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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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リブレ

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「お父さんもお母さんも……殺されて……」
「殺された? 誰にだ?」
「……わからない……でも、みんな殺されて、それで私逃げて……」
「落ち着いて話してみて下さい」
「……覚えてないの」
 ジェイクはクィンを後ろに引っ張り少女の聴こえない所で、
「どう思う?」
「たぶん、ショックのあまり一時的な記憶喪失になってしまったのでは?」
「取り合えず近くの村まで連れてくしかないだろ?」
「でも、僕たち道に迷ってるんですよ」
「だいじょぶだ」
 クィンはこの言葉を何度聞いて何度だまされたことかと思ったがここはあえて何も言わなかった。
 ジェイクは少女に近づきこう言った。
「立てるか?」
 少女は小さく頷くと身体をゆっくりと持ち上げた。
「取り合えず村まで行こう、話はそれからだ。村の位置はわかるか?」
「……はい」
「(自然な誘導の仕方だ)」
「じゃあ、村まで一緒に行こう」
 トラブルには見舞われたが二人の若者は少女の案内によって、どうにか目的地であるアニスの村まで行けることとなった。
 アニスの村への道すがら少女は気を持ち直し元気を取り戻し三人は軽い自己紹介をした。少女の名前はソフィアというらしい。
 いろいろなことを話すうちに時は流れ、三人の前方に村の入り口が見えてきた……。

 アニスの村――。
「大きな村ですね」
 クィンがそう言うのは当然だ。都と呼ばれる世界各地にある巨大都市を少しでも外れたとたん、文明のレベルは著しく下がり、大地は荒れ果てた土地となる。そこに存在する村は、自然災害や魔物の襲撃などにより大抵は大きくなることはない。しかし、例外もある。
「はい! この村は古代文明の研究をしていて、産業が発展したんです」
 古代文明とは主に古代人の残した遺跡のことと機械、そして、魔導のことを指す。
「懐かしいなぁー、前に来たときは5歳くらいの時だからな」
 懐かしそうに辺りを見回すジェイクに対して、クィンは少し驚いた表情をして、
「えっ! 今、何て言いました?」
「『 懐かしいなぁー、前に来たときは5歳くらいの時だからな』って、言ったんだけど……それが、どうかしたか?」
 その言葉に対してクィンは、もう、うんざりといった表情で、
「……5歳。『近道しよう』って言ったときはもちろん道を覚えてたから言ったんですよね?」
「いや、しかも実を言うとあの森に入ったのは今回が初めてで前に来たときは街道を馬車に乗ってこの村に来た」
「……はぁ」
 クィンは、もう、どうでもいいといった感じだ。
「あ、あの……」
 ジェイクとクィンは同時にソフィアに振り向き、クィンが尋ねた。
「何ですか?」
「あ、あの、この村におばさまの家があるんですけど」
「そうだな、まずはそこに行くか」
 程なくして三人はソフィアの伯母の家の前にいた。
「あのさぁー、ここがソフィアのあばさんの家?」
 ジェイクが指を差す先には宿屋を書かれて看板があった。
「はい、おばさまは宿屋の経営をしていて」
「クィン、ちょうど良かったな宿屋探す手間が省けて」
「そうですね」
 ソフィアは家のドアを開け中に入って行く、それに続いて二人も家の中へ。
「こんにちはおばさま」
 家に入ってきたソフィアの声を聞いて、部屋の奥から出て来たのは中年の女性だ。
「まぁ、どうしたんだいソフィアちゃん?」
 少女は中年の女性の顔を見た途端、何かが弾けたように突然目に涙をいっぱいためて中年女性の胸に抱きついた。
 涙をいっぱいに浮かべたソフィアはおばさんのことを見上げて言葉を精一杯紡ぎ出した。
「家にモンスターがいきなり入って来て……お父さんもお母さんも殺されて……」
「本当かい? ……あたしには何て言っていいのかわからないけど、できるだけのことはしてあげるよ」
「ありがとう、おばさま」
 ソフィアは涙を拭き取りすぐに笑顔を作った。
 こうでなければ今の世をを生き抜くことはできない、強く生きなければこの世界を生き抜いていくことはできないのだ。
 中年の女性はソフィアの身体を強く抱きしめ少しの間そのままで時間が過ぎていった。
 ややあって――。
「んっ、後ろの人たちは誰だい?」
 どうやらやっと、この中年の女性は後ろの二人に気付いたらしい。
 それに対して、ソフィアは簡潔にことのあらましを説明をした。
「あ、あの、この人たちは、私が森でゴブリンに襲われていたときに助けてくれたんです」
「そうかい、私からもお礼を言うよ。今日は家に泊まっていくといい、もちろんタダでいいよ」
「サンキューおばさん!」
「ありがとうございます」
 クィンは最高笑顔を浮かべ中年女性を見つめた。その笑顔を見た中年女性の頬が桃色に染まった。これはクィンの必殺技の営業スマイルだ。
「二人は二階の奥の部屋を使っておくれ、ソフィアはいつもの部屋でいいね」
「じゃあ、俺は休むわ」
 ジェイクは足早に2階に上がろうとしのだが、その足が不意に止まった。
「モンスターだ! モンスターが出たぞー!!」
 外から男の大声が家の中まで鳴り響いた。
「……何っ!」
 ジェイクの手が直ぐに鞘にかかった。
「はぁ、僕らに休息の時間[トキ]はないんですかね」
「ぐずぐず言ってねぇで行くぞっ!!」
 二人が宿の外に駆け出して行くと、
「あ、待って下さい」
 と言ってソフィアが続いて外に飛び出して行った――。

 二人が宿を出るといきなり足元に男が降って来た。
「何だ?」
 そう言いながらジェイクが男の飛んで来た方向に目を向けるとそこには、またゴブリンが!!
「また、ゴブリンかよ」
「オレノ、ナカマヲコロシタ、ヤツラヲダセ!!」
「僕らのことですかね?」
「たぶんな……。来やがれ、オレが相手になってやる」
 ジェイクは剣を抜き構えた。ジェイクが戦闘態勢を取ると横から水を差す言葉が聞こえた。
「実は、さっきから変だなぁと思っていたんですけど……ここも、結界が張っているらしくって……」
「またかよ」
「でも、さっきよりはマシで初歩魔法ならいくらでも」
「もういいよ、ここも俺に任せろ!」
「……申し訳ない」
 地面に切っ先を擦るようにジェイクはゴブリンに走りより剣を振るった。そのスピードは驚異的でありゴブリンは避ける暇も無く左腕を切り落とされた。
 腕を失ったゴブリンは半狂乱になり、残った腕を振り回してジェイクを殴ろうとするが一発も当たらない。
「なんだそのパンチは親父のパンチに比べりゃー、止まってみえるぜ!」
 相手をからかうようにパンチを紙一重で避けている。そして、ゴブリンの一瞬の隙をついて剣を地面から上に斬り上げた。
「ウゴォーーー!」
 モンスターの身体は雄叫びとともに二つに割れ地面に倒れた。
「ふぅ、さすがに今日はもう疲れた、俺は宿に帰って寝るぞ!」
 剣を鞘に戻すジェイクの額からは汗が少しだが滲んでいた。
「そうですね、今日はもう宿に帰ってゆっくり休みましょう」
 二人が宿に帰ろうとすると、何者かに後ろから呼び止められた。
「待ってくれ」
 ジェイクはもの凄い不機嫌な顔をしながら首だけを動かし後ろを振り向くとそこにはハゲ頭の中年男性が立っていた。
「何だよ、おっさん」
 近くにいたソフィアが突然口を開いた。
「あっ、村長さん」
作品名:リブレ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)