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最初で最後の恋(永遠の楽園、前編)

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最初で最後の恋(永遠の楽園、前編)(1ページ〜66ページ)

▼創作者情報
・会員番号: 252373
・創作者氏名: ここも

▼作品情報
・作品ID: 51051
・ジャンル: 恋愛小説
・執筆状況: 完結
・ページ数: 66
・総閲覧数: 5721
・しおり数: 227
・応援メッセージ数: 78

▼あらすじ
沢尻 けいは 30才になる今まで、恋愛をしたことがなかった。

それがあるきっかけで 恋の炎の渦に巻きこまれる。

時の流れは 二人に 甘い天の川を用意していたが、次第に朱の色がまじり、
最後には、裏切りと破滅のどす黒い血の流れに変わる。

二人の命がけの恋は、神の定めた運命を切り裂き、輪廻の川をさかのぼり、永遠の楽園にたどりつけるのか。

皆さん、お久しぶりです。ここもです
よろしかったら、ここもワールド、堪能してください。
     
                   2011。6.4



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章タイトル: 第1章
-----------------------(p.1)-----------------------

                 (一)
 
 やっと、ここに着いた、あなたが死んだ場所。
あなたは、この岩場から落ちて、行方不明になった。私を残したまま突然、消えてしまった。
 
 私はやっと決心がついて、この、谷川岳、一の倉沢の岩場を、岩壁にしがみつき、鎖につかまりながら縦走している。あなたに逢うためにあなたと同じ場所で死ぬために・・
 
 きっと、あなたは私を迎えてはくれない、それはわかっている。あんな男に抱かれてしまった、あなたを殺した仇に私は抱かれてしまった。
 
 あいつを殺して今、私はここにいる。あなたはゆるしてくれるはずもない。でも私はあなたのそばで死にたい。どうしても、あなたのそばに行きたい、ゆるしてくれなくてもいいんだ。

一の倉沢は相変わらず、濃い銀色の霧のカーテンで谷間のあなたと私の間に厚い結界を作っている。やがて銀色のカーテンは金色に変わった。夜明けだ。

 谷間からの、竜の天上りの様な強烈な谷風が急にやんだ。金色のカーテンに穴が開き、谷間からの、一筋の冷たい風が私の頬をなでる。

 ああ、あなた、あなたなの? 汚れた私をゆるしてくれないの、でも私はあなたのそばにいきたい、いやだといわれても私はあなたのそばにいきたい。
 
 わたしは涙で霞む目をあなたがいる谷間にむけた。金色のカーテンを縫ってあなたの吐息のような風がまた、私の頬をなでる。

 私はあなたのいる谷底に向かって飛んだ。

-----------------------(p.2)-----------------------

 弘と出会ったのは、渋谷にある登山専門店だった。

 高校、大学をずっと山岳部で過ごした私は、大手の製紙会社の総務課に就職してからも 休日は、どこかの山の中か、登山関係の店にいた。
 
 学生時代、訓練の厳しいことで知られるK大の山岳部にいたおかげ(女と見てくれない連中といたおかげ)で、恋愛経験がなかったわたしは、今だに化粧化のない日焼けした顔にショートカットの髪、服装も Tシャツに ジーンズといったスタイルで、おまけに、山に登るために、筋力トレーニングを毎日していて、まるで男だった。

 そんなわけで、自己採点で器量は人並みだと思うのだが、恋愛の機会もなく、私自身もあせりも感じておらず、一人暮らしのアパートから山と会社への往復で、瞬く間に月日は流れた。

 来月は三十回目の誕生日を迎える九月の休日、弘と出会う。この時、私はまだ、処女だった。
 
 渋谷にある行き着けの登山専門店に行ったのは 夏も終わり、空が高くなって、穂高の尾根が急に恋しくなり、はきふるした登山靴を買い換えるためだった。

 この店の店主は、若い頃、チョモランマを初め、世界の名だたる山を制している世界的に有名なクライマーだ。
なだれに逢い、右腕と左足を凍傷で無くしてからは、この店の店主として暮らしている。
 奥さんはいない、奥さんも有名なクライマーだったが、なだれで亡くなった。あのなだれで生き残ったのは、店主だけだったのだ。
 
 店主は、凍傷で残った左手の指の、人差し指と小指でたばこをくゆらせながら、いつものロッキングチェアーにすわっていた。私を見つけると、山男特有のくったくのない笑顔で言った。

-----------------------(p.3)-----------------------

「おっけいちゃん、いいところにきたよ、ちょっと、見てやってくれるかなあ、ほらあそこのお客さん。」

見ると、透き通るような肌に 肩までの髪、ポロシャツにジーンズ姿の二十五前後の女性が 登山靴の売り場の前で たたずんでいる。

「良ちゃんは、どうしたの?」

私は店主の息子でクライマーの田中良助を探す。いつも、店の切り盛りをしているのだ。

「良のやつは、やっと、金のあてがついて、今、ネパールに行ってるよ。」

「えっそれじゃ、いよいよ、チョモランマに行くの!」

急に白いものが増え始めた髭をさすりながら店主は答えた。

「ああ、ほんとは もう少し、経験を積んでからの方がいいと言ったんだが、そんな事、訊くやつじゃないだろ。」

 この根っからの 山男が、すこしうつむき、さびしそうな、おびえているような、表情をみせた。
私は、店主の初めて見せる表情に胸の奥が締め付けられた。自分自身の右手、左足、仲間、そして、最愛の奥さんを奪った、チョモランマ。その山に、今度は一人息子が向かっている。
今まで、幾多の苦難を乗り越え、生き残った店主が始めて味わう、恐怖に違いない。

-----------------------(p.4)-----------------------

すぐにいつもの 山男の笑顔に戻った、店主が言う。

「だからさ、今、バイトの子が飯に行っちゃってるんだよ、けいちゃん、あそこのお客さんの相手、たのむよ。」

じいっと 登山靴を眺めているあきらかに登山未経験者と見て取れる女性に声をかける。

「なにか、お探しでしょうか?よろしかったら、お手伝いいたしますが。」

「すいません、初めての登山なんで、なにをどうそろえていいかわからなくて。」

 細おもてだが、意思の強そうな口元と真っ白な白目の大きな目を私に向けて彼は言った。
彼、そう、男性だったのだ。

 その時の私の顔はきっと、口を開けて、だらしない顔だったにちがいない。床に落ちた金魚の様に息ができなかった。そう、私は、一目ぼれとやらの病にかかってしまったのだ。

 それからの事はよく覚えていない。店主の話によると、重度の高山病にかかった様な顔をして、夢遊病者の様に、接していたそうだ。それでもどうにか、、登山用具を選びだし、男性は満足して帰ったそうだ。

 心から良かったと思った。そしてさっきのあの動悸の訳を考える。一目ぼれときずくまでに、子一時間かかった。