがジョン・スミスですか。リリシア・スミスの兄ということでよろしいですか?」
その中でも、一際豪奢なソファに深々と座った白髪の男が、僕に声を掛けてきた。
彼の両脇には、屈強そうな男が一人ずつ構えている。
「ささ。立ち話もなんでしょうから。そちらにお座り下さい。」
暴力団はただの荒くれ者とは違う。
少なくとも、互いが交渉を行う際は温厚で、礼儀正しい。
温厚で礼儀正しいだけで、いつでも襲う用意は出来ているらしいが。
勧められたソファ――白髪の男とテーブルを挟んで向かい側だ――に座ると、全てが理解できた。
好きなように陣取っているように見えた組員たちは、座っている僕を取り囲むように配置されていた。
なるほど。かなりの手練だ。
意味のない位置からでは意味のないように見え、意味のある位置に収まった途端――相手を威圧する魔法陣に早変わり。
「生まれつき目が悪いものでして。『これ』はお許し下さい。」
今の僕の格好は、アークの正装ではない。
連中が黒のスーツなのに対して、僕は白いスーツだ。
そして、顔にはサングラスを掛けている。
「構いませんよ。うちにもそういう人間がいますしね。」
組長らしき男は、僕のサングラスの件を大らかに流すと、早く聞きたいという風に、本題を切り出した。
「さて。」
おそらく、白髪の男が組長なのだろう。
「それでは、アークの情報を、お聞かせ願えないでしょうか?」

「強襲班、配置完了。そっちは?」
『狙撃班も完了です。後は期を覗うだけです。』
「分かったわ。部屋内部の詳細を報告して。特に人質の位置と、ジョンの位置を。」
『了解。』
ゆりはそのまま端末の無線を切った。
「すぐに突入しないのか?」
「今すぐはまずいわ。内部の詳細を明らかにしないと動けない。」
それにしても、あいつ大丈夫かしら――と、ゆりは言う。
「そんなに気負って考えなくてもいいんじゃないのか?この人数だし、何より指揮官はお前なんだ。必ず取り戻せるさ。」
俺が少しでも緊張をほぐそうとしてそう言うと、ゆりは更に深刻な表情になった。
「そういう問題じゃないのよ。問題は、輝が今の状況に耐えられるかどうか………。」
「そこまで深刻か?耀は無事なんだろ?」
「無事なんだけどね。万に一つ、億に一つでも失敗すれば、多分。あたしたちの班はもう機能しないわ。」
そんな事を言った。
「どういうことだ?」
今の俺たちはアークの正装――黒い作業着に黒いガスマスク。黒いスニーカーに黒い靴下、黒い皮手袋だ。そんな人間同士が会話している図は、かなりシュールだ。
「輝と耀、あの二人は特別なのよ。どちらかがいなくなってしまえば、もう片方もいなくなるのと同じなのよ。」
俺が首を捻っていると、横から煌が声を掛けてきた。
「そう難しいことでもないんだ。お前には話してなかったな。あの二人は、小さいころずっと孤独な生活を送ってきていてな。その後はずっと二人っきりだったから、どちらかがいなくなっちまうと、もう精神が保たないんだ。過去のトラウマのせいでな。」
………よく分からないが、とにかく絶対に死なせる事は出来ないというわけか。
「詳しい話は後日してやる。まあ、ゆりが緊張するのも無理はないって話だ。」
「あの二人が揃ってないと、班内の空気が死ぬのよ。あんた、毎日が今日みたいな空気でいいわけ?」
「………それは嫌だな。」
「でしょう?………連絡だわ。そろそろ突入するわよ。」
『リーダー、詳細を報告します。』
「どうぞ。」
『リリシアはこちらから見て部屋右奥、あなたから見て左奥の位置にいます。手足は縛られていて、目も塞がれています。我々から見て正面奥に組長らしき男、その男からテーブルを挟んでこちら側にジョンが座っています。どうぞ。』
「大体理解したわ。じゃあ、行くわよ。準備はいい?」
ゆりは俺たちを振り返る。
俺たちは全員、頷く。
『こちらの準備も完了です。いつでもいけます。』
「作戦開始。」
ゆりがそう言って端末の通信を切る。
同時に、ガラスが砕け散る音を聞いた。
同時に、ゆりが俺たちに指示を出す。