小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

表と裏の狭間には 十一話―とある兄と妹―

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
耀が誘拐された。

二月のある日のことである。
学校を終えた瞬間。
携帯にメールが舞い込んだ。
『from:ゆり
 Sub:緊急事態
 本文:すぐにSOS団に来なさい!』
「緊急事態………?」
俺は眉を顰めるが、ゆりが無駄にこうやって焦らせたりはしないということを思い出し。
結果、俺は急ぎアークの拠点、いつもの部屋に行くことになった。

「緊急事態って………あれ?随分人が多いな。」
俺が着替えていつもの部屋に入ると、そこには。
ゆり、煌、輝、理子、礼慈、そして見知らぬ人が二人いた。
「待ってたわ。事は急を要するの。作戦と一緒に説明するから、とにかく座りなさい。」
ゆりはそう言うと、俺が着席するのも待たずに部屋の電源を落とし、スクリーンを出して映像を投影した。
俺は、部屋の中に、二つの違和感があることに気付いた。
「あれ?耀は?あいつはどうしたんだ?」
「それも今説明するわ。ちょっと黙ってて。一刻一秒を争うわ。」
「…………。」
ゆりがここまで焦っているのも珍しい。
そして、俺が輝のほうを見た。
いつもヘッドフォン装着でへらへら笑っている彼は、俯いていて、表情が読めない。
そしてもう一つの違和感とは。
彼が、ヘッドフォンをしていない。
そこまで確認して、俺は、やっと、事態がそこまで重いことを認識した。
スクリーンに、地図と文字が映し出される。
「まずは、こちらの二人を紹介するわ。この二人は今回、行動を共にする班の班長よ。こっちがあたしたちと一緒に強襲する霞班班長、霞彦根さん。こっちが、狙撃による援護担当の大宮班の班長、大宮千津有希さん。」
「よろしく。」
「大宮だ。」
二人の男性、霞さんは大柄な成人男性。大宮さんの方は中肉中背の、こちらも成人男性。
二人の紹介もそこそこに、ゆりは次の話題に移る。
「次に事態の確認に移るわ。一時間ほど前、輝の携帯に電話があったわ。内容は、『貴様の妹を預かった。返して欲しくばアークの情報を開示せよ。期限は本日午後六時。』だということよ。現在時刻は四時半。あまり時間がないわ。」
輝に、『貴様の妹は預かった』と電話………?
輝の妹…………はぁ!?
俺は思わず叫ぶ。
「輝の妹って、耀のことか!?」
「紫苑!ちょっと黙ってて!驚く気持ちは分かるけど、今言った通りかなり時間がないのよ!」
ゆりに激昂された俺は椅子に座って黙り込む。
隣から煌が、
「悪いな。今全員必要以上にピリピリしてるんだ。八つ当たりは大目に見てくれ。」
と言ってきた。
……冷静に話してるけど、言葉の端々に苛立ちと焦りが滲んでいる。
「幸いなのは輝と耀の身元に関しては偽情報を掴ませられたこと。輝はジョン・スミス、耀はリリシア・スミスということになっているわ。もう一つ。耀を誘拐した暴力団は自分だけが利益を得たいらしく、情報を一切他に公開していない。だから、情報を漏らされる前に、一気に叩くわ。次に具体的な作戦を説明するわ。」
ゆりが手元のパソコンを操作すると、一旦マップが縮小される。
それは、光坂の地図だった。
その中の一点が赤く点滅している。
「ここが問題の拠点よ。敵は大蔵組。聖邪鬼組の傘下機関よ。」
「聖邪鬼の傘下だと!?」
「そうよ。だからそれなりの規模の組織よ。これも不幸中の幸いがいくつかあって、一つは今聖邪鬼組本体は活動を休止していること。もう一つは、敵が外部にことがバレるのを恐れているのか、大して人員を集めていないことよ。耀の現在地はこの、大蔵組本部。そこには大して人員がいない。手薄よ。ここを人海戦術の電撃戦で一気に潰すわ。」
おいおい。
学校終えてからものの数分で、随分なことになってるんだな。
俺の頭で俺なりにまとめると、敵は聖邪鬼組傘下の大蔵組で、アークの情報が欲しいがために耀を誘拐、輝を脅迫してきた。
いくつかの幸運が重なり、耀を奪還すれば全て解決し、奪還もまた容易なようだ。
しかし唯一の問題点は時間がないことで、既に一時間半を切っている。
「今回の作戦はこうよ。」
ゆりがパソコンをいじると、マップが立体図に変化した。
それは、ある部屋の中を表したものらしい。
赤く塗られた人が何人かいる。
これは、テレビのニュースなどでよく見る、事件の様子を分かりやすくするアレだ。
「まず、輝が一人で入るわ。」
ゆりの説明と同時に、部屋の中に青く塗られた人が部屋に入る。
「輝は一人で入った後、情報をある程度喋っていいわ。ただしなるべく時間を稼いで。その間にあたしたちは配置を終えるわ。」
図が移動し、事務所と思しき部屋のドアの前に集まる青い人の図と、向かいのビルの一室に集まる青い人の図が表示される。
「ゆり。一つだけ質問していいっすか?」
輝が初めて言葉を発する。
「なに?」
ゆりが答える。
「情報を喋っていいって、どういうことなんすか?」
「上層部から通達が来たわ。大蔵組本部にいる人間は全員殺害せよ。とね。」
「了解っす。」
「………霞さん、大宮さん、頼み辛いんだけど、敵の殺害、あなたたちの班に頼んでいいかしら?今更感は否めないんだけど、あたしたちもまだ高校生だし、何よりあたしの班には――」
「皆まで言わなくていい。それくらいは察せるよ。分かった。俺の班が担当しよう。」
「俺も同意する。」
「ありがとう!助かるわ。」
そんな風にゆりたちは会話しているが、俺は、別のことを考えていた。
………殺す?
ここが、そういうことも厭わない組織だってのは知ってたが、どうしても、いい気分じゃない。
俺が手を下さないとしてもだ。
目の前で人が死ぬ。
これからそれが確実に起こるというのに、いい気分でいられるわけがないだろう。
ただ。
それは、俺がこの組織に所属し続けると決めたときに、覚悟したことだが。
………………。まあ、いい。
俺がどうこうできる問題じゃない。
それについては、考えることを中断しよう。
「それと、上からはこれが送られてきたわ。」
ゆりは、取り出した鞄――無骨で頑丈そうな大きな鞄だ――を、机の上に置くと、それを開いた。
その中身は。
大きな鞄のほとんどが綿で埋め尽くされていて、その中に。
十発の、弾丸が。
白い、弾丸。
「閃光弾(フラッシュ)十発。アークの狙撃銃と同じ規格よ。大宮さんの班員は十人だったわよね?最初の狙撃で、これを一人一発、必ず撃ち込むようにとの達しが来ているわ。」
「了解した。そのように扱おう。」
「輝。これは閃光を発する特殊な弾丸。目を潰されないように気をつけなさい。」
「了解っす。」
「狙撃班の狙撃の直後、あたしたちも突入するわ。そのまま一気に制圧する。作戦は以上よ。作戦開始!後一時間。急ぐわよ!」

孤独だった。
十年前の話だ。
忌まわしき大災害に見舞われた。
1.15の悪夢――超々局地的大震災。
僕の故郷を見事に直撃した、震度7を超える大地震。
その余波だけで日本全国に大きな被害が出た。
その大震災の折。
両親が死んだのだ。
僕の家計は星砂家。
政界に多大な影響力を持った、高名な一族だった。
怨みを買うことも、多かった。
その最たるものが、聖邪鬼組だった。
犯人は、多分聖邪鬼組だ。
聖邪鬼組はただの暴力団ではなかった。
日本全国に配下の機関を持ち。