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表と裏の狭間には 九話―穏やかな日常―

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「うん!それに………楽しかったね!」
「まぁ………騒がしくもあったけどな。」
二人でついつい笑ってしまう。
こいつら、本当にテンション高いよなぁ。
『二次会行くかぁ?』なんて、カラオケを探してるし。
「まあ、明日は休みだし、今日くらいなら夜更かししても、いいかな?」
「特別にしちゃおっか!私たちも、二次会行きます!」
「やった!盛り上がるわね!」
なんて。浮かれて歩いていたのが悪かったのかもしれないな。

気がついたら手遅れだった。
なんて、ベタ過ぎる展開に驚いている暇もない。
「……油断した!」
礼慈がそう言ったが時既に遅し。
「右に六人、左に六人……。ついでに後ろから二人。前に道はナシ。やられたな。」
俺が把握し切れていない今の状態を煌が報告する。
「戦い手が足りないわね……どうするか。」
相手は全方位を囲んでいるらしく。
俺たちは互いに背中を押し付けるように、円になって後退するしかなかった。
「お兄ちゃん…………。」
雫が怯えたような声を出す。
俺は、せめて彼女の盾になろうと雫の前に出る。
「………武器は抜いちゃ駄目よ。問題になる。」
「だが、多勢に無勢すぎないか?」
煌とゆりが何かを話している中。
チンピラの一人が、声を掛けてきた。
「よぉよぉ……んんー?こいつ、最近来て調子コイてる新参クンじゃん?」
「あぁ?マジかよ?」
「へぇー。君ィ、結構派手にやってるみたいじゃないかよぉ?」
俺か?俺なのか?
ゆりたちは割と前からこの街にいるらしいし、新参といえば今年引っ越してきた俺だろう。
だが、もう引っ越して半年だぞ?
それに、こんなチンピラに絡まれるようなことやったか?
「新入りの癖してヨォ?可愛い娘引っ張りまわしてあっちゃこっちゃでイチャイチャしやがってよォ。」
「そういうの、俺らムカツクんですけどぉー。ちょーっと面ァ貸してくんねぇかな?ついでにそのお嬢ちゃんもさぁ?」
げらげらと笑うチンピラ共。
「アァン?こいつ、星砂じゃんかよ。うわ超ラッキー。こんなところでお目にかかるたぁねぇ?」
「おぉ?マジかよマジかよ。丁度いいじゃん。ついでに今までの借りィ返させてもらおうぜ。」
チンピラ共がどんどん活気付いていく。
「おい、どうする?」
「最低でもこの子達に怪我させないようにしないとね……。」
ゆりと煌が話し合っている。
っておい、その内容はなんなんだ。
「おぉ?よく見りゃこの女共、中々の上玉じゃんか。全員攫って全員でヤっちまおうぜ。」
「そりゃいいな。」
ぎゃははは、と、チンピラは品性の欠片もなく笑う。
「まーヤロー共は邪魔だからサンドバックコース四名様確定だけどなァ。」
「ひゃひゃひゃ!いいなぁそれ。サンドバッグを堪能した後とっかえひっかえ味比べってかぁ?」
だが。
いい加減、俺も我慢の限界、かな。
「後ろの二人を突破して、こいつらを逃がすか。」
「それが賢明ね。」
「逃がすと思ってんのかァ?」
左右の六人のうち、一人ずつが後方の二人に加わる。
「…………さぁて。」
俺は、いい加減頭に来た。
我慢の限界だ。
いい加減、もういいだろう。
「なぁ、ゆり。煌。」
「何よ、紫苑。」
「もう、我慢の限界だよ。」
「はぁ?」
「いい加減、殴ってもいいよな?」
「ちょ、紫苑、アンタ――」
「おぉ?俺たちとやる気ですかぁ?」
「テメェらに、一言だけ言いたいんだよ。」
「アァン?」
俺は。

「俺の妹に。俺の仲間に。手を出すな。」

可能な限りのドスを効かせて。
可能な限り睨みつけて。
そう、言い放った。
「ぎゃははははっ!強がってやがるぜ!この妹がいなけりゃ何も出来ない軟弱男が!妹を守るどころか妹に守られ――」
その不良は、最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。
何故なら。
俺が、一瞬で踏み込み、鳩尾を思い切り蹴り上げ、屈んだところで即頭部に踵を叩きつけるという二段コンボをぶち当てたからだ。
一瞬で昏倒するチンピラ。
「アァ…………?」
チンピラたちが突然の出来事に動揺した隙に。
「やぁっ!」
「はぁぁぁああっ!」
ゆりと煌が双方のチンピラに殴りかかる。
俺も、残った三人に次々と攻撃を加える。
一人の脛を思い切り蹴り、行動不能にした次の瞬間にはもう一人を相手に本気で一本背負いを決めてアスファルトに叩きつけ、残った一人は首筋に執拗な攻撃を加えて気絶させる。そして、最初に行動不能にしたチンピラの両肩を外した。
他の十人も制圧し終えたゆりと紫苑が、俺に声を掛けてくる。
「紫苑、肩を外すのはやりすぎよ。」
言いつつ、ゆりが肩の外れたチンピラの肩を嵌めてやる。
「ぎゃぁあっ。」
「騒ぐなよ。オレたちに突っかかって、その程度で済んでるんだ。感謝しろよ。」
煌が蔑むような視線で見下ろし、首筋を踏みつける。
するとチンピラは意識不明になった。
「しっかし、紫苑意外と強いじゃない。」
「ああ、まあ………な。」
そりゃぁ、なぁ。
「ふえぇ………お兄ちゃん………。」
「雫!」
緊張の糸が切れたのか、へたり込んでしまう雫。
倒れこまないように抱えてやる。
「大丈夫か!?」
「うん………怖かったぁ………。」
ひし、と俺に抱きついてくる雫。
「お前らも大丈夫か?」
「大丈夫っすよ。しかし今回はどうなることかと思ったっすけどね。」
「まあ、絡まれるのはいつものことなの。」
「いや、いつものことって………。」
「わっちは別に拉致られてもよかったんだけどなー。」
「……理子。不謹慎な発言は禁止。」
まあ、いつも通りのこいつらでよかった。
「皆動ける?こいつらが目を覚ます前に移動するわよ。」
「まあ、激昂されて襲い掛かられてもな。」
そんなこんなで、俺はまだふらふらとしている雫に肩を貸しながら、移動することになった。

「紫苑強いよねー。」
「ホント。何であんな格闘技出来るんすか?」
「……シスコンの引き篭もりではありえない。」
「本当にどうしちゃったの?」
理子に至っては俺のデコに手を当てて熱を測る始末だ。
オイ礼慈。シスコンは違うと散々否定してきたが、いつから引き篭もりが追加された?
まあ、みんなの疑問も当然だったんだがな。
俺は、昔雫とあいつが攫われたときに、思い知った。
ただ傍にいるだけじゃ、守れない。
あの時はお互いガキだったから不意打ちで何とか出来たものの。
あれから、俺は武道や格闘技を少々習った。
何故って。
雫を守るためにだ。
何かあったときに、俺が守ってやらなきゃ、誰が守るって言うんだ。
まあいずれは、この役割も誰かに――雫が選んだ誰かに引き継がれるのだろうけど。
今は、俺の役目だからな。
まあ、こんなこと口が滑っても言わないけど。
ま、アクシデントはあったものの。
今日も平和な一日だったな、と。
俺は思うのだった。

「不穏ね。」
「不穏だな。」
「不穏っすね。」
「不穏なの。」
「不穏だよね。」
「……不穏。」
SOS団部室――もとい、アーク関東支部の拠点、その一室。
ある日の話だ。
毎日が平穏だと思っている紫苑には悪いが、現在アークでは不穏当な動きがあった。
とはいっても、まだ表面化しているわけでは無いので、平穏といえば平穏なのだが。
「桜沢美雪。こいつが首謀者ね。」